第2話
時刻は午後12時を回ったところ。ササミヤ ユウマ(笹宮 遊馬)は市街の警察署の玄関でグッと背伸びする。
例の事件で早朝から警察署の取り調べ室にブチこまれて、狼男の警察官もとい友人であるダンにいくつか質問されたあとに、ユウマを放置してダンは外に。その後は数時間待たされた後に、釈放されたというのが午前中の出来事。
しかもちゃっかり夜に例の店で酒を飲まないかなどという誘いをダンから受けたあたり、ユウマを全く犯人と疑ってなかったらしい。何時間も固いパイプ椅子に座らされて、腰が死ぬほど痛いが、ユウマは『自分の世間の評判』がどんなものか知っているので、ダンに文句も言わず、出てきた。
「でも、やっぱ痛ぇなぁ…。こういう時ってどんな薬が効くんだ?」
彼は腰をさすりながら、押収された自分の原付に跨り、警察署を後にした。
◇◆ ◇ ◆ ◇
この街円錐状の立体構造になっており、ざっくり『ハイ』『ミドル』『ロー』の地区に分けることができる。ユウマ達が突撃していった酒場がある地区はローの地区。あまり治安がよろしくない場所となっており、犯罪の温床となっている。
そしてミドル地区は一般的な住宅街および警察署や病院、学校といった生活に必要な施設が揃っていっており、ユウマが今いる地区もここになる。そしてハイ地区は政治の中枢機関と一部の高給取り達が住む地区となっている。
そしてユウマが今向かっているのはこの都市最大の教育機関である『学院』。彼は学院の原付を駐輪所に止め、目当ての人がいる実技棟へ歩を進める。
目当ての人はこの場所で魔術の講師をしていて、若年ながらも優秀な魔術師として周囲からも認められている人間だ。今も授業の真っ最中なのか実技棟の一角から物凄い轟音が響き渡っていた。
「なにやってんだ、アイツ」
ユウマは何事かと例の部屋に駆け足で向かうと、ちょうど黒い煙と共に咳き込む生徒たちが出てくるところと出くわした。事情を聞けば、教師が魔術の行使に失敗し、術式が暴発してこの有様になったとのこと。
「あぁ!もう!ここじゃ魔素が全然足りない! だから部屋変えてって何度も学長に申請してるのに!」
そんなことを口にしながら生徒と同じように咳き込み、同時に煙を吐き出す金髪の女性が出てくる。見てくれは美人だというのに、この有様の女性こそがユウマが探していた人間。
汎用魔術と言われる一つの魔術体系を習得している若き魔術師、名は『リンナ=フォンフィールド』。そして人は彼女を『異端の魔術師』と呼ぶ。
「あ、ユウマ。私が最近考案した立体魔導陣の練習台になってくれない?」
「イヤだ」
由来は把握していないが、おそらくここら辺が異端と言われる所以じゃねぇかなとユウマは密かに思ったのであった。




