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第10話


 ユウマが見つめる10m先には虎の獣人にエルフ4人が武器を向けている。そして武器を持たない人間二人は以前ピッキングを続けている。どうやら戦力外なのか、技術者として彼ら一味に加わっているらしい。



「これはこれは『死人追い』のMr.ササミヤ。月が綺麗な今夜に物騒な気配を醸し出して、どうしたんです?」


 一味を代表して虎の獣人がケラケラと戯ける。ユウマは舌打ちをして続ける。


「人ンとこ事務所の前で物騒なもんだしてる連中に言われたくない。一応親切心で一生懸命弄ってる鍵穴の上にドアノッカーがあるってのに何してるんだ」

「いやぁ家主さんがうちのクライアントの大事な商品を抱え込んじゃってね。最初はキッチリ礼節を(わきま)えた行動を取っていたのですが、どうにも頑固で。Mr.ササミヤも手伝ってくれませんか?」


 こんな下らない話の間にも両者はつま先まで神経を尖らせ、相手の飛び出すタイミングを見極めている。互いに視線を合わせ、徐々に切り詰めた空気に変わる。

 常人なら叫びたくなるような状況。そんな空気の中、思わず後ろに待機するエルフが持っている魔導書を握り締めた微かな音を合図に戦いの幕が切って落とされた。


◇◆ ◇ ◆ ◇


ユウマと虎の獣人の距離はおよそ7m。どちらも銭湯スタイルは近接型であるため、互いに近寄るのは必須。また人間と獣人の筋力差や図体を考えれば、圧倒的に獣人に分があり、数においても獣人側が有利をとっている状況だった。

そもそもとして個々の種族戦闘力においても人間は下位の存在であり、正面で対面していることが愚の骨頂と言える。


そのような状況でユウマは『待ち』を選んだ。


 虎の獣人は自慢の豪腕をユウマに向けて駆ける。ズバァッッっという風切音と一緒に目の前に現れる獣人は認知するには早すぎる拳を繰り出した。人間になど到底避けられるはずもないもの。


しかしユウマはそれをいとも容易く受け流し、余りある獣人の力を投げる力に変換させ投げ飛ばした。


彼に人を凌駕する身体能力や瞬発力はない。ただ『先を視る』目を彼は持っていた。そしてそれに答えることができる武術も有している。

その能力と技術こそが齢10と幾つかしか満たなかった人間が化け物揃いの大戦を生き抜かせた術の全てである。


轟音を鳴らして虎の獣人はその巨体を 背中から叩きつけられる。獣人の仲間たちは、一瞬の出来事を理解し切れていないらしく目を丸くしている。

 対してユウマは


「久しぶりで鈍ってるかと思ったがギリギリだな」


となどと手を息で冷ましながら呟いている。


 ことの次第を述べるなら、待ったユウマは『視て』技術のない真っ直ぐのパンチが飛んできて、自分の骨や内臓が衝撃でズタボロになるのを確認。そうはさせじと合気道や柔道のチャンポン武術、そしてオリジナルの技術を使い、パンチの力をちょっと吸収。

 獣人の重心が崩れたところで力を足で解放し、同時に投げの体勢に入って投げた、という訳である。


「本来ならあのタイミングなら衝撃が暴走して手が吹き飛ぶ一歩手前だったけど、アルナの攻防強化瓶のお陰で耐えれたな。ほんとギリギリ、二度としたくねぇな」


 投げ捨てた瓶のほうを見やるユウマ。アルナからもらった赤と青の小瓶は筋力増強及び体質硬化の魔術が掛かった液が入っていたものである。それを服用すればお手軽ながら、凄腕魔術師に強化魔法を掛けてもらった状態になる。といっても効果は3分から4分ほどでそう長く持つものではない。

 ユウマは動かない虎の獣人の巨体をヒョイと飛び越える。そして魔導書を構えて固唾を飲む敵陣営を一瞥する。そして不敵な笑みを浮かべた。


「よぉ、ヤンチャで哀れな羊ども。構えてるってことはヤル気だな?」

「…あぁ! ボスがやられておいそれって逃げられるかってんだ‼︎ テメェらもやるぞ!」


 先頭にいたエルフが代表してユウマに向かって叫ぶ。しかし威勢と裏腹に足はガクガクで本心が見え隠れしている。


「その粋やよし…なんてありきたりな言葉だが、やってやるよ」


そう言って彼が普段着ているコート-耐魔術用のコートを盾にして走り出す。彼は元軍人で特異性質の持ち主だ。普段チームで動いていたと言え、このようなケースを軍人相手に幾度も潜り抜けてきた猛者。対してチンピラに毛が生えたようなグループになど勝機など万が一つなどなかった。


◇◆ ◇ ◆ ◇


「あらかた片付けたし、ダンの方に助けに行くか」


ピッキングしようとしていた人間も含めて、気絶させてことなきを得たユウマは獣人二人を相手にしているダンの方に向かおうとする。彼はその時久しぶりの戦闘で勝利を収めたこともあり、気の緩みがあった。その隙を作るのはまだ早かった。



虎の獣人をまたごうとしたときに、視界がギュインと高速で流れた。ユウマの眼は次のフレームにピントを合わせる前に背中に強烈な衝撃が走る。



ギリギリで頭も強打しないよう身体を調節したので気絶までは行かず、身体も疑似強化魔術で骨が折れたりはしていない。しかし視界はきちんと前方を認識できずにいた。そんな状態でも彼の視界の視界には黄色の巨体がむくりと立ち上がるのが見えた。



「…さすがに部下がやられてる横で気絶なんてできねぇよな?」

「…おい、冗談かよ」

「そのおめぇの認識に『冗談かよ』って言いてぇな、俺は」



「獣人を舐めるなよ。人間風情が」


 4分を超えて魔術が消えた感覚がユウマを襲う。それはここからは人間レベルの筋力、防御力で戦わなければならないことを意味している。


 ユウマ側に傾いていた天秤が再び虎の獣人側に傾きだした。


現状が忙しすぎるので、不定期に変わります。ご了承ください。

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