第8話
「ごめん、アルナ! 用事が出来た!」
時はユウマのショートメッセージにレイからの救援要請が送られてきた直後。ユウマはダンと共にガタン!と乱暴にバーの扉を開けて、開口一番にアルナに告げた。
先程の気落ちした雰囲気から一気に血相を変えて飛び込んできたユウマを見て混乱するアルナ。しかし彼女は一瞬で落ち着きを取り戻す。
「待って。一回深呼吸してから、何が起こったか教えて」
彼女の目はさながら戦場で活躍していた時のリーダーの目、アルナは非常事態だということを理解しているようだ。
ユウマは言われるがままに深呼吸し、送信されてきた文面を見せる。
文面を見ながらも、彼が居ても立っても居られない様子がからうかがえた。彼が思う節は妹さんであることは自明であり、同時にきちんと足元を確認出来ていないのが見て取れた。
「…レイくらいなら相手が何人か分かりそうだし、セキュリティもそれなりにありそうだけど。急か…罠か…」
アルナは金色の髪が掛かる長い耳をクルクル回しながら、小声で呟く。そして彼女は纏めた作戦を話す。
「ダンのバイク、タンデム出来わね?」
「あぁ。ユウマぐらいのモヤシっ子なら十分過ぎるぐらいのだからな」
「そしてユウマの『銃』はまだ無理?」
「…遺憾ながらモヤシっ子だからな」
「ならユウマとダンはレイの事務所の近くまで先に急行して待機。私はリンナちゃんを起こして後を追うから。ただし予想より多いか兵装が強力ならダンがタンク兼アタッカー、ユウマはサポーターとして突撃して、鎮圧して。そっちの判断はダンに任せる。OK?」
そう言って彼女は赤液体と青の液体がそれぞれ入った小瓶とを胸から取り出し、即座に何かを書いたメモとユウマとダンに共に渡す。そして酔って寝ているリンナに酔い醒めの魔術を唱え始めた。ユウマたちは何も言わず受け取って、出て行く。
それは『戦場で生きて帰ってから返事を返す』というこの組んでいたチーム内での慣しだったものに準えてのものだ。
この時、彼らは何か日常に中で溶けていたものが再び形を成したように感じたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ユウマとダンを乗せる大型魔導式バイクが夜の道を駆ける。
ダンは回転灯をつけるかという、ユウマの心情を案じて職務権限ギリギリの提案をしてくれたが、ユウマは丁重に断った。いくら友人と言っても限度はあるというのは建前で、ユウマは『妹に似た少女の身柄を拾う』という誘拐紛いのことをしているのが後ろめたかったからというのが本音であった。
そんなことも十分理解してくれていて、なおも協力してくれている彼らに十分感謝していた。もちろん謝られるなんて思っていなかった訳で、ユウマ自身が謝りたいところだった。しかし彼らに謝り返すのは無礼千万に思えたユウマは言葉を飲み込み、行動で答えることにした。
『今までごめんなさい。これからは今までの分も合わせて手伝うから』
アルナからもらったメモに書かれていた言葉がこれだった。この内容を反芻していたユウマはダンの言葉も重なって、思わず呟いた。
「…夫婦かよ」
『あぁ? なんか言ったか?』
「なんでもねぇよ」
『なんだよ。それより着くぞ、気ィ締まっていけ‼︎』
インカムで聞かれていたようで、ユウマはさも何も内容に取り繕う。しかし心の中では恥ずかしくて言えない感謝の気持ちを改めて述べるのだった。




