"俺"
まんなかくらいです。
最低な気分だ。何も悪いことなんかしちゃあねえってのに、なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんねえんだ。ちょっとお金を奪って邪魔してきた奴のぶちめのしただけだろう。俺はむしろ被害者だ。これまでそこそこ真っ当に生きてきたのにろくに金が貰えなかったからこそ俺は強盗したんだし、邪魔されなきゃあいつらを怪我させる必要もなかった。だから俺は悪くない。それは間違いない。だが今の状況はどうだ、俺が極悪人だって何かの実験台にしようとしてやがる。なんとか更正プログラムとか言うやつらしいが、そんなもののことはどうでもいい。それよりも今は俺を不自由にしているこの手錠が憎い。これのせいで逃げ出すこともこいつらをぶん殴ることもできやしない。さっきからどうにか外せないかもがいてはいるものの、カチャカチャうるさいだけで全然動く気配がない。
そうこうしているうちに、どうやら準備が終わったらしい。研究者っぽい奴の一人が俺に向かって話しかけてきた。
「これからあなたには人格更正プログラムを受けてもらいます。基本的に元の性格とはかけ離れた人格になってしまうかと思いますが、記憶と知識は維持されます。このプログラムが終わればあなたの暴力的な性格は消え、清々しい気分になると思いますよ」
「うるせえ!そんなのどうでもいいから早く手錠を外しやがれ!」
「それは駄目です。プログラムも拘束されたまま受けてもらいます。これでも緩くしたほうなんですから」
「黙れ!いいから外せよ!!!」
「お断りです。そろそろ始めますね」
何か言う前に、俺は気絶してしまったようだ。あいつらは俺を実験用のモルモットか何かに思ってるに違いない。扱いが酷すぎる。
目が覚めると、そこは何もない空間だった。真っ白で、どこまでも続いている。どこが近くて遠いのかわからないから、見てるとだんだん気分が悪くなってくる。ま、気分なんて最初から最低だったがな。
「これより、人格更正プログラムを開始します。音声の指示に従ってください」
突然機械っぽい気持ち悪い声が頭の中に響いてきた。指示に従えだと?お断りだね。そんな俺に構わず声は続ける。
「まず、これからあなたの善意から構成された人格が現れます。彼はこの世界を自由に操ることができる権限を所有しています。彼は構成されてすぐの段階では記憶を失った状態ですが、すぐに思い出します。そうすれば善意しか持たない彼はきっと元の暴力的なあなたを削除しようとするでしょう。それまでは今までやって来たことを悔いていてください」
こいつ、頭の中が気持ち悪いから黙って聞いていれば随分と勝手なことを言ってくれる。まず第一、俺の善意から人格が構成されるとか意味不明だ。しかもそれが現れるとは。ここが頭の中とかって言うのなら説明はつくし、それに違和感はない。つまりそういうことだろう。俺は段々ムカついてきた。なんだってこれまでやってきたことを悔いるとかそんなことしなきゃいけないんだ?別に俺は悪いことはしてない。どうにかしてこれを作った奴を出し抜きたい。そうだ、善意だけの俺は最初は記憶がないらしいから、思い出すまでの間に適当吹き込めばいいのか。我ながら賢いと思う。システムの欠陥を突いた実に素晴らしい案だ。そうなれば、あとは出てくるのを待つだけだ。待っている間に適当な文句を考えておこう。何か詮索されたら面倒だしな。そう考えているうちに、気がつくと目の前に俺がいた。
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