062(ニューチェーン)
バサラを乗せたフライングバスは何機ものフライングカーとすれ違う。アンタレス所有の物だ。民間機のフライングバスと違い、高速で飛べる。時速700キロメートル程で。フライングフォーミュラカーともなれば、マッハ2以上も出せる。
「支部や夜勤組で対処出来るといいが……」
キノがそう呟いた時、バサラの腕時計型ウェアラブル端末に通話が来た。初田主任からだ。
「初田主任、どうした? チェーンの改良は済んだか?」
「ああ、真田隊員、完成したぞ。アールが手伝ってくれた。今、どの辺りだね?」
バサラは窓から外を見る。
「松本城が見える。松本だ。民間機のフライングバスだから、後40分はかかるよ」
「夜勤隊が慌てて行ったようだが、大丈夫かね?」
「あんまり芳しくない。用意しといて」
「任せなさい。じゃあね」
ピッ。次にバサラは昴に通信を入れる。
「ピー……ピー……。ピッ。…………バサラさん、生きてたのね」
「昴さんの前科は……消えてないよな」
「今井って女からコンタクトがあって、警察と司法取引をしたわ」
「マジか。良かったね」
「但し、ナコシの殺害もしくは捕獲に協力するのが条件。事が済めば、私が何度もやった銀行の電子マネー窃盗を無かった事にしてくれるって。もう少し付き合うわ」
「そうか。じゃあ、上田市の特殊刑務所を衛星映像で張ってくれ。ナコシがプリズンブレイクしたようだ」
「分かったわ。すぐに取りかかる」
ピッ。
ーーバサラ達は、アンタレス飯田基地に着き、急いで装備を整える。バサラのチェーンはアールが持ってきた。
今井長官代理がサソリに状況説明をする。
「フライングバスは全て、ドックに入ってるわ。フライングバイクが1台だけ」
「俺が行く」
バサラはそう言ってから、駐輪場へ行く。すると、昴から通信が入った。
「昴さん、状況は?」
「ナコシとノーネーム、それと人間1人が飛行円盤に乗って逃げたわ」
「人間ってのは多分、俺のオリジナルだ」
「徳川バサラ……生きていたのは本当だったのね」
「厄介なことに。特殊刑務所の状態はどう?」
「滅茶苦茶よ。三方向からアンタレスが来て、事に乗じて逃げ出すテロリストを追ってるわ」
「ナコシはソイツらを助けないのか。どれくらいの数?」
「逃げてるのは100体くらい。他の支部のアンタレスが総動員されてるようね。じきに終わるわ」
「ナコシ達はどこに逃げたか判る?」
「移動距離が短い……おそらく、長野県上空の母船ね」
「分かった。ありがとね」
ピッ。バサラは通信を切ると、キノが来た。
「バサラ、小森昴は何だって?」
「ナコシとノーネームと俺のオリジナルは長野県上空の母船に逃げたって」




