032(志願者)
バサラは色々考えながら、木村の後を着いていく。警察の御用になる心当たりは大体ない。それに、木村が同行する。今までに、こんな事はなかった。
バサラと木村は1階の応接室に着く。ドアは開いている。中にはスーツを着た男性が1人居た。顔や手には傷痕だらけだ。男性は立ち上がり、敬礼をする。
「飯田警察署の正木巡査であります。私をアンタレスに加えてください!」
「ちょっと待て。いきなり、そんな事を言われても、俺達じゃ判断出来んぞ。なあ、木村」
「正木巡査は鼎一色のテロ事件で、ただ1人の生存者だよ」
「そうか。重体だって聞いてたが、回復したか。良かった」
「アンタレス隊員の試験を受けさせて下さい! 木村巡査部長のためにも」
「俺の弟のために立ち上がってくれたんだ。無下には出来んだろ? ハイブリッドは長官と仲が良いし、話を着けてくれないか?」
「織田長官は親みたいなものだが、俺は人事までは介入出来ないぞ」
「試験をパスすれば問題ないだろ?」
「正規の入隊試験まで3ヶ月もある」
「そこをさ、何とか織田長官に頼み込んで。……弟の仇は、俺と正木が討つ」
「…………分かった。頼んでみるよ」
「ありがとうございます!」
正木はまた敬礼をする。
バサラはウェアラブル端末で織田長官と通話する。
「真田隊員、おはよう。朝早くにどうしたね?」
「おはようございます。お話したい事が2つ」
「なんだね?」
「1つはアンタレスの入隊試験を前倒しして、近日中にやってほしいのですが」
「ほう。活きの良い候補生でも見つかったかい?」
「まあ、そんなところです」
「キノ君から聞いたが、特命チームをサソリと名付けたそうだね。その候補生はサソリに入れそうかい?」
「そこまではまだなんとも」
「まあ、いいだろう。特例で明日にでも試験の用意をしよう。2つ目はなんだい?」
「2つ目は、長官室でお願いします」
「分かった。後で来なさい」
「それでは、失礼します」
バサラは、木村と正木に試験の事を伝え、長官室へ行く。バサラは真意を確かめたい。
バサラは長官室に着き、ドアをノックする。しかし、返事がない。
「失礼します、織田長官。…………入りますよ」
バサラはドアを開けて中に入る。織田長官は電子書類を整理していた。バタバタと慌ただしい。
「真田隊員。今から京都に出向だ。明日には帰ってこれるから、話はその時でいいかい?」
「急ぎのようですね」
「済まないね。小暮総理大臣に呼ばれてね」
「総理大臣にですか。昨日は東京に居ましたよね。テレビで観ましたよ」
「どうだい。格好良く映ってたかい?」
「ええ、ああ、まあ」
バサラが返答に戸惑ってるのを見て、織田長官は「ハッハッハ!」と笑う。バサラの話が長くなることを見抜いていた。
「サソリの詰めの意見交換をしてくる。隠密にね。それでは行くから。指揮権はキノ君に移す。さっきの試験の話だけど、キノ君がGOサインを出せば今日でもいいよ。じゃあね」
織田長官は行ってしまった。
「ちょっとくらい話しは出来たかな? いや、足を引っ張る訳にはいかない」




