031(吉田の任務)
「……ヨッシー? ヨッシーじゃないか!」
「よう」
「どうしてここに?」
「超音速旅客機に乗り替えて。そこのキノ少佐に喚ばれてな」
「ソルジャーネットでコンタクトを取ったんだ。吉田中尉は前からナコシをマークしていたそうだ」
「その通り。だから、ナコシが隠した金塊を盗んだ事がバレても、減給にすらならなかったろ?」
「どういう事だ!?」
「ナコシの金塊を盗むのが指令だったんだよ。軍が関与してないように、装うために闇サイトを使って。裏切り者が出たのは想定外だったがな」
「そんな……」
「バサラが、チェーンのナイフで斬った男は、最新のロボット義手を着けてもらったろ?」
「ああ、確かに」
「今頃、釈放されてるよ」
「最初から仕組まれていた?」
「そういう事だ」
キノはスッと話に入ってきて続ける。
「私でも知らなかった情報だ。長官クラスでは、共有されていたのだろう」
「織田長官と話してくる」
バサラはオフィスから出ようとした時。
「まだ来てないぞ」
「チッ!」
「落ち着けよ。早くから密に連携していれば良かったが、なにぶん情報が少なくてな。バサラが見たっていう宇宙人軍の将校は間違いなく、ナコシだ」
「バサラ、お手柄だぞ。宇宙人軍と宇宙人のテロリストは犬猿の仲を装ってたが、ブラフだろう」
「で、トラピストの使徒は金塊を何に使おうっていうんだ?」
「まだ仮説段階だよ。母船のバリア回復説、燃料説、地球の公転軌道を更に変える説と色々だ」
「鉱物を長野県上空の母船に集めるのは、やはり意味があるんだな」
「我々は、宇宙人の狙いはゴールドだけだと考えてるよ」
「ナコシを殺害すれば解決するのか?」
「分かってると思うけど、ナコシは簡単には殺れない。ナコシの体内エネルギーは未知数だからな。昨日のブエノスアイレスの一件を知ってるか?」
「ああ。今頃は弟が対応してるよ」
「あれはナコシがやったらしい。数体の自爆テロに見せかけて」
「そんな長距離を短時間で、ナコシはどうやって移動してるんだ?」
「小型UFOでの低空航行説、瞬間移動説。これもまた解らない。但し、今、ナコシは長野県に潜伏してる確率が高い」
「ブエノスアイレスにはノーネームが」
「ノーネームも日本……長野県に潜伏してるだろう」
「じゃあそろそろ」
「帰るのか? まだ話がある」
「時差ボケで眠い。仮眠室で一休みさせてもらう。案内は要らないからな~」
ヨッシーは話を切り上げ、仮眠室へ行ってしまった。
「キノさんも仮眠したら? 徹夜でしょ」
「そうだな。一眠りするか 」
キノも仮眠室へ行った。
バサラは自分のデスクで、腕を枕にして目を閉じる。
「バサラさん、泣いているのですか?」
「アール、よく覚えておけよ? このタイミングで泣いてたら情緒不安定だ」
「よく解りません」
「解らなくていい」
バサラもいつの間にか眠っていた。目が覚めると、8時50分。1時間半ほどの二度寝だ。周りはガヤガヤと人が会話をしている。
「アール。織田長官は出勤したか?」
「6分前に基地の網膜スキャンをしています」
「よし、とっちめてやろう」
バサラは席を立つ。その時、純血に声をかけられる。
「おい、ハイブリッド。客が来てるぞ」
「木村か。客って誰だ?」
「警察だよ。俺も行くから、応接室まで着いてこい」




