030(ハイブリッド)
「おっ! バッターボックスにひときわデカイ野人みたいな助っ人外国人が。デケえ、2メートル以上はある。審判が小人に見えるな」
『ピッチャー投げた! ブゥン! おっと、ガオーム選手が豪快な空振り!』
「ガオーム? チリー・ジョーが推薦してるっていう、ガオームのオリジナルはプロ野球選手か。スイング音がテレビ越しに聞こえてきた。凄いパワーだな」
『ガオーム選手、空振り三振!』
バサラは、オリジナルガオームの失態を見て、ハイブリッドのガオームが心配になる。単細胞の筋肉脳だと。
『ガオーム選手はもう年ですね。還暦間近ですよ』
60歳近いじいさんがプロでやってる。バサラはハイブリッドのガオームもただ者じゃないと、考えを改めた。バサラはウェアラブル端末に話しかける。
「ステーキが食べたい」
『冷蔵庫には猪のブロック肉があります。オートクッキングを致しますので、10分ほどお時間を下さい』
「じゃあ、シャワーでも浴びてる。その間に作っといて」
『かしこまりました』
バサラはオートシャワーで全身を洗い、オートドライで全身を乾かす。そして、出来上がった猪肉ステーキにがっつき、平らげる。眠くなってきた。
「寝る。食器を自動洗浄、間接照明、快眠ミュージック」
『かしこまりました』
ーー次の日の朝。バサラは少し早めに起きてしまった。ぐっすり眠れたから二度寝はしない。たまには早く出勤しようと考える。
バサラは5分ほどで支度をして、駐輪場へ行き、フライングバイクにまたがる。雪が降っていた。
「悪天候の時は速度制限があるんだよな~」
バサラはフライングバイクで飛び立つ。時速120キロメートルで巡航すると、雪の粒が顔面にバシバシ当たるから痛い。航空法に触れないが、ヘルメットを忘れてしまった。
バサラはアンタレス飯田基地に着き、フライングバイクを駐輪場に停める。すると、駐輪場の近くに、ジムニーが停まる。古い、地べたを走る軽自動車というヤツだ。白衣を着たじいさんが降りてきた。
「真田隊員じゃないか。おはよう」
「初田主任!? よくそんな骨董品に乗れるな」
「良いだろう? 自動車オークションで落札したんだ。800万円はちょいと痛手だったが」
「フライングカーのジムニーなら250万円で新車が買えるよ」
「分からんか? ロマンだ、ロマン」
バサラと初田主任は屋内に入り、網膜スキャンをする。
「とても、ビーム兵器を開発しようとしてる人が乗る車とは思えん」
「雪だからね。ジムニーは四駆なんだ」
「スタッドレスタイヤってヤツ? 高いんでしょ?」
「今はあまり生産されてないからね。しかし、たまには地べたを走るのも良いものだぞ」
「バギーや地下タクシーなら最近乗ったよ」
「ほほう。今度詳しく聞かせてくれ」
初田主任は研究室がある地下へエレベーターで行った。バサラは2階のオフィスへ階段で行く。一番乗りだと思ったら、オフィスの奥、キノとアールがデスクに居た。バサラはデスクのそばへ行く。
「朝、早いね~」
「ん? バサラか、おはよう」
「バサラさん、おはようございます。徹夜とはどんな感じになりますか?」
「徹夜? そりゃ気分がハイになるよ。…………って、キノさん、徹夜したの? 過労死するよ」
「1日くらいで過労死はしない。それより、サソリの選抜メンバーの調整が済んだぞ。軍属の者には長期休暇を取ってもらう。それから、飯田市に集合する事になったよ」
「純血用のマスクは?」
「準備はできている」
「あとは母船に乗り込む方法だけだな。航空機で行くか?」
「今のところ、そうなるな。母船のバリアは小さく、脆くなっている。この数週間が勝負だぞ」
「ああ」
「久しぶりだな、バサラ」
後ろから声をかけられた。バサラは振り向くと、見覚えのある顔が居た。




