029(プライベート)
ーー夕方になり、退勤時間となる。夜勤組が出勤してきた。夜勤の隊員は二軍だ。
バサラは、キノのデスクへ行き、話しかける。
「まだ帰らないの?」
「サソリのメンバーに国防軍、約100人が名乗りを上げてるようだ」
「何で国防軍がサソリの事を知ってるの?」
「織田長官の働きかけだ」
「流石は長官だな」
「バサラとアダムにとっては、父親みたいなものだろ?」
「う~ん、父親ってより親戚の伯父さんって感じかな。にんべんに白の方の伯父さんね」
「分かりづらい例えだな、ハハハ」
「そういや、キノさんの親はどうしてるの?」
「イタリアに居るよ。私だけ帰化したからね」
「アンタレスに入るために?」
「まあ、そんなところだ。最初はアメリカへ行ったが、日本のが遣り甲斐があると思ってな」
「アメリカのトラピストの使徒はおとなしいもんね」
「そうだな」
「家族に会ったりしないの?」
「妻と娘は東京に居るから、たまに会ってるよ」
「家族って解らない」
「バサラは、まだ若いからな。……サソリに勧誘した奴、全員のリストを作ってる」
「あ、邪魔しちゃった?」
「世間話くらいはいいがな」
「いや、帰るよ。明日はヨッシーと接触しないとね。お先に~」
バサラはオフィスの出口に向かって歩き出す。
「お疲れさん。明日は遅刻するなよ」
バサラは片手を挙げて、合図をする。
ーーバサラは自分のフライングバイクに乗り、アンタレス飯田基地から自宅マンションに帰る。
バサラはドアの網膜スキャンをして部屋に入る。照明が自動で点く。ソファーに座り、ウェアラブル端末に話しかける。
「テレビを点けて。取り敢えず、ニュース」
『かしこまりました』
『明日のお天気です。午前中は雪が降ります。お出かけの際は、ご準備を』
「夏に雪か。半世紀前なら考えられん事だろうな」
『それでは、ここで速報です。インドのニューデリーを観光していた、トラピストの使徒が突然、暴れ出して金塊を盗んだ模様です』
「やっぱり、宇宙人はゴールドを集めてる? しかし、いったい何に使おうっていうんだ?」
『新たな情報です。金塊を強奪した、トラピストの使徒は長野県上空の母船から来たとの情報です』
「長野県もホットだな」
『織田さん。これらの事件は何故起きるのでしょう?』
「織田長官!?」
『トラピストの使徒は何か焦っているように見えますね』
「織田長官、全国放送の番組に出てるってことは東京に出向してるのか」
『焦ってる、とは具体的にどういう意味ですか?』
『金を何に遣うか解らないが、集めたければ、もっとスマートなやり方があるかと』
『なるほど』
『トラピストの使徒はどんどんナードになってるように見えますね』
『織田さん、どうもありがとうございました。続いては……』
「スポーツやってない?」
バサラはウェアラブル端末に話しかける。
『ベースボールならやってます』
「取り敢えず、変えて」
『かしこまりました』
野球はバサラの趣味じゃない。ルールをいまいち理解してない。




