027(若い宇宙人)
キノのウェアラブル端末に電話をかけてきたのは諜報部の者だった。座光寺市の一件でテロリストが1体かろうじて生きてたとの事。トラピストの使徒専用の集中治療室で傷を治している。宇宙人は傷の治りは早い。諜報部の者はそのテロリストの生き残りを取調室に持っていくと。キノは通話を終え、ウェアラブル端末を胸ポケットに入れる。
「バサラには教えておくか。チリー・ジョーが言うには、アメリカのアンタレスにもハイブリッドが居るらしい」
「何だって!?」
「驚くのも無理はない。しかし、ソイツはチェーンが使えないそうだ。力が強くて、何でも力任せに解決してるようだ。名前はガオーム」
「オリジナルは誰だ?」
「さあ、そこまでは聞いてない」
「話を聞く限りでは単細胞っぽいけど、そのガオームって奴も仲間に入れるの?」
「チリー・ジョーの推薦だ。そのつもりだよ」
ピコン。また、キノのウェアラブル端末が鳴る。メールだ。
「取調室?」
「ああ、準備が整った。行こう」
キノは、木村とアールを呼び連れていく。皆はアールに「もう言っちゃうの~?」と嘆いていた。戦闘用ロボットは大人気だ。
バサラ達は取調室の隣のモニター室に入る。取調室にはトラピストの使徒が1体。テロリストの生き残りだ。椅子に座らされていた。マスクを着けられて、頑丈な手錠を嵌められている。
「バサラが行ってくれ。木村中尉はいつでも、チェーンを使えるように」
「はっ!」
バサラは網膜スキャンをして取調室に入る。
「俺は、主犯じゃない! 手伝わされただけだ! 刑務所だけは!」
テロリストは必死に訴えかける。
バサラは、ゆっくりと椅子に座る。
「でも、ビームガンを発砲したよな」
「殺されるかと思って」
「で、どこを狙ってたの?」
「そ、それは…………」
数秒の沈黙。
「言わなきゃ終身刑だぞ?」
「言っても終身刑だろ」
「手伝わされただけってのが証明されたら減刑になるよ」
「本当だな?」
「嘘は吐かない。……お前、若いな。幾つだ?」
「地球年で18歳だよ」
「地球で産まれ、地球で育った世代か。故郷に還りたいだろ」
「地球が故郷だ! トラピスト1なんて行きたくない!」
トラピストの使徒の若者らしい反応だ。
「地球に居たきゃ、地球のルールを守るんだな。それで、どこを狙ってたの?」
「…………ここ」
「ここ? アンタレス飯田基地か?」
「アンタレスの基地を潰せば、地球は俺達の物だって。ナコシって軍人に言われて、兄が水素爆弾を造ろうとしたんだ」
「お前の兄は俺が撃った方か? それとも自爆した方か?」
「ただの拳銃だと思ったんだ。あれがビーム兵器だったなんて」
「自爆した方か。ナコシに渡された?」
「分からない。あんなの初めて見た。体内エネルギーを絞り出すかのようだった」
「大体分かった。暫くは基地の留置所に入ってもらう」
「うっう。うっう」
バサラは席を離れ、モニター室に戻る。
「キノさん、どう思う?」
「まずいな。いずれは来ると考えていたが、アンタレスの基地がテロの標的になってたとは。ハードターゲットだぞ。未遂で済んで良かったが」
「ナコシが近くに潜んでるなら、探し出しましょう」
木村が、キノに提案する。
「ナコシだってバカじゃない。相当、警戒してるだろう」
「宙界島を捜索するのはどうでしょう? 潜伏してるかもしれません」
「待て待て。宙界島は閉鎖されている」
「ダメですか?」
「俺は賛成。珍しく木村がマトモなことを言ってる」
「バカにするな、ハイブリッド!」




