026(英雄の死亡説)
バサラ達、隊員は基地に引き上げる。代わりに、後から来た諜報部の数人が現場検証を始める。一応、警察も一緒に。
アールは研究室に運ばれる。初田主任の出番だ。初田主任はアールの状態を診る。
「こりゃ酷い。直ぐに移植してやるからな。それと真田隊員」
「何?」
「例の小型ビーム兵器だけど」
初田主任は手を働かせながら言った。
「人間でも扱えるようになった?」
「近いうちにな」
「本当か?」
「チェーンの親機と子機を繋げているのもビームだということは知ってるね?」
「ああ、勿論」
「ビームの紐は出力が微弱だから、肌に触れても痛くも痒くもない」
初田主任はアールのソフトを取り出して、未使用のハードが引っ掛かってるハンガーに向かって歩く。バサラも後を追う。
「真田隊員のデジタル統制力のタイプなら子機をビームガンにできるかもしれん」
「本当か!? 俺はバージョン1.9までしか使えんぞ」
「そうか。おそらく、バージョン2.0で使えるだろう。旧式のツインタイプのチェーンを改造してね」
「俺が使ってるチェーンじゃないか」
「そうだ。今やプロトタイプのハイブリッドくらいしか扱えない物」
「俺はバージョンを少し上げるだけでいいのか」
「開発に2~3年ってとこだ」
「そんなに待てないよ~」
「アンタレスの研究は最先端だが、こればっかりはね」
初田主任は未使用のハードの背中に回り、胴体にソフトを差し込み、ハッチを閉める。
『システムを再起動します』
新しいアールの右腕が動く。次は左腕。頭部のカメラで確認してる。そして、バサラの方を向く。
「バサラさん、初田主任研究員。ありがとうございます」
「ドライタイプの高硬スチール装甲だ。それにしても、最近のテロリストは過激さが増してる。特に長野県で」
「ナコシが潜伏してるからかな」
「あの超危険宇宙人かね? 怪しい動きを見せているようだけど」
「初田主任の見立てで、金塊が宇宙船の燃料になると思うか?」
「どうかな。私はそうは思わないけど」
「所詮は噂程度の話か」
「トラピストの使徒は技術提供をコントロールしてるのは確かだ。しかし、金塊は燃料にならないと断言しよう」
「やっぱり、トラピストの使徒は、地球を徐々に乗っ取るつもりかな?」
「生態系の頂点に2種は無理だろう、長い間は。その内に崩れると思うよ」
「パワーバランスが?」
「まあ、私はその専門家じゃないから話し半分でいいよ。素敵な宇宙船地球号は誰の物か……さあ、アールは直ったぞ」
「じゃあ、戻るね」
「私はビーム兵器の研究をしたくてウズウズしてるんだ。ハッハッハ!」
「アール、行くぞ」
「はい」
バサラとアールはオフィスに戻る。すると、同僚達は「おおー!」「アール!」「無事だったか~!」と、20人くらいが、アールを取り囲む。
「アールは皆の相手をしといて」
「了解しました」
バサラは、キノのデスクに行く。
「そういえば、アダムは? 顔を出すって言ってたのに」
「バサラは聞いてなかったか。ブエノスアイレスの特殊刑務所で脱獄事件が起きて、アダムはとんぼ返りしたよ」
「アルゼンチンはホットだな」
「ノーネームが逃げ出したそうだ」
「せっかく、テロリストの上層部を捕まえたのに」
「自爆攻撃で特殊刑務所は半壊らしい」
「アダム、大丈夫かな…………」
「弱気になるな。大丈夫だ」
「唯一の肉親だ。いや、かりそめか」
「お前達はオリジナルが良い。タフだ」
「徳川バサラ……キノさんと年が近かったよな」
「バカ! 10歳以上違う」
「そうだっけ?」
「存命なら今年で52歳だ。私が若い頃は刺激を受けたものさ。最近までファンクラブにも入ってた」
「過去形ってことは、キノさんは死亡説派か」
「いくらなんでも、宇宙空間で迷子はイコール死だ」
「どこかの星で生きてないかな」
「非現実的だ」
ピコン。キノのウェアラブル端末が鳴る。




