024(ブーストガンとロボット)
輪の中には、身長2メートルほどの武骨で旧式と思われる人型ロボットが立っていた。脇にはキノも居る。
「バサラ、来たか」
「キノさん。いったい何のショーだ? 旧式のロボットがっ……」
「貴方がバサラさんですね。おはようございます」
ロボットは敬礼をする。バサラは驚く。ロボットが喋った。
「旧式なのに会話が出来るの?」
「それだけじゃないぞ。経験した事をフィードバックされ学習し、進化する。1から設備を整えて工場を造り、コピーを量産することも出来るみたいだ」
「それって、シンギュラリティのロボットじゃないか!」
「ピー。私はロボット工学三原則を守ります」
「俺はトラピストの使徒の血が入った、ハイブリッドだぞ?」
「ピーピーピーピー」
「おかしくなったか? 頭から煙でも出すんじゃないだろうな」
「貴方に危害は加えません。私達は味方です」
「なら、ロボット工学三原則を言ってみろ」
「はい。第1条、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を見過ごして、人間に危害を及ぼしてはならない。第2条、ロボットは人間から与えられた命令に服従しなくてはならない。但し、与えられた命令が、第1条に反する場合は破棄してよい。第3条、ロボットはこの第1条及び第2条に反する恐れがない限り、自己を守らなくてはならない…………以上です」
「という訳だ、バサラ」
「キノさん、さっぱり解らん」
「防衛省にブーストガンを発注したら、おまけでコイツも支給されたんだ」
「実験を押し付けられただけじゃないか?」
「まあ、そんなところだ」
「面倒なことになってきたぜ。おい、ロボット、名前は?」
「私は防衛省と日産の共同開発で生まれました。コードネームはSLR32。アールと呼んでください」
「日産? 由来はR32スカイラインGTRか」
「よくご存知で。私の開発者はそのスカイラインを大切に飾ってます」
「ほう」
「皆! そろそろお開きだ! 持ち場に戻れ!」
キノが大声で指示を出すと、人だかりが徐々に減っていった。バサラもオフィスに戻ろうとする。
「バサラは残れ」
「え、何で?」
「ブーストガンの使い方を教えよう。他の隊員はすでに訓練を終えている」
キノはコンテナからブーストガン1丁とマガジン数個を取り出す。
「それがJPN式のミサイル銃? パッと見、アサルトライフルと変わらないな」
「そうだ。アメリカ製のブーストガンも支給してくれたぞ」
「防衛省はノリノリだな」
バサラとアールはキノに連れられ、射撃場に移動する。
テロリストの宇宙人に見立てた標的が1つあった。キノはブーストガンのチャンバーにマガジンをセットする。バサラはキノからブーストガンを渡された。
バサラは標的に銃口を向けて構える。距離25メートル。
「要領は分かるな?」
「ああ、なんとなく」
「まずは、セーフティを解除して弾を装填しろ。左手のグリップのトリガーで標的をロックオンだ」
カチッ。バサラは言われた通りにグリップのトリガーを引く。緑色のレーザー光線が標的に照射される。
キノはスイッチを押し、電動で、バサラと標的の中間にコンクリートブロックの壁を移動させる。
「バサラ、撃ってみろ」
「おいおい」
「いいから、撃ってみろ」
「分かったよ」
カチッ。ヒュイン!……ドーン! トリガーを引くと同時に砂埃が舞う。コンクリートブロックは壊れてない。キノはスイッチを押してコンクリートブロックを退かす。すると、テロリストに見立てた標的が粉々に砕けていた。
「凄い! 最近のミサイル銃はここまで精度が高いのか!」
「どうだ、気に入ったか?」
「もち、もち」
「バサラさん、お見事です」
「ロボット…………アール、銃の性能が良いだけだよ」
「ピー」
「弾丸は超小型ミサイルでロックオンした標的を自動追尾してくれる。障害物を避けながら。ロックオンを解除するまではマガジンの30発を当てることが出来る」
「明後日の方向に撃っても当たるのか」
「さすがに逆方向は無理だがな。標的の方向、180度の範囲なら精密に当てることが出来る。射程距離は約1キロメートルだ」
「チェーンと組み合わせれば、大幅な戦力アップだ。通常のライフルじゃ宇宙人の皮膚を貫通させるのは難しいからな」
「1つ懸念がある」
「なんだ?」
「バリアを張られたら無効だ」
「バリアは宇宙人の将校クラスしか…………テロリストのナコシもバリアを張れる?」
「おそらくな」
「このアールってロボットもミサイル銃を装備できるのか?」
「専用デバイスがある。両腕、両肩に装備可能だ」
「コイツはトラピストの使徒とテロリストの識別はできるのか?」
「まだ無理だろうな。これからバサラが教えてやればいい」
「えっ!? 俺が?」
「アールが本当の意味で自我を持てば実験成功だ」
「民間のロボットはシンギュラリティだ。そこからデータをフィードバックすればいいじゃん」
「戦闘に特化したロボットは開発途中だ。危険すぎるとな。実験データは防衛省に送らなければいけないが、アールはアンタレスの隊員扱いになった」
「バサラさん、仲良くやりましょう」
「はぁ~。仕方ない、実験してやろうじゃないか」
「宜しくお願いします」
「さっ、オフィスに戻るぞ」
「キノさん、ちょっと待った。アールはどうするの?」
「バサラが連れて歩くんだよ」
「えー」
バサラはミサイル銃だけで十分だった。防衛省の考えてることが分からない。
ピピピー! ピピピー!
「警報だ。早速、出番だな」




