022(プロトタイプの強み)
午後は何も事件は起きなかった。バサラとアダムは繁華街のバーに行く。バサラの行き付けだ。バサラは旧式のチェーンをバッグに入れて。
落ち着いた雰囲気のバーだ。客は数人。バサラとアダムはカウンター席の端に座る。
「いらっしゃい。今日は何にする?」
「俺は、ビールで」
「兄さんがビール!?」
「昨日、CMを観たから何だか飲みたくなっちゃって」
「いつもはウイスキーなのに。僕はマティーニを」
「かしこまりました」
シャカシャカシャカシャカ。マスターはカクテルを作ってる。シェーカーで氷を砕き、混ぜる。
「ビールとマティーニ、お待ち」
バサラとアダムはグラスを持ち、ノールックでグラスを当て、乾杯する。バサラはビールをグイっと一口飲む。
「ぷはー! このほろ苦さが嫌な事を忘れさせてくれる」
アダムもマティーニを飲む。
「…………」
「どうした? 織田長官になんて言われた?」
「その前に、ここは大丈夫?」
「ああ。マスターはアンタレスのOBだよ。それに、トラピストの使徒はバーなんかには来れないからな」
「そっか。来れないってか、来ても意味ないからね」
「地上でマスクを外したら酸素にやられる。コロニーで樽飲みしてるさ。それで、織田長官は何だって?」
「ブエノスアイレスに対宇宙人に特化した人間は居ないかって…………。変だよね。アンタレス自体、対宇宙人に特化した組織なのに」
「メンバーを選抜してるのさ。最近、トラピストの使徒が怪しい動きをしてるって聞いたことないか?」
「うん。急に鉱物を集め出したみたいだね」
「ゴールドは母船の燃料になるって言う奴も居る」
「超高速移動、ワープにゴールドが要るのかな?」
「解らん。まだ噂程度だしな……。で、アルゼンチンでの職務はどうなんだ?」
「南米一のテロリスト、ノーネームを特殊刑務所にぶちこんだよ」
「ノーネーム!? ナコシの右腕じゃないか。やるな~」
「取っ捕まえる時に、偶然、チェーンのナイフがマスクに当たっただけだよ」
「アダムのチェーンのバージョンは2.8だったかな?」
「3.2まで上がったよ」
「凄い! ガンやブレードが使えるレベルだな。弟に力を越えられるのも近いな」
「兄さんとは、デジタル統制力のタイプが違うから。兄さんのナイフはブレード以上に切れ味、強度があるよ。チェーンを扱う者は皆、バージョンアップを目指すけど、それはチェーンを極めるのとは違う」
「プロトタイプの強み…………。俺達のオリジナルは数週間、チェーンの訓練をしてバージョン9.0まで使えたらしい」
「9.0。新型のチェーンなら核攻撃ができる数値だね」
「恐ろしいな。…………よし! 今日はとことん飲むぞー!」
「アハハ。南米の牛は順調に数を増やしてるよ」
「牛のげっぷメタンガス作戦? 少しは効果あるのかな、アハハ」
「牛の数に比例してキャトルミューティレーションが増えたけどね」
「トラピストの使徒は寒い方が都合が良いのかな」
「それ思った。公転軌道の0.12天文単位は動かしすぎじゃないかって」
「地球の公転軌道を変えるんだから、トラピストの使徒にとっても大仕事だったろうな。南半球は冬だから寒いだろ?」
「日本は暖かくて良いね」
「3ヶ月も経てば、逆に日本が寒くなるさ」
バサラは、久々のアダムとの再会に気を良くして、グイグイとビールを飲む。




