021(ミサイル銃)
バサラはアンタレス飯田基地に戻り、フライングバイクを駐輪場に停めて中に入ろうとすると、普通のパトカーが数台見えた。ちょうど松下が警察官に連行されるところだ。目が合う。
「おい! アンタレスの人!」
「良い義手を着けてもらえたか?」
「すげえよ! 生身の手と変わらない、痛みも感じるんだ!」
「良かったな。おとなしく服役しろよ」
松下はパトカーに乗せられて連行された。
バサラはオフィスに入ると、懐かしい顔が居た。キノと立ち話をしている。バサラに気付く。
「兄さん、久しぶり」
「アダム……ブエノスアイレスから戻ったのか?」
バサラの弟、真田アダム。バサラを実験、調査した結果をフィードバックさせて造られた人造人間。アダムは正式にロールアウトされた第1号だ。
「休暇でね」アダムはバサラに近付き「本当は織田長官に呼ばれたんだ」と、耳打ちする。
「何!?」
「これから直接話を聞きに行くよ」
「そうか、アダムも」
仲間になってくれれば心強い。バサラはちょっと複雑だ。人造人間といえども兄弟に違いはない。コードネーム、バサラ・ワン。計画は頓挫しており、徳川バサラのクローンは結局、バサラとアダムの二人しか居ない。
徳川バサラ計画を再始動させようとした3年前、オリジナル・バサラは火星旅行のさなかに宇宙船が軌道を逸れて、宇宙の彼方に消えてしまった。法的には死亡扱いだ。徳川バサラの葬儀は地球葬となり、世界中の50億人が葬儀を視聴した。それでも、まだどこかで生きていると信じてる団体が幾つもある。まるで宗教のように。
「それでは、キノ少佐」
アダムは敬礼する。
「アダム、今夜飲みに行かないか?」
「兄さんの奢りなら行くよ」
「仕方ないな、アハハ」
アダムはオフィスを後にして、長官室へ行った。
「バサラ、クラッカーは仲間にできたか?」
「表情が乏しくて感情があんまり読めなかったけど、喜んで協力してくれるよ」
「どっちだよ! 全く」
バサラはオフィスを見渡す。
「あれ? 牡丹が居ないな」
「情報部に戻ったんじゃないか?」
「ボーダーチームの吉田と連絡を取りたいんだけど」
「私が探してやろう」
二人はキノのデスクへ行く。
「吉田はヨッシーと名乗ってた。まだ飯田市に居るかも」
「ソルジャーネットで詳しく調べてみよう」
キノはパソコンのキーボードを操作する。
「流石は少佐、ヒラじゃ分からない事まで閲覧できる」
「ほう。ここ数ヶ月で1~3日の休暇や職務で、ちょこちょこ長野県に来ているな」
「宇宙人軍の将校……多分、ナコシが怪しい動きをしていたって言ったからな。もしかしたら、インゴット以外に何か掴んでるかも? マシンの事にも詳しかった」
「マシンってロボットのことか? 人間に反旗を翻すロボットはおそらく、宇宙人が手を加えている。ロボットのテリトリーは金塊を隠すのにうってつけという訳か」
「なあ、キノさん」
「何だ?」
「ナコシが日本に居る間に始末した方が良くないか? それから、宇宙人の機密情報を盗み出す」
「いや、同時進行でやろう。この件は複雑に絡み合ってると推測してる。バサラ、お前もよく分かってるだろ?」
「ああ、勿論。松下に小型ビーム兵器を流した。他にも手にした奴が居るかもな」
「テロリストに新兵器が流れている以上、チェーンだけじゃ心許ないな。〝ブーストガン〟の使用許可を出す」
「ブーストガンって、ミサイル銃のこと?」
「アンタレスでは正式採用されてないが、かなり強力なライフルだ。防衛省に大量発注しよう」
「街中でミサイル銃でドンパチするわけには……流れ弾で建物が吹き飛ぶぞ」
「それなら、大丈夫だ。弾丸の炸薬量を減らし、小型化された〝JPN式〟が最近、ロールアウトされてる」
「流石は少佐、国防軍の情報まで分かるのか」
「アンタレス勤続18年は伊達じゃないからな、ハハハ」
「ミサイル銃はいいとして、吉田は?」
「どうやら、移動中だ。アメリカに向かってる。また日本に来た時に接触しよう」




