019(クラッカーを追いかけて)
ーー松下は二人の隊員に脇を抱えられて手術室に連行された。
バサラはモニター室に戻る。キノが一人で考え事をしていた。
「キノさん、松下の言ったことを考えてるのか?」
「本当に、ナコシなのか? 奴の扇動がなくなれば、テロもなくなると言われている」
「道ですれ違った時に凄いオーラを感じたよ。日本上空の母船に乗り込もう。ナコシが居るとすればあそこだ」
「簡単には応じてくれんぞ。それに、アンタレスは母船への不可侵条約を結んでいる。ボーダーチームならいいが」
「ボーダーチームの知り合いが居るよ」
「何!? インテリジェンスだぞ?」
「日本とアメリカのボーダーチームの吉田って奴だよ」
「まさか、金密輸の仲間じゃないだろうな?」
「そうだよ」
「バカ! 何を考えてる!」
「アハハ、大丈夫さ。昨日ソルジャーネットで調べたから」
「裏の事がバレたら、ソイツはクビだぞ」
「頭がキレるし、運も良いよ」
「…………分かった。織田長官に掛け合ってみよう。その吉田って奴も仲間に入れるんだな?」
「そのつもりだよ。俺は、もう一人とコンタクトを取ってみる」
「はぁ~。好きにやれ」
キノはため息を吐き、モニター室を後にした。バサラはオフィスに戻り、牡丹のデスクに行く。牡丹は前髪をくるくるさせながら遊んでいた。暇のようだ。
「牡丹、ちょっと頼みがあるんだけど」
「え、デートはまた今度」
「違う」
「じゃあ、遂に地球を救う?」
「そのための準備だよ。小森昴って男の居場所をトラッキングして。日本に居ると思う」
バサラは牡丹に自分のウェアラブル端末の着信履歴を見せる。
「なら簡単だね。その端末を借りますよ」
牡丹は端末をパソコンに繋ぎ、カタカタとちょっと操作する。
「特定できましたよ」
「どこだ?」
「駒ヶ岳の中腹です」
バサラはパソコンのモニターを見て地図を覚える。
「ありがと、助かった」
バサラはパソコンから自分のウェアラブル端末を外し、急いで駐輪場へ行く。牡丹は何か叫んでたが、今はそれどころじゃない。牡丹のトラッキングに気付かれる前に捕まえないと。クラッカーは神出鬼没だ。
バサラはフライングバイクに乗り、全速力で駒ヶ岳へ向かう。
20分くらいでアジトに着く。鬱蒼とした森の中にポツンと拓けた所がある。山の中腹には似つかわしくない木造の民家だ。
民家の駐車スペースにフライングバイクとフライングカーが1台ずつ。中に、小森がいるはずだ。
バサラはチェーンの子機で小森の物と思われる2台の乗り物を繋いで、親機を背中から外す。これで動かすことが出来ない。逃げられても、遠くには行けない。
コンコンコン! バサラはドアをノックする。
「小森昴さーん! 昨日、VRサッカーで同じチームだった、真田だけど!」
玄関には、防犯カメラが3台もあった。バサラは防犯カメラのレンズに向かって手を振る。
すると、ガチャっとドアが開く。中から人が顔を出すと、女だった。