闇の中の光
地を這うように進んでいく。そろり、そろりと。バレないように……バレないように……。
ガタリ!ガタゴトドッッッ!!!
とんでもない物音が聞こえる。それが聞こえた瞬間に私は体を縮める様にして隠れた。見つかっちゃいけない。絶対に見つかっちゃいけない……!! あのバケモノには。
そう、この館にはいるのだ。バケモノが。人が扮している様なそんな飾り物の様な存在じゃない。科学が進歩したこの世界を嘲笑うかのような信じられない存在が。
だから早く逃げないといけない。あのバケモノは、この館からは出られないから。この館から脱出できればこっちのものだ。
そうして逃げ続けながらも出口を目指し続け、幸いにも出口はもうそこだ。走り回った事と、化け物に追われた恐怖からバクバクと心臓は動き続ける。本当に久しぶりの感覚だ。
ギギギ、キィィィィィ!!!
軋むドアを無理矢理こじ開ける。それと同時に月光が隙間から私を照らし出す。
そして外に出ようとしたその時、背後から気配を感じた。もう背後を見ずとも分かる。バケモノだ。
「ガァ……ニ…ァ…サァ…ナイ…ニガサナイ…」
バケモノは私を止めたいらしいが、そんな事では止まらない。距離があった故に止められず、私はアッサリと外に出ることに成功した。
なのにバケモノは館を出て、私を追いかけ続けた。出て来られないはずなのに。
「デェ…イ…ァナイデェ……デテイクノヲ……ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
怨念の篭った奇声を上げながら追いかけてきたバケモノの指が私に触れそうになったその時、バケモノは突如叫び始めた。
その声が、様子がまるで痛みに嘆く赤ん坊のようだった。そしてその姿は……私にとって慈しいものだった。
「痛いでしょう? 理不尽でしょう? 苦しいでしょう? あと少しなのに、届かない。もどかしい? 歯痒い? 悲しい? でもね……」
「貴方の物語はここで終わるの!! 貴方がただの好奇心のためにやって来たこの館で!! 私のせいでね!!」
ああ、嬉しい。どれだけ待ち侘びただろうか。少し前まで私も彼女と同じバケモノだった。いえ、違う。彼女は人間だったか。
他人と身体を入れ替える事だけが救いだなんて、全く神様も酷いことをするものだ。いや、救いがあるだけマシなのだろうか。
「私と同じように次に来た哀れな人間の身体を奪い取るといいわ。それだけがその苦しみから逃れる唯一の方法。あと、早く館に戻ったほうがいいわよ、館の外にいる限りそのとんでもない痛みは治らないから」
ああ、今日はなんていい日なのかしら!!!!! 大丈夫、この身体で、貴方の分まで幸せに生きてあげるから……。