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『嘘つき』~息抜き短編集~

作者: 神城弥生

『嘘つき』~息抜き短編小説集~


 私は嘘つきが嫌いだ。


 嘘は私を傷つけて、そして皆を傷つける最低な行為だ。


 私は母子家庭に生まれたため祖母の家で三人で暮らしている。


 おばあちゃんは私にいつも言う。


「アンタのお母さんもお父さんもいつだってあんたの中にいるよ」

 

 私はその言葉が大嫌いだった。お父さんはとっくに死んでしまっている。お母さんは生きけどいつも帰りが遅い。そんな私を励ますようにおばあちゃんは言っているのだろうけど。


 存在しない者は存在しない。


 私は嘘が嫌いだった。


 行ってきます!挨拶だけはちゃんとしなさいとよくお母さんに言われているので嫌いなおばあちゃんにもちゃんと挨拶をして私は小学校へ向かう。おばあちゃんは玄関の花を取り換えながら「行ってらっしゃい」と優しく微笑んでくれた。


「やーい!親なしが来たぞ!」

「親なしだ親なし!」


 私が学校に行くといつも通り男子がからかってくる。


「黙りなさいあんた達!……あんなの気にしちゃだめよ?」


 おさげの髪をフリフリと左右に振りながら委員長がいつも通り優しく慰めてくれる。いつも私の味方をしてくれる親友だ。


「大丈夫!私にはまだお母さんがいるから!」

「……そうね」


 委員長は優しく微笑むと席に戻っていく。授業が終わり学校から帰り道いつも通り委員長の家で遊んだ後家に帰る。


「お帰り。早く手を洗ってきなさい。夕飯はもうできているから」


 おばあちゃんが優しく出迎えてくれる。


「お母さんは今日も帰りが遅いの?」

「そうね。でも大丈夫。アンタ両親はいつもあんたの心の中にいるから」


 そう言うとおばあちゃんは台所の方へと戻っていく。また嘘をつかれた。お父さんはもういない。もうそんな言葉を信じる年じゃないのに。


 夕飯もお風呂も済ませた頃おばあちゃんは寝室へと入っていく。おばあちゃんはいつも寝るのが早い。


「ただいまー」

「お母さん!!」


 私は声がした瞬間リビングから飛び出して帰ってきたお母さんに飛びつく。お母さんはいつだっていい臭いがする。私の大好きな匂いだ。


「ねぇねぇお母さん。今日もね、男子の連中が「親なし」ってバカにしてくるの。でも大丈夫!今日も委員長が優しく助けてくれたから!」

「あらあら。なら今度委員長のお家にご挨拶に行かないとね。いつも娘を助けてくれてありがとうって言いに」

「うん!一緒に行こう!きっと委員長も喜ぶよ!」


 私はいつも通りお母さんとおしゃべりを続ける。お母さんはいつも私の話を優しく聞いてくれて微笑んでくれる。私はその笑顔が大好きで今日も一杯おしゃべりをするのだ。


「ねぇねぇお母さん。お母さんはお父さんが居なくて寂しい?」

「そうねぇ寂しくなんかないわ。お父さんはいつもあなたの中にいるもの。勿論私もね」

「もう!おばあちゃんみたいなこと言って!嘘は良くないよ!」

「嘘じゃないわ。いつだって、いつまでだって私達は貴方の中にいるわ」

「ふーん。変なの」


 そういって私達は笑った。嘘は嫌いだけど、お母さんの話は好きだったからだ。


「ん、朝か」


 気が付けば私は眠ってしまっていたようだ。いつもお母さんと話している途中で寝ちゃって、お母さんがベットまで運んでくれる。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 今日もおああちゃんは玄関の花を取り換えながら私を見送ってくれる。


「やーい!親なしが来たぞ!」

「黙りなさい!」


 いつもの日常、いつもの光景。だけど私はそんな日常が好きだった。


「ただいまー!」

「お帰りお母さん!」


 私はいつものようにお母さんに抱き着く。いつも様に花のようないい香りがする。


「ねえお母さん聞いて聞いて!今日はおばあちゃんに習ってお夕飯を作ったの!」

「あら、それは凄いわね。ちょっと待ってね。すぐに手を洗ってくるから」


 お母さんが手を洗っている間私はご飯の支度をしてドキドキしながらお母さんを待った。


「お待たせ。わぁ、凄いわね。ハンバーグ?」

「そう!お母さんハンバーグ好きでしょ?」

「勿論!大好物よ!」


 お母さんはおいしそうにハンバーグを食べ、なんだか私は嬉しくなった。そのあといつものように学校の話や色々な話をお母さんとする。


「そう、そんなことがあったの」

「そう!でもね!私男子なんかに負けないよ!私強いもの!」


 そう言うとお母さんは優しく微笑み私を抱きしめてくれた。だが何故だか花の香りはしなかった。


「ならもう大丈夫ね。おばあちゃんもいるし、私はもう逝こうかしら」

「行く?お母さんどっか行っちゃうの?」

「ふふ。元々ここにはいないんだけどね」


 お母さんはおちゃめに舌を出して微笑む。だが私はなんだか嫌な予感がしてお母さんに抱き着く。


「嫌だよ。どこにも行かないでお母さん」

「そうしたいのは山々だけど、もう時間がないの。いい?ちゃんと挨拶はしっかりするのよ?人様に迷惑はかけちゃあだめ。おばあちゃんの言うことはよく聞く事」

「嫌だよ!そんなお別れみたいなことを言わないで!」


 お母さんは困ったように微笑みながら私の髪を撫でてくれる。だがどうしてか匂いがしなかった。私の中で不安がどんどん大きくなっていく。


「お母さんはね。もう死んじゃってるのよ。だからいつまでもこうしていられないの」

「何言ってるの?お母さんは生きているじゃん!」

「ううん。違うの。今私は貴方の中であなたとお話をしているの。貴方はもう立派に生きていけるわ。男子にだって負けないし、お料理だってできるもの」

「違うよ!違う!私何にもできないもん!だからお母さん逝かないで!」


 お母さんは微笑みながらゆっくりと私の頭を撫でる。私は寝たくないのに、眠たくないのに何故だかだんだん瞼が重くなってきて…・・・。


「ん、お母さん」


 気が付けば朝だった。いつものようにベットで寝ている私の瞳からは涙が零れていた。


「ねえ、おばあちゃん。いつも夜リビングで寝てる私をベットまで運んでくれてありがとう」


 私がおばあちゃんにそう言うとおばあちゃんは驚き、そして私を抱きしめてくれる。


「もういいのかい?もう逝っちまったのかい?」

「うん」

「そうかい。でもね。アンタの両親はいつだってあんたの中にいるからね」

「うん。うん」


 私はおばあちゃんと一緒に泣いた。大きな声を出して泣いた。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 私はいつもより大きな声で挨拶をし、おばあちゃんはいつものように玄関の花を変えながら微笑み私を見送ってくれた。


「やーい!親なしが来たぞ!」

「親なし親なし!」

「黙りなさい!!」


 いつものように男子にからかわれ、そして委員長が助けてくれる。


「……大丈夫?あんなの気にしなくていいからね」

「うん。大丈夫!私には委員長もおばあちゃんもいるからね!」


 私がそう言うと委員長は驚き抱きしめてくれた。


 私はどこかで気づいていたのかもしれない。だけど目を背けていただけなんだ。


 私は嘘は嫌いだ。


 嘘は私を傷つけて、そして皆を傷つける最低な行為だ。


 だけど、嘘は使い方によっては人を癒してくれる。


 そんな嘘つきに、私はなりたい。

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