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この初恋は譲れない  作者: 花田藍色
あなたの恋を叶えてあげる
7/27

01


 階段を下り、玄関ホールを覗いてみるもレンリーとスーイの姿はなかった。どこに行ったのだろうとアリーが小首を傾げていると、ちょうど掃除用具を手にしたメイドが視界に入った。

〈ねえ、レンリーとスーイがどこに行ったか知らない?〉

 アリーはいつもの調子でメイドに話しかけるが、彼女はアリーに気づくことなくアリーの前を通り過ぎてしまう。そこでやっとアリーは自分が他人の目に入らない状態であることを思い出した。

〈どうしよう、これじゃ二人ともわたしのことに気づかないわよね〉

 今更ながらの大問題に気づくも、ここで突っ立っているわけにもいかない。とにかく二人を見つけて、それから次のことを考えよう。答えを見つけるのは苦手だが、前向きに歩いて行くのは大の得意だ。アリーはすぐに気持ちを切り替えて二人を探し始めた。


 レンリーとスーイはアリーが覚悟していたよりもずっと早く見つかった。というのも、少し奥に入った場所でちょうど先ほどアリーが話しかけたメイドと二人が会話をしていたのだ。

「ええ? じゃあ、姉さん今こっちにいるんだ! ハハハ、お熱いことで」

「どうりで馬車があるわけだよ。でもさ、珍しくない? アリーが今日うちに来るなんて聞いてないんだけどなあ……、兄さんが秘密にしてたのかな……そうだとしてもどうせ下らない理由に決まってる」

 メイドとの会話を終えた後も、二人はアリーとジンのことを話し続けた。その内容が揶揄いの色を含んでいたものだから、思わずアリーは二人に駆け寄ってずいっと顔を近づけ憤慨する。

〈下らないなんて失礼な! わたし、今とってもピンチなのに!〉

 怒鳴っておきながら、全く反応を示さないレンリーの顔を見て再びアリーは自分の透けた身体を思い返す。

 しまった、今は透明人間みたいなものだったんだ。そう思いがっかりしていると、ふとスーイがアリーを見ていることに気づいた。


 アリーはスーイを見る。視線を辿って振り向いてみても、これといってスーイが注目するような物など他に無い。よくよく観察しても、スーイの瞳がアリーに焦点を当てているように見える。有り得ない幸福の可能性に浮かれたアリーは、パチンと両手を打って声を上げて笑った。

〈スーイ! 貴方、わたしのこと見えてるの?〉

 スーイはアリーに焦点を当てたまま、ひとつ、ふたつ、とゆっくり瞬きをした。そうして目を大きく開き、「うそ、アリー?」と呟くように小さく言った。

〈やっぱり! 見えてるのね! 嬉しいわ、スーイ! 最高よ!〉

 勢いづく喜びそのままにアリーはスーイに飛びつく。しかし抱きつこうとした両腕はスーイの身体をすり抜けた。


「姉さんがどうかした?」

 急に姉の名前を呼んだスーイを訝しんだレンリーが、不思議そうにスーイに問いかける。

 スーイはレンリーを見て、またアリーを見る。もう一度レンリーを見た後、顎に手をあてて深く息を吐いた。

「はあ……詳しい話は僕の部屋でしよう。ここじゃ人目があるからさあ。レンリー、どうやらキミの家がまた何か厄介ごとに巻き込まれているみたいだよ。ああ、きみら、あんまり知らないんだっけ……まあいっか。ほら行こう、話は後で」

 ぶつぶつとぼやくように吐き出されたスーイの言葉の羅列に、レンリーは首を傾げながらも頷く。スーイはアリーに向かって「アリーもついて来てよね」と小さく囁いた。



  ◇



 久しぶりに入ったスーイの部屋は、幼い頃とほとんど変わらず落ち着いた雰囲気がある。ジンもスーイも、系統は違うがクールな大人っぽい印象を受けるインテリアが多い。アリーは自分やレンリーの自室を思い出してみたけれど、物の数が違いすぎて少しだけ笑ってしまった。どうやらこれは血筋らしい。

 廊下を歩いている間はずっと見えないフリをしていたスーイだったが、自室のドアを閉めると、まるでそこに生身のアリーがいるかのように椅子に座るようエスコートした。


「え、なに? スーイどうしたの」

 未だアリーの存在に気づけていないままのレンリーが、怪訝な顔でスーイを見つめる。

〈良かったわスーイが居てくれて! わたしすごく不安だったの。もういろんなことが起きすぎて、何がどうなっているのか分からないくらい! 何から話そうかしら、そうね、えっと〉

 久しぶりに他人から存在を認めてもらえたアリーは嬉しさのあまり勢いのまま話し出した。それをスーイが「待って、アリー。レンリーが混乱するから」と遮る。ハッとしたアリーは慌てて口を噤んだ。


「はあ……どうしてこんなことになるかな。何から整理しようか。レンリー、キミ、目の前にキミのお姉さんが居るんだけど、見える? いいや、見えていたらそんな反応はしないよなあ……」

「ええっ?! 姉さんが?」

 レンリーは一度腰かけた椅子から勢いよく立ち上がって、きょろきょろと周囲をうかがう。しまいには部屋中を駆け回って「いないよ? アリーいないよ?!」と大声で言う。

 まるで仔犬のような仕草に、思わずアリーはフフフとふきだした。そんなアリーを横目に見ながらスーイは「これだもんなあ……はあ……」と何度目かのため息をつく。


「何かのドッキリじゃないよな」

 一通り部屋を物色し終えたレンリーが椅子に戻りながら言う。

「僕がそんなもの好んでするように見えるわけ? ああ……本当、何がどうなってこんなことになってるんだか。とりあえずさ、座りなよ。話はそれからでしょ……」

 レンリーはスーイがふいと視線を向けた先の、アリーがいる方向へ目を向ける。レンリーの目にはいまだ空席の椅子にしか見えない。


「本当にここに姉さんがいるって?」

「嘘をついたって僕に利益があるわけないでしょ」

 そんな二人のやり取りを見ながらアリーは首をかしげた。レンリーはまだ分かる。前にすれ違ったメイドだってアリーの姿が見えなかったのだから、こんな反応にもなるのは仕方がない。だがスーイは。

〈ねえ、どうしてスーイはわたしの姿が見えるの? 誰も見えていなかったのに〉

「ああうん、そうか。そこも言わないといけないのか、はあ……」

 スーイは小さくため息をつく。そうしてどこか言いにくそうに視線をずらした。

「待って待って。ええ、どうしたんだよ。姉さんと会話してんの? 本当に?」

 驚いた顔でレンリーがスーイとアリーの居るという椅子を交互に見やる。忙しないレンリーを横目に、ひどく面倒臭そうな目を向けてスーイは眉間に皺を寄せた。

「どうして僕がアリーの姿を見えるのかって聞いてきたんだよ。声も聞こえないなんて、はあ……。いちいち通訳しないといけないって? ああ、やりづらいなあ……」


 怪訝な顔をしてレンリーは立ち上がる。そうしてアリーのいる椅子まで歩み寄ると、ちょうどアリーの首や胸のある辺りで腕をぶんぶんと振ってみせる。

〈ちょっとレンリー! 貴方何するのよ!〉

「ええー……ここに姉さんが? 冗談じゃないんだよなあ?」

〈確かめるなら確かめるって言ってよ! 痛くはないけど、なんだか……こう、モヤっとするの、モヤっと。自分の身体を腕がつき抜けるってこんな感じなのね。新発見だわ〉

「そりゃ生身じゃないんだから触れないでしょ、考えなよ。それにアリーはちょっと気が抜けそうなこと言わないで」

 二人の交わることのない話し声を前に、ひとりスーイはうなだれた。


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