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この初恋は譲れない  作者: 花田藍色
反旗を揚げよ、いざ革命の時
19/27

01


 アリーたちはフェリアナの生没年から、彼女が何にこだわってアリーの身体を乗っ取るに至ったかを調べることにした。というのも、ジンが「書庫で確かめたいことがある」と言い出したことにある。

 アリーとジン、スーイが書庫に向かい、その間レンリーは未だ眠るフェリアナを監視することになった。

「何を確認しにきたっていうのさ」

 書庫の扉を開くジンの背中に、スーイが不満の声を投げかける。アリーもスーイも、何ひとつとして説明されないままにジンの後ろについてきた。ジンは何に気づいたというのだろう。


 書庫に入り数歩歩いたジンはある額縁の前で立ち止まる。

 見上げるとそこには家系図があった。一番下にはジンやスーイの名前があり、上へ上へ視線を辿るとその歴史の深さがうかがえる。

「フェリアナ嬢の言っていた『翡翠の鷹の方』のことだ」


 ジンは家系図にある一角を指さした。ジンの指先を目で辿ると、アリーとスーイの視界に特徴的な紋様が描かれているのが分かる。

〈これって、印章?〉

「ああ。名前の横にある紋様は、それぞれが所有していた個人の印章なんだ」

 アリーが家系図全体を見上げると、名前の隣に印章がかたどられている。

 もちろんジンの横にも馴染みある紋様があった。


「じゃあ、これって」

 スーイがジンの指さす印章を見てぽつりと呟く。ジンが静かに頷く。

 そこには枝から飛び立つ鷹の意匠があり、その瞳に翡翠が埋め込まれている。

「今ではもう廃れてしまったが、昔は個人の名前を呼ぶ代わりに印章にちなんで呼び名がつくられていた。これは『翡翠の鷹の方』と呼ぶに相応しくないか?」

〈た、たしかに!〉

「ふうん。時代も合ってるみたいだし。うちの家系なら学院に行っていたっておかしくはないか」


 アリーはジンの場所から上へと数えていく。

〈それじゃフェリアナさんが言っていた『翡翠の鷹の方』って、ジンやスーイのお父さんのお母さんのお父さんの……〉

「もう高祖父でいいんじゃない?」

 スーイが半目で呆れたようにツッコミを入れる。


 ジンの高祖父の印章はまさしく『翡翠の鷹の方』といった紋様だ。時代もフェリアナの生きていた頃と合致している。

「高祖父は細かく日誌を残していたはずだ。研究者でもあったからその研究誌も」

 三人はフェリアナと関わりある記述が無いかを探すことにした。ジンたちの高祖父が『翡翠の鷹の方』であった可能性は高い。

 だがフェリアナとの間にどのような関係があったかなど、家系図からでは何も読み取れはしない。アリセス家と縁戚になった者もいない。


 三人は手分けして書庫から目ぼしいものがないかを探していく。

 ジンとスーイは魔法を使い一度に数冊の本に検索をかけていくが、魔法の使えないアリーはそれができない。加えて、半ば幽霊のような身体では本に触れることさえできない。

 代わりに身軽な身体を活かして書庫中のタイトルを見て周ることとなった。

 アリーは並ぶタイトルを指で追っていく。文字をなぞりながら、アリーの思考は先ほどジンの部屋でのことにうつっていった。



「でも……そういえばあの子、こう言っていた気がする。──『あなたの恋を叶えてあげる』って」

 数分前、スーイは貴族名鑑のフェリアナを見つめながらそう言った。

 今ではもう遠い昔の笑い話だが、以前スーイが「僕の初恋はアリーなんだよね」と暴露したことがある。ちょうど、アリーとジンが初恋の話をしていた時だった。

 四人で廃屋へ肝試しをした時にスーイの初恋が続いていたなら、フェリアナがスーイに向けて言った「あなたの恋を叶えてあげる」という言葉は、アリーとスーイの仲をとりもつということだろうか。

 しかしそれならばなぜあの時にアリーの身体を乗っ取らなかったのか。


 アリーはぐるぐると頭の中で考えを巡らせる。

 だが思考はどんどんズレていき、〈そういえばレンリーの初恋はジンたちのお母さまだったわね〉と独り言を呟いていた。

「ちょっと。必死で探しているんだから笑わせないでよ」

 振り向くとスーイが口を歪めて笑いをこらえている。どうやら独り言を拾われていたようだ。

〈でもおばさまってとても綺麗よね。物静かで奥ゆかしくて、深窓の佳人ってかんじがするわ〉

 アリーがそう言うと、ジンとスーイは苦笑いをして返す。


「ああ、うん。そうかもね。外面は」

「うちの家系は外面が良いのが揃っているからそう見えるのかもね。特に長子」

「どういう意味だ」

 咎めるように目を向けるジンから、スーイはふいっと顔を反らした。兄弟の相変わらずな様子に笑いながらアリーは本棚に視線を戻す。


〈あれ、これってもしかして。ジンの……えーっと、おばあさま……。翡翠の鷹の方の奥さんの手記かしら〉

 ジンが魔法を使い、アリーが指さす場所の本をまとめてごっそりと抜き出す。同じ装飾の施された本がずらりと並んでいる。

「本当だ。よく分かったな」

〈フフフ。人の名前を覚えるのは得意なの!〉

 アリーは家系図に載っていた名前を覚えていたのだ。

 パラパラとページをめくってみれば、高祖母の子ども時代からの出来事が細やかに記されてある。


 夫婦そろってマメな方々だとアリーが感心していると、ふと見覚えのある名前が視界をよぎる。

〈待って! 今、アリセスって書いてなかった?〉

 アリーの呼ぶ声に従い、ジンがページを遡る。

「あった。アリセス……『あの事件を発端にアリセス家に動きがあった。アリセス家はもう家名を捨てる気でいるよう。真実は何も究明されていない。』」

「家名を捨てる……?」

 三人は顔を見合わせ、ひとつ頷く。ジンはさらにページを遡った。



 フェリアナ・アリセスが生きていた時代、未だ魔法適合者と不適合者の間には深い溝があった。差別が緩和されたのは法律が定められた二十年も先のことだ。

 そんな世相の中、学院で出会ったのがジンの高祖父と高祖母だった。

 由緒正しい貴族に生まれ無口で物静かな高祖父と、才女でありながら激しい性格の高祖母は同じ学院に通ってはいたものの、しばらくは互いに名前を知る程度だったようだ。

 しかし二人にはある共通点があり、深い仲になっていったのだという。

〈魔法解放運動?〉

「これって学院で習ったやつだ」

 教科書に載っているような言葉を見つけ、アリーはごくりと生唾を飲み込んだ。


 当時、学生を中心に差別を廃止させるための運動が活発に行われていた。

 現代では魔法不適合者でも使える魔法道具が開発されている。機具そのものに魔法回路を埋め込んだもので、アリーでも使えるものだ。

 しかしそのような機具が開発され始めたのもこの百年ほどで歴史は浅い。それまでは全て魔力が一番に評価され、魔法適合者の間でもレンリーのように魔力の少ない者は低く見られていた。


 このように魔力を第一とし、難解で複雑な魔力構造のある魔法を良しとする世相を変えようとしたのが魔法解放運動である。

 そこで出会ったのがジンの高祖父と高祖母だ。二人は魔法解放運動の幹部的存在だったのだ。


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