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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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資格試験を受ける5


 試験の草花を早々に集めた俺は、『ゲート』で自宅までジャンプして、ロジェにゲンノショウという薬草を渡した。


「本当に、これで治るのか?」

「わからない。だが、ニンゲンが作った薬を飲み続けるよりは、可能性は高い」


 持っていった薬草でかなりの量が作れるらしい。


「ワタシ一人で作る。誰も部屋を覗くなよ」

「その技術自体に興味がない。モノが仕上がるのなら何でもいい。自由にしろ。どれくらい作れる?」


「ま、三か月分くらいは作れる。感謝しろ、ニンゲン。門外不出の、森の技術をワタシが使おうというのだ」

「自慢話ほど退屈なものはない。俺は王都に戻る」

「ま、待て――――! ワタシの話を聞けぇぇぇええええ」


 うふふふ、とディーがそばで笑っている。


「ロジェ隊長のお話は、退屈なんですってぇ。エルフがどうのこうのなんて、どうでもいいものねぇ」


「くッ。今度はエルフを愚弄するか、ゾンビ吸血鬼」

「あらあら。そんなつもりはないわよぅ。エルフ族の技術をさも自分が発案したかのように語るエルフが愚かだっただけだからぁ」


 ロジェが目を吊り上げてディーを睨む。意に介さないディーはまあまあと微笑んでいる。

 仲がいいのか悪いのかわからない二人だな。


「……ともかく、ロジェ、助かった。感謝する」

「……なんだ、急に。ライリーラ様たってのご要望だ。貴様に感謝されるいわれはない」


 フン、と鼻を鳴らし、ロジェは憎まれ口を叩いた。


 ついでに、俺はラハティ支部のアイリス支部長の下を訪れて、とある相談をした。


「ふうん。なるほど。それは面白いかも」


 俺の提案に好感触だったようだった。


「付近の支部長にも相談してみるわ。……けどあなた、王都までちゃんと戻れるの? 試験中でしょう?」

「大丈夫です。ご心配なく」


 そう言って、俺はまた王都へと戻った。




 夜、ベッドの中で、俺の腕を枕代わりにするライラに教えた。


「ロジェが言うには、完全に治るとは言い切れないが、現状維持するよりはずいぶんマシだろう、と」


 ささやくような小声だったが、静かな部屋ではよく聞こえたようだ。


「あやつも医者ではないからな。ロジェには、何か褒美をやらねば」

「反乱軍が拠点にしていた、あの孤島にいる軍医に確認をしてみるとも言っていた。忠実ないい部下だ」

「であろう。妾の自慢の部下である」


 忠誠バカなのが玉に瑕だが。


 胸板のあたりに人差し指を這わせるライラ。

 胸筋を撫でるように触ると、下にある傷痕を優しくさすった。


「本当にニンゲンは、見た目にこだわるケツの穴が小さい種族よのう。当時はもっと社交的だったはずのエルフ族が、森に引っ込んだのもそれが原因だと聞く」


 王都では色んな人種が闊歩しているが、それ以外の町だといまだに白い目を向けられることがある。

 大戦で亜人種と力を合わせたとはいえ、それがどれほど世間に認知されているのかは怪しい。


「…………エルフは、あるのか?」


 おもむろにライラが尋ねてきた。


「何の話だ」

「……だから……抱いたことはあるのか、と訊いておる……」


 じいっとまっすぐ俺を見つめてくる。


「ある」

「フン。不老長寿で顔の作りは美しいからな。大戦中はさぞお楽しみだったであろうな」


 くるん、とライラがこっちに背をむける。

『顔の作りは』という部分をやたらと強調した。


「そうだな」

「うううううううううう……! 少しくらい否定せよ。妾の前で、違う女子(おなご)を褒めるのはやめよ」

「嘘をついても仕方ないだろ」

「妾は今、機嫌が悪い。やきもちを焼いておる……」


 枕にしている腕を抜こうとすると、ガシッと掴まれた。


「……どうすれば機嫌が直ると思う?」

「どうして俺に訊く」


 背をむけていたが、くるん、とまたこっちに戻ってきた。


「今宵は……妾だけを愛すがよい」


 俺の首に腕を回し、キスをしてきた。


「それが、貴様殿にだけ与えた権利ぞ」

「ずいぶんな権利だな」








 宿屋の一階にある食堂で朝食を簡単に済ませると、俺は多少の疲労感と脱力感を覚えたまま、ギルド本部へとむかった。


 きちんと睡眠をとったときに比べて、という話なので、俺自身の活動には何の影響もなかった。

 ライラはというと、今は部屋で眠っている。


 本部の前にロジェが立っていた。


「ここで試験を受ける、という話を聞いたからな」


 小袋を俺に押しつけるように渡した。


「もうできたのか」

「軍医殿にも、一応見てもらった。ニンゲンでも問題なく服用できるであろう、とのことだ」

「恩に着る。ライラが、何か褒美をやろうと言っていたぞ」

「本当か? それは光栄なことだ」


 ロジェのポケットから布切れが出ている。


 あれは……何度か見かけたことがあるが…………ライラの下着では……?

 こいつ、何でこんなものをポケットに入れて持ち歩いているんだ……?

 忠誠バカが行き過ぎると、下着まで欲しくなってしまうのか?


 同じ物を買ってお守り代わりにしている、とか……いや、それでも一抹の気味の悪さがある。


 どうやら俺は、図らずもロジェの闇を垣間見てしまったらしい。


 崇拝しているライラの私物だからほしい――聖遺物とかそういう信仰心に近いものなんだろうか。


 聖遺物(パンツ)……。

 さっぱりわからん。


「なんだ、何かまだ用があるのか?」

「…………いや、何でもない」


 ?? と、ロジェは首をかしげた。

 おそらくライラも知らない一面だろう。

 気をつけるように、あとで知らせておく必要がありそうだ。


 昨晩、自慢の部下だと褒めていたのに……。


 ライラの気持ちを思うと、残念な気分になった。


 俺はそんなロジェでも受け入れてあげようと思った。


「わからないものを排除しようとするのは、人間の悪い癖だからな」

「……? ああ。そうかもしれないな」


 薬を懐に入れて、本部の中へ入る。

 受付の窓口に顔を出すと、昨日の試験官が机で書類仕事をしていた。


「あの、すみません。昨日のプラントマスターの実地試験なんですが」

「ああ、はいはい。何かご質問ですか? 今日の正午までなんで、諦めずに頑張ってくださいね」

「終わったんですが」

「えっ、早っ」


 素のリアクションが出てきた。


「過去、同じような速度で試験を終えようとした方が一〇人います。二人はヤケクソ、八人は誰かに手伝ってもらったための減点です」

「そんなのわかるんですか?」

「ええ。受験者には教えませんが、採取したものの最終確認があります」


 なるほど。これで不正をしたやつを見つけて減点していくのか。


 採取の時間や、不正をするとしても、教えてくれる存在の確保とそこまでの移動時間。

 教わるにしても、覚える時間が必要になってくる。

 一日じゃどう考えても足りない。


 王都に協力者を仕込んでいれば、確かに早く終わるだろうが、知識としてきちんと覚えていなければ、落第は必至、ということのようだ。


 俺は採取してきた草花とリストを試験官に渡す。

 昨日の一室へ通されて、確認試験がはじまった。


「……では、参りますよ」

「お願いします」


 確認は、全一〇〇種類に及んだ。

 群生する場所の条件や、花をつける時期、薬草としての効能、初歩的な知識から、マニアックな知識まで、隅々まで確認をされた。


「……う、ぐぐぐ……なんで……? 不正したんじゃないの……?」

「してないですよ」

「この、トチューソウなんて、すっごい危ないところに生えてて、かなり時間がかかるはずなのに」


 元暗殺者の身のこなしをナメないでほしい。

 とはさすがに言えない。


「悪い試験ですね。そんなところに採りに行かせるなんて」

「くうう……落とすための試験でもあるはずなのに……!」


 多少意地の悪い質問をされたが、俺はそれほど困らなかった。

 だから、逆に意地の悪い質問をしてみた。


「さっきのトチューソウ、高地で日当たりのいい場所に生えやすいですよね」

「それが、何か?」

「それ以外にも、生えやすい場所があるんです。どこだと思いますか?」

「……え?」


 知らないらしい。

 俺の顔を真顔で見つめて、負けを認めたようにふっと笑った。


「ロランさん、あなた、筆記も満点です。この実地試験に至っても同じくそうです。完璧すぎて、思わず不正を疑ってしまいました……申し訳ない」


 小さく試験官は頭を下げた。


「間違えるほうが難しかったですよ」

「ふふ……言ってくれますね。過去最高点で、過去最速です。おめでとうございます。プラントマスター、取得です」


「ありがとうございます」


 バッヂがもらえるらしく、それは後日所属ギルドへ送ってくれるらしい。

 そういえば、モーリーも胸につけていたな。あれのことか。


「元は、冒険者か何かですか? それか、薬師の弟子か何か?」

「いえ、どちらも違いますよ。暗殺者です」


 ははは、と試験官は笑った。


「ずいぶん博識な暗殺者ですね。特技は毒殺ですか」

「状況によっては、調合することもありましたね」


 本当のことなのだが、全然信じていないようだ。


「まったく、面白い方ですね」


 にこやかに言って、試験官は部屋をあとにした。

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