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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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資格試験を受ける1

すみません

予約投稿したと思ったらしてませんでした



 例のごとく支部長室に呼ばれた俺は、アイリス支部長の話を聞いていた。


「そろそろ……マズイと思うのよ……」

「そうでしょうか?」


 事務室では、今日も今日とて冒険者が当ギルドまで足を運んでいる。


 ある者はルーティンのように淡々とクエストを受領し、またある者はクエスト証明になる物品の鑑定に文句を言い、またある者は、女性職員をナンパしていた。


「マズイわよ……」


 さっきからずっとアイリス支部長は、「マズイ、マズイわ……」と渋面を作っている。


「支部長権限で、どうにかならないんですか?」

「どうにかしてあげたいわよ。でも、それはそれで、問題なのよ。こういうのって、冒険協会……本部のお偉いさんが決めていることだし。……あなた、全然文句言わないし、私もまあいっか、って甘えてたんだけど……」

「いよいよ、マズイ?」

「そう」


 事の起こりは、以前俺を引き抜こうと他支部の支部長が、ギルドマスターを通じて異動要請を出したことだった。


「なんであなた、今の給料で全然文句を言わないの?」

「不満がないからです」

「でしょうねぇ……でも、本当はもっとお金が稼げるはずなのよ?」


 残ってほしい、と以前ベロベロに酔っぱらったときに言っていたくせに、どっちなんだ?


「ビックリしちゃったのよ……」


 そのときを思い出しながら、アイリス支部長は言う。


「移籍の話が持ち上がったとき、あんなに月給出せるんだ……って思って。あの条件で異動していたら、私より稼ぐことになるのよ」

「へえ。そうなんですか」

「相変わらず無頓着というか、リアクション薄いのねぇ」

「他の支部長が、月給の条件を出した上で異動要請をしているのであれば、支部長も俺の昇給を申請すればいいのでは?」

「各支部で人件費の予算が決まっているのよ……」


 と、申し訳なさそうに言った。


「でも……あなたを余所に取られたくないから……」


 モニョモニョ、と小声でつぶやく。


 俺は別にいいんだが、アイリス支部長は俺の給料をどうにかして上げたいと思っているが、自分の権限でそれができないから、悩んでいるらしい。

 本人がそれでいいと言っているのに、親切というか律儀というか、何というか。


 唸っているアイリス支部長は、その悩み事に気を取られているせいかパンツが丸見えだった。


「余所の支部に行くつもりはないので」

「それは、今のところは、ってことでしょ?」


 まあ、そうとも言えるか。

 俺の気が変わらないように、予防をしておきたいわけだ。


 制服の上着をアイリス支部長の膝にかける。


「? どうしたの?」

「いえ、赤いパンツが丸見えだったので」


 ぴゃっ、と変な悲鳴を上げたアイリス支部長が、さっと股を閉じた。


「…………すけべ」


 頬を染めがら、俺を恨めしそうに見つめてくる。


「赤いパンツを穿いている方に言われたくないです」

「内緒よ、内緒……」

「そんなこと、いちいち言いませんから安心してください」


 一度体を重ねた仲なのに、そういうのは恥ずかしいらしい。


「……あ。――もしかしたら――」


 俺の上着を返し、アイリス支部長は自分の席で引き出しをあちこち開ける。


 ばさり、と紙束を出してめくりはじめた。


「やっぱり。これなら問題ないわね」

「どうしました?」

「ライセンスよ、ライセンス!」


 ピンと来ていない俺のために、説明をしてくれた。


「今うちで言うと、モーリーを含めた三人が鑑定をしているでしょ?」

「ああ。たしか、モーリーさんはプラントマスターとか、なんとか」

「そう。ライセンスはクエスト同行と同じで、特別手当枠だから、持っておくと給料に加算されるわ」


 これよ、これこれ! と名案にアイリス支部長は手を叩いた。


「ギルド鑑定の三大ライセンス『プラントマスター』『アイテムスキャナー』『エネミーエキスパート』……この三つがあれば、どうなると思う?」


 どうなる? 俺が考えていると、訊いてきたくせに語りはじめた。


「三つ揃えば、『鑑定士長』という肩書が増えるわ。となると、またさらにお給料が上がるわ!」


 ライセンスは他にいくつかあるらしいが、主要なものがこの三つだそうだ。


 プラントマスターは、植物全般の鑑定資格。

 アイテムスキャナーは、魔法具やその素材に関する鑑定資格。

 エネミーエキスパートは、動物、魔物、魔獣の鑑定資格


 いずれにしても相当の知識が要求されるらしい。


『鑑定』の特殊スキルがあれば、こういった資格は不要みたいだ。

 そんなスキルを持っている人間を王都で一人知っているが、それだけで商売になるので、わざわざギルドで働いたりはしない。


「そうしたほうがいいのであれば、そうしますが」

「ライセンスを取るために一年勉強する、なんてザラにあることだけど――あなたは大丈夫そうね」


 所詮人は肩書でその人を見るというのは、嫌というほど知っている。

 今後のためにもなるのであれば、取っておいたほうがいいだろう。


 ライセンスを取るには、王都のギルド本部に行く必要があった。


「とりあえず、まずプラントマスターを取得してもらえるかしら? 試験に二、三日かかるみたい。王都までの往復の時間と合わせて、一週間、ロランには王都行きを命じます」


『ゲート』があるので、移動の時間は考慮しなくてもいいのだが、一週間くれるというのであればそうしよう。


「わかりました。では、来週また戻ってきます」

「うん。頑張ってね」


 アイリス支部長に応援されて部屋を出ると、モーリーがいた。


「話は聞かせてもらったぜ? ……おまえに! プラントマスターの資格が取れるかな!?」


 ドヤドヤドヤ、と音が聞こえそうなほどの顔で言った。


「どうでしょう。やってみないとわかりません」

「筆記と実地試験、それぞれ一〇〇点満点で、オレは合わせて一九二点! 歴代最高点を更新しちゃったワケよぉ~。おまえに! このオレが! 越えられるかな!?」


 唾を飛ばしながら熱っぽくしゃべるモーリー。

 ……そうか。

 俺がプラントマスターの資格を持つと、ただ一人だったプラントマスターが、二人になる。


 どうやら俺は、モーリーにライバル視されているらしい。


「ちょっと、部屋の前で何叫んでるの」


 迷惑そうな顔でアイリス支部長が出てきた。


「モーリー、ロランのことはいいから仕事に戻りなさい」


「……っす。この歴代ナンバーワンのオレが? 試験をシクって帰ってきた後輩クンに? ご指導差し上げちゃおっかなァ~?」


 先輩風をここぞとばかりに最大風力で吹かせるモーリーだった。

 俺が失敗するのを前提としているらしい。


 こんなことを言われると、余計に失敗したくないな。


 二人に会釈をして、俺はギルドをあとにした。

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[気になる点] お前序盤でミスしてきされてなかった?
[一言] モーリー意外と優秀でオモロい
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