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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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大規模クエストとかつての仲間9

エピローグ的日常回です。


 ライラがまともな料理を作れるようになってからというもの、同じ物が常に食卓に並んだ。


「ど、どうであろう……?」

「……いつも通り、美味い」


 美味いというか、美味くなった、というべきか。

 食事を飽きる飽きないで食べているわけではないので、これでいいのだが、一点だけ不満があった。


「そうであろう、そうであろう。むふふ」


 毎回同じ物を食べさせ、同じように感想を言って、同じようにライラが喜ぶので、なかなか言い出しにくいところもあったが、同じ食事ばかりだと、栄養が偏る……。


 ミリアにこっそり相談させてもらうことにしよう。


 俺が席を立つと、ライラが首をかしげた。


「今日は休みではなかったか?」

「リーナの孤児院の様子を見てくる。実際目にしたことはなかったからな」

「うむ。では、視察を頑張るとよい」


 玄関までついてきたライラが、そわそわしながら俺をちらちら見てくる。


 近づくと、俺に抱きついてちゅ、と簡単なキスをした。


「ん? 何か伝え忘れているような……?」

「忘れるくらいなら、大したことじゃないんだろう」


 んん? と首を捻るライラに「行ってくる」と告げて、俺はゲートを利用し、教えてもらった場所まで移動した。




 孤児院は、大都市イーミルからは少し離れた町の、その町外れにあった。

 元は教会か何かだったのを孤児院として利用しているらしい。

 周囲にはぽつぽつと家があり、近づくにつれて子供たちの声が聞こえてきた。


「ロランっ」


 リーナが真っ先に気づいて孤児院から飛び出てきた。


「アルメリアはどうした?」

「アルちゃん……おしろで、やることがあるって……言ってた」


 暇に見えるが、あれでアルメリアは王女としてやることがあるらしい。


「そうか」


 こっち、こっち、と鼻息荒くリーナが中を案内してくれる。

 全員で二〇人ほどが共同生活をしており、先日解放した一五歳の女の子がみんなをまとめているそうだ。


 広いとは言えない庭で遊んだり、中で遊んでいたり、と非常に賑やかだった。


「アルメリアは、ここで何をしてるんだ?」

「みんなと、あそんでる」

「遊んでるのか」


 だが、人数が人数だけになかなか大変そうだ。

 資金の運用は裏方がこっそりやっているんだろう。


「不便はないか?」

「ない。いまのところ」


 生活の基本である、衣食住に不満がないのであれば、きちんと運営はできているんだろう。


 そのまま案内をしてもらっていると、窓の外にエルフの姿が見えた。


「ん……ロジェ?」


 あいつがなぜここに。


「こんにちはー?」


 聞き覚えのある声が玄関のほうで挨拶をした。


「お客さん……」


 俺の手を離さないリーナは、俺を引っ張るように玄関まで連れていく。


「こ、こんにちは……」


 恐る恐るリーナが挨拶をした。

 そこにいたのは、優雅なドレスを着た女の子と、手を繋いでいる貴婦人だった。


 いつか、俺とライラと一緒に暮らしたメイリだった。

 少しだけ背が伸びている。


「ロランっ。久しぶり」

「久しいな」


 わけがわからないでいると、貴婦人……メイリの母であるレイテが説明してくれた。


「今日、ご自宅にお伺いするというお話でしたが、いらっしゃらない、とのことで、あちらのエルフの方に、ここまで連れて来ていただいたのです」


 ライラが伝え忘れていたのは、このことか。

 それで、ロジェにここまで送らせた、と。


 外を覗いてみると、ロジェは門のそばで腕を組んで壁に背を預けていた。

 ロジェは護衛も兼ねているんだろう。


「ロラン、今日は、遊びにきたの」

「ごめんなさい、急にお訪ねしてしまって」

「いえ」


 ぎゅっと俺の手を握ったまま、リーナが後ろに隠れる。


「ロランは、リーナたちと……あそぶので……いまは、ダメ……です」

「じゃあ、いっしょに遊ぼう?」


「ロランは、リーナのおにいちゃん、なので……とらないで、ください……」


「とらないよ。ロランは、わたしのお婿さんになるから、だいじょうぶ」

「じゃあ、いい……だいじょうぶ……です……」


 ちびっ子二人の間で話がまとまったらしい。

 微笑ましくレイテ婦人は見守っていた。


「エイリアスも、同じくらいの年のお友達がいなくて、嬉しいのだと思います」

「いい友達になったらいいのですが」


 ハキハキして快活なメイリと、どこか内気でおどおどしているリーナ。

 性格は真逆だが、だからこそ意外とウマが合うのかもしれない。


 リーナがメイリを子供たちの輪に入れてあげ、賑やかに遊びはじめた。


 その様子をレイテ婦人と見守りながら、近況を報告し合った。


 レイテ婦人が皇后だったバーデンハーク公国は、人魔戦争で滅ぼされたが、終戦後領地が回復し復興をはじめている。

 戦争で色んな人を亡くした今、王政を廃止し国民の代表者を各地で決め、民主主義の国になろうとしているところだった。


「今一〇のあの子が、あと五年で成人します。そうしたら、本当にロランさんをお迎えにあがるかもしれませんわ」


 ふふふ、とレイテ婦人は、本気とも冗談ともつかないようなことを言う。


「多感な時期だと思うので、僕以外に気になる異性もできることでしょう」

「そうでしょうか。……あなたのような美男でしたら、わたくしでもよいのですよ?」


 ご冗談を、とも言えず、俺は返答に窮した。

 メイリの母ではあるが、夫であるバーデンハーク王はもう亡くなっている。

 ずいぶん早くにメイリを産んだのだろう。

 歳のころで言えば、アイリス支部長に近く、三〇歳前後に見えた。

 俺といくつかしか離れていない。

 肌も綺麗で美人だ。


 太ももをすりすりと触られる。


「大変光栄なお話ですね。そのときが来れば、またお時間いただき考えます」

「ふふふ。色々貴方のお話をエイリアスから聞いています。当家としては、まったく不足はございませんの。だから、いつでもどうぞ」


 じいー、とロジェが窓からこっちを見ている。


「クックック……あのニンゲンめ、年増の色香に惑わされているな。これは、ライリーラ様にご報告し、好感度を下げねば」


 さらりと失礼なことを言った。

 あいつは何しに来たんだ。


 リーナとメイリは、なかなか楽しそうに遊んでいる。

 それを見て安心した俺は、邪魔をするのも悪いので、そっと孤児院をあとにした。


「おい、どこへゆく」と、ロジェが俺を呼び留める。


「昼食に招かれている。二人の護衛と家までのジャンプ、よろしく頼むぞ」

「貴様に言われずとも、ライリーラ様よりその命を受けている」

「じゃあ安心だな」


 ロジェが作ったらしい『ゲート』で、王都の『ゲート』までパスを通す。


 一瞬で王都までジャンプし、王城へ急ぐ。

 食堂に来い、とだけしか言われなかったので、城の中を走り回るハメになったが、五つ目の食堂が正解だったらしい。


 中ではおっさんが三人待っていた。


「おぉ、ロラン、遅かったな」


 はっはっは、とランドルフ王が鷹揚な笑い声をあげる。


「あんたがどこの食堂か指定しないせいだ」


 そばの席には、ギルドマスター、タウロ・パロがいた。

 角ばった顔の髭面はいつも通りだ。


「よお、ロラン。相変わらず大活躍らしいな!」

「おまえも、相変わらず声がでかい」

「何を言うんだ。これが取り柄なんだぞ」

「ああ、そうだったな。おまえは師匠のところから逃げ出したヘタレだからな」


 俺の皮肉も、ガハハ、とタウロは笑う。


「あと一人待てって言うから、誰が来るかと思やぁ」


 三人目。

 近衛騎士団長。フランク・スレードがいた。

 貧困街の出身だが、槍一本で今の地位までのし上がった叩き上げの武官で、師匠以外で武器の扱いを教わったのは、他にはこいつだけだ。


 細面に似合わない顎髭が特徴だ。


 教わったのは槍だけだが、得物を槍に限定して正面から打ち合えば、おそらく負ける。

 もしそうなったら、まあ、正面からなんて打ち合わないが。


「ロラン、久しぶり。行方不明だって聞いて、本格的に死んだと思ったら、タウロが生きてるなんて言い出すからよ」


 俺とフランクは、ぱん、と軽く手を合わせた。


「色々あったが、どうにかな」


 席につくと、懐かしい面子が揃った昼食会がはじまった。

 たいていは、俺にまったく関係のない国の話が中心だったが、ときどき、意見を求められ俺も私見を話すことがあった。


「そんで、孤児院をやったほうがいい、ってのは、ロランが言い出しっぺなんだろ?」


 と、フランクが短い顎鬚をしょりしょり、と触りながら片眉を上げた。


「ああ。理由はさっき説明した通りだ」


「陛下任せかよ、おまえ」

 と、フランクが呆れた。


「ロランは、なんというか、狩場だけ見つけてきて、あとはご自由にってタイプだからなぁ」

 と、タウロが口に食い物を入れながらしゃべる。


「おまえたち、ギルド職員に何を期待してるんだ」

「「普通の職員はそんなに大活躍しねえよ」」


 二人同時にそう言われた。


「イーミルの外れにある孤児院を試験的に国が金を出し、運営する。それが上手くいくのであれば、そういう場所を各地に作ろう。パン屋になったり、冒険者になったり、靴屋になったり、農家になったり、子らには色んな可能性がある」


 あれこれ説明したかいあって、ランドルフ王は事の重要性をよく理解しているようだった。


「どうしてっ? わたしがいたっていいじゃないっ」

「なりません、アルメリア様。四人のお食事会でございます」

「四人も五人も一緒でしょ! いいじゃない。ロランったらどうせ挨拶もせずにすぐ帰っちゃうんだからちょっとくらい――」


 外であれこれ侍女とアルメリアがしゃべっていた。


「おーおー。騒がしいのが来るぜ?」と、フランクが茶化す。


「殿下はロランっ子というか、親鳥と雛鳥の関係だなぁ。知ってるか、大戦のときは、ずうっと片時も離れなかったんだぞ?」とタウロが笑った。


「まったく、せっかくの四者会談に水をさしおって」と、ランドルフ王が鼻から吐息をはく。


 お騒がしい王女様を静めるために、俺は席を立つ。


「おい、アルメリア」


 扉を急に開けたのがまずかったのか、タイミング悪く、アルメリアも扉を開けようとしていた。

 扉に押されるような形になり、アルメリアが後ろに倒れそうになる。


 そこを、肩を抱えて支えた。


「ろ、ロラン……!?」


 顔が近くなったせいもあり、アルメリアが徐々に赤面しはじめた。


「あとで、部屋でお茶でもしよう。待ってろ」

「う、うん……」


 引き上げて立たせると、ぽやぁ~ん、とアルメリアはぼうっと突っ立っていた。


「い、今、胸が……甘酸っぱ痛かった……」

「アルメリア様、それは、フォーリンラヴでございます」


「な、何、それ……」

「わたくしの口からは、申し上げられません」


 扉を閉めると、フランクとタウロの二人がニヤついていた。


「ロラン、手間をかけるな」


 ランドルフ王は申し訳なさそうに言った。


「いや、構わない。休日だからな」


 そのあと、益体のない話が続き昼食会がお開きになると、俺はアルメリアの部屋で二人きりで紅茶を飲んだ。

 けど、珍しくアルメリアは口数が少なかった。


 思い出すと甘酸っぱ痛い、とアルメリアはうわ言のように言っていた。


「アルメリア、孤児院をよろしく頼む」


 それだけ言って、俺は王城を出ていき、また家までジャンプする。


 メイリたちが戻ってきたらしく、中はずいぶん騒がしかった。

 リーナもいるらしく、楽しげな声が響いていた。


 なんというか、ほっとする。

『温かい』と似ているが、少し違う気持ちだ。


 玄関の扉が開くと、ライラが出迎えてくれた。


「おかえり。よくぞ戻ったな」

「ああ、ただいま。おまえ、メイリが来ることを言い忘れていただろ」

「うっ……、さ、サプライズである!」


 まあいい、と俺は笑う。


「ん。忘れておった」


 ちゅ、とライラが俺の頬にキスをする。

 照れくさそうにニシシと笑った。


「楽しい夕食になりそうであるな」

「そうだな」


 少し忙しい休日は、まだ続きそうだった。



今回で3章完結です。(書籍換算で約3冊分)

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