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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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大規模クエストとかつての仲間7


 誰かが呼んだらしい騎士団の数人がやってくるのが見えて、俺は現場から退却した。


 リーナを養分にする害虫の一匹を駆除した。


「あとは……」


 俺は月に陰る古城を目指す。


 警備の兵士は各所にいたが、こちらの気配を察知しそうな敵もいなさそうだったので、スキルを使うことなく、陰を利用してモイサンデル卿の部屋を目指す。


 最上階にやってくると勘で部屋を探った。


 要人は、脱出経路を確保してあることが多い。城の構造を見たところ、地下に逃げれるようになっているらしかったので、それから逆算すると、おおよその場所は割り出せる。


 それらしき部屋に、俺は正面から堂々と入らせてもらった。


「誰だ」


 大仰な机の奥に、ランプに照らされているまだ若い貴族がいた。

 細面の紳士然とした男だった。


「こんばんは。夜分遅くに失礼いたします」

「……丁寧な割にはノックはしないんだな?」


「リーナ……勇者パーティの小さな女の子が、孤児院にいたことはご存知ですよね」

「何者だ。何の話をしている」

「パスカが全部教えてくれました」


 チッ、とモイサンデル卿は小さく舌打ちをした。


「誰だ、おまえは」

「俺はフェリンド王国、特務公安課の者だ」


 いつか使った偽の肩書を名乗っておく。


「聞かない組織だな」

「陛下直属の諜報機関だからな。おまえのような貴族は知らないはずだ。着服した王からの資金を返してほしい。それと、胸糞悪い地下闘技場を廃止にしてほしい」


「……誰に意見していると思っている。このルーカス・モイサンデルだぞ」

「誰であっても、俺はこの主張は変えない」


 手にしていたペンを置いて、言って聞かせるように、モイサンデル卿は言う。


「わかってない。まるでわかっていない。誰がこのフェリンド王国を支えていると思っている。私だ! このモイサンデル家当主の、この私だぞ!」


「何度も言うが、おまえがどこの誰だっていい」


 ちらちら、と扉の外を気にしているモイサンデル卿。


「騎士団は来ないぞ。とくに、おまえが頼りにしていそうな、パスカはな」


 今ごろ、犬の餌にでもなっているだろう。

 フォークがあるのだから、お行儀よく食事してほしいものだ。


「……」


 騎士団の全員が、パスカのような者やその取り巻きばかりではなかった。

 パスカを倒したあと、屯所に行き、真面目そうな男を見つけ話をした。

 話の途中でその男が副団長だとわかったが、騎士団内でも、パスカに意見したくてもできない状況だったという。


 俺が一歩近づくと、ガタリ、とモイサンデル卿は椅子から立ち上がった。


「何が……何が目当てだ!? 金がほしいのならいくらでもやる!」

「人の話を聞いてないのか。おまえが懐に入れて、地下闘技場の運営費に充てただろう金を返せと言っている」


「なんで、それを……」


 地下闘技場の建物自体は古かった。

 だが、そんなに古い建物なのに、客が快適に楽しめるようなシステムが作られていた。

 あれはかなり最近のものだ。


 モイサンデル卿の余裕綽々だった表情に、焦りも汗も浮かんでいる。


「も……元々は、モイサンデル家の金……! どれだけ私が国に金を治めていると思っている!」

「徴収額は、それぞれの領地に見合ったものだ。不当な額を要求してはいない」


 と、以前ランドルフ王は言っていた。


「この前の戦費だってそうだ! 我がモイサンデル家が金を出してやった! それなのに見返りはなしだと……? ふざけるな!」


「負けていれば、領地どころか命も亡くなったがな」


 どんな男かと思えば、守銭奴か。


「く、来るな! 私を誰だと思っている!」

「何度も同じことを言うやつが俺は嫌いだ」


「領地で闘技場を運営して何が悪い!」


「それだが、今日通ってみてわかった。あの闘技場は、モイサンデル家の領地ではない。ギリギリだが、バルデル家の領地に入る」


「は……?」


 ぽかん、と間抜けのように口を開けた。


「で、デタラメを言うな! あ、あれは我が領地から入れるように作られていた! であればモイサンデル家の物だろう!」

「ずいぶん乱暴な論法だな」


 ごん、と机を蹴ると、思ったより派手な音が出た。


「ひぅあっ!?」

「どうするんだ。金を返すか? それともランドルフ王に泣きついてみるか?」


 バルデル卿の領地であれば、モイサンデル家の理屈理論はまったく通じない。


「真相が明らかになれば、おまえは他家の領地で、野蛮な行為に及んだ最低の貴族として歴史に名を残すだろうな」


「き、貴様……! さっきから言わせておけば……! このモイサンデル家は! 王家の遠縁にあたる! ということは、だ。王家に弓を引くのも同じ!」


 ついには、フェリンド王家を盾に取りはじめた。

 呆れを通り越して笑いそうになってしまう。


「今回の件は、何が起ころうとも何も知らない、とランドルフ王が言っていた」


「う、嘘だ……! どうして、モイサンデル家を……! み、見捨てたのかぁぁぁぁぁ!? この、ルーカス・モイサンデルを!」


 泣きそうな顔でモイサンデル卿は喚いた。


「見捨てたんじゃない。見放されたんだ。孤児院に支払うはずの金を地下闘技場の運営資金にし、おまけにその内容は胸糞が悪くなるような蛮行……縁を切られることも覚悟しておけ」


「そ、そんなぁ……」


 壁に背をつけ、ずるずる、とモイサンデル卿は座り込んだ。


「返すから……このことは、どうか、見逃してくれ……ください……」


 小さく震える体で、モイサンデル卿は頭を下げた。


「見逃すも何も、俺はランドルフ王へすべて報告している。その上で、おまえの身に何が起きても知らぬ存ぜぬ、だと言ったんだ」


「そんな……じゃあ、私は……」

「おまえが拠り所にしていたモイサンデル家は、おまえが潰すことになるな?」


 ぐっと拳を握ると、今度は吠えた。


「私が運営をやめようと、あの享楽の見世物を観たがる客は必ずいる! 私をどうこうしようとも、終わらない!」


 その瞬間だった。


 カッ、と凄まじい光が部屋を照らすと同時に、大きな轟音が響く。

 空気が激しく振動した。


 窓の外の遠くで、砂煙と黒煙が立ち上っているのが夜でもわかった。


「な、なんだ、今のは……」

「あれは……闘技場のほうからだな」


 まさか……?


「な、何があった!? 私が、金を使って使って使って、整えたあの闘技場に――!」


 砕けた腰のまま、どうにか立ち上がり、引き出しから双眼鏡を取り出して見る。


「――ふ、ふ、吹っ飛んでる……吹っ飛んでるぅぅぅぅううう!?」


 双眼鏡を奪い俺も覗いてみると、そこには、大きな大きなクレーターができていた。


 地下に『何かの施設』があったらしいが、『強力な謎の魔法』で消え去っている。


 こそこそと動く数人の陰も見えた。

 ちびっ子魔法使いはおねむの時間なので、まあ、誰かは想像がついた。


「もう……好きにしてくれ……」


 モイサンデル卿の心が完全に折れた瞬間だった。


 そのまま俺はモイサンデル卿を王都まで『ゲート』で連れていくことにした。




 深夜にランドルフ王の私室を訪ねると、仕事中だったらしく一人で書類仕事をしていた。


 俺は、事と次第を一から説明していった。


「……そうか。他家の領地であったか……。しかし、殺さなかったのだな、ロラン」

「悪人を全員殺すわけではない。どうしようもない人間は殺すがな」


 それに、一応は王家と血の繋がりがある男。

 暗殺を黙認するようなことを示唆したが、処遇、処罰をどうするかは、ランドルフ王に委ねるのが一番だと思った。


 俺は、うなだれるモイサンデルの髪の毛を掴んでこちらをむけさせた。


「おい」

「ひっ」

「今度何かあったときは、パスカのように容赦なく殺す。覚えておけ」

「は、はぃぃ……」


 他人の行動を律するとき、恐怖を与えるのが一番効果的だ。


「ロラン、今回の件は、礼を言わせてくれ。どうしようもない男だとしても、フェリンド王家と一応血の繋がりがある。闘技場の件もそうだ。あと、力になってやれずにすまんかった」


「もういい。夜が明ける」

「朝食を一緒にどうだ?」


 俺はその誘いには首を振った。

 そうか、とランドルフ王は笑った。


「すまない。仕事(あさ)に間に合わなくなる」


 それに、あの優しいちびっ子魔法使いが、目を覚ますまでには帰らないと。

 


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