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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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大規模クエストとかつての仲間4


 どうしてリーナがあそこにいるのか、俺にはわからない。

 アルメリアやエルヴィが、もしこのことをもし知っていたとすれば、俺にひと言何か教えていただろう。


「……あの魔法、どこかで見覚えがあるな」


 ロジェがぽつりと言う。

 リーナらしき仮面の少女は、ぺこっと頭を下げて去っていく。

 こんなところで、一体何をしているのか。


「おそらく、俺の元仲間だ。間違いなければ、勇者パーティの攻撃魔法担当といえば、だいたいわかるか?」

「道理で」

「わたくしも、戦場で何度か見たことがあるわぁ。あのエゲつない魔法を、あんな小さな子が撃っていたなんて……」


 世の中広いわねえ、と他人事のようにディーはつぶやいた。

 リーナに訊けば、何かわかるかもしれない。


 メインイベントとやらがはじまるらしいが、俺は構わず席を立つ。


 闘技場の裏側は、先ほど何者かにより関係者が倒されたことで警戒を強めていたが、俺にはそんなもの、あってないようなものだった。


『影が薄い』スキルを駆使し、俺を認識させないように極力視界の外を移動する。最低でも視界の隅をかすめる程度にし、通路を進んでいく。


 リーナがいるとわかれば、覚えのある彼女の魔力を辿ればいい。


 通路の左右にはいくつかの部屋があり、魔物や魔獣の気配が漂っていた。

 奴隷と戦わせる見世物もあるんだろう。

 奥の扉から、リーナの気配がした。

 耳を澄ませると、会話のようなものが聞こえてきた。


「リーナちゃぁぁん、お疲れ様ぁ」


 男のような声で、口調は女のそれだった。


「とってもよかったわよぅ。この分なら、すぐに、『ご褒美』あげられるわぁ」

「……よかった、です……。でも、倒しちゃうのは、かわいそう、かもしれない、です……」


「ノンノン、そんなことないわぁ。重罪人ばかりだから、むしろプチンとやっちゃうほうが、世の中のためになるの」


 何試合か見ていたが、そんな情報はどこにもなかった。

 もしそうなら、どれだけ凶悪か、進行役が罪状を並べて客を煽っただろう。


「……それなら、よかった、です……。かわいそう、だと思った、から……」

「優しいのねぇ、リーナちゃんは」

「リーナは、あと何回お仕置きすれば、いいの? ですか……?」

「あとちょっとよぅ。だから、頑張ってねぇ。次は三日後。また迎えに行くから、待っててねぇ」


 扉に近づく気配があったので、通路をひとつ脇に入り見ていると、部屋からガタイのいい男が出ていった。


「……」


 かなりの手練れに見える。

 気持ち悪いしゃべり方をしていたのは、あいつだろう。


 再び扉に近づき、中の気配が一人であることを確認する。


 小さく扉を開けて、様子を見る。

 中は控室のようになっていて、ガランとしていた。

 そっと入って、扉を閉める。


「リーナ」


 久しぶりの再会だった。


「……ロラン? ロランっ」


 何も訊かず、俺のほうへ駆けてくると、腰に抱きついた。


「ロラン、ロラン、ロラン。本物……」

「みんな同じことを言うな」


 抱っこしてやると、ぎゅう、と首に抱きついた。


「もう、リーナ、会えないと思った……」


 よしよし、と頭を撫でる。


「ちょっと大きくなったか」

「うん、ちょっと、大きくなった」


 積もる話はあるが、ここは敵中でもあった。


「近況や事情はあとでお互い話そう。脱出ルートがある。今すぐ動けるか?」


 あの男女(おとこおんな)がリーナとこの闘技場を繋いでいる存在のようだ。

 また戻ってきそうだが……。


「……できる、と、思う……」


 テーブルの上にある紙とペンで、リーナは書置きをする。


『おでかけしてきます。あしたには、もどります』


 まだつたない字でそう書くと、よし、とリーナはうなずいた。

 すぐにこっちに戻って、ぎゅっと手を握った。


「もう、どこにも、いかない……?」

「どうだろうな」

「むう……。ロランはリーナの、お兄ちゃんなので、いっしょにいないと、ダメなの……」


 むくれるリーナの頭をまた撫でて、控室を出ていく。


 リーナが通行証のようなカードを持っていたので、それを見せるだけで誰に咎められることなく客席のほうへ行くことができた。


 客がどこを入口にしてどうやってこの地下闘技場へやってくるのか、それはあとだ。

 それよりも、任務の報告とリーナの事情を訊くほうが先だろう。


 ロジェとディーの二人と合流し、また非常通路を使い外へ出た。

 リーナは繋いだ俺の手を離すつもりはなく、ずっと握っている。


「こんなチビっ子がねぇ……」


 しげしげ、とディーはリーナを見つめている。

 まだ人見知りが治らないリーナは、俺を盾にするようにしてディーから隠れた。


「吸血鬼のくせに何を言う。魔法の才能に年齢は関係ない。生まれて数年で、すでにワタシ以上の逸材がいるのが、魔法の世界だろう」

「それは知っているけれど……」


 理不尽よねえ、才能って、とディーは小さくため息をつく。


 俺の魔力消費が激しいのもあり、ロジェに『ゲート』でジャンプしてもらい、家に帰ってきた。


「ま、またチビっ子が増えた……!?」


 ライラはリーナを見て目を丸くしていた。


「り、リーナ……です。……よ、よよしく、おねぎい……おねがい、します……」


 ちょっと噛んだが、三人がほわわあん、と癒されていた。


「最近芽生えた妾の母性とやらが、ピクピクと反応する……」

「ど、同意です。なんだか、小動物を見ているような気分に……」

「そうねえ。庇護欲が凄まじいわぁ……」


 三人が覗き込むので、リーナはまた俺の後ろに隠れた。


「珍獣扱いはやめろ。今回の件は、俺が直接アイリス支部長に報告する。もっと上でもいいが、まずは直近の上司へ報告するのが筋だろう」


 家の中には、風呂やら食事を取った元奴隷の子供たちがいた。


「おい、ニンゲン。貴様、あの子たちはどうする気だ」

「希望者がいれば、冒険者試験を受けさせる。望んでいるなら、可能な限り故郷へ帰す。手間が惜しい。ロジェとライラ、子供たちの聴取を頼めるか?」


「ハン! なぜワタシがそのようなことをせねば――」

「妾でいいならそうしよう」

「ライリーラ様がなさるくらいなら、ワタシに任せろ!」


 くるくるとよく返るロジェの手の平だった。


「ディーは冒険者ギルドで、この子たちでもできそうな、クエスト未満の仕事があるかどうかを確認してくれ。何をするにせよ、多少の金は必要になる」

「はぁい」


 ライラとロジェの二人が、奥の部屋にいる子供たちのところへ行き、ディーは冒険者ギルドへとむかった。


「さて、お互い話すことが多そうだな?」

「……うん」


 誰もいない食卓で俺が席に着くと、リーナがちょこんと俺の膝に座る。


「……」

「……」


 当然、とでも言いたげな顔だった。

 まあいい。

 俺は、自分が魔王を倒したことは伏せて、みんなと別れてからのことを簡単に話した。


「ロランが、冒険者ギルドの、ひと……?」

「ああ。今ではな」

「へんなの」


 くすくす、とリーナは笑った。


 リーナのことを訊くと、ぽつぽつと教えてくれた。


「リーナ……陛下ちゃんから、お金がいっぱいもらえるようになったから、育った孤児院に、たくさんお金が入るようにしたの」


 けど、結果的にそうはならなかったらしい。


 孤児院というのは、その地域を治める領主がほぼ慈善事業として運営することが多い。


 院長は、前領主に孤児院を任された元神父らしいが、領主が変わってからというもの、風当たりがキツくなったという。


 ランドルフ王から運営費として渡されている金を、丸ごと懐に入れていたというのは、想像に難くない。


 以前は、運営費を領主がわずかながら、リーナがお父さんと呼ぶ院長へ渡していたのだが、それが滞るようになり、やがて完全になくなったという。


「お父さん、リーナが、がんばったから、もうだいじょうぶって言ってくれたのに、ぎゃくにお金がぜんぜんもらえなくなって、おかしいって言ってた。リョウシュ様のところにお話をしにいくって……」


 門前払いどころか、領主に金をせびろうとした、という罪で捕まってしまったという。


 ぐすぐす、と小さな手で目元を拭うリーナ。

 リーナにとっては、運営費の横領をランドルフ王に報告する以上の一大事だった。


「パスカっていうへんな男の人がきて、おしえてくれたの。『お父さんを助けたいならお金がたくさん要る。そのための方法を教えてあげる』って」


 あの男女が、パスカだそうだ。

 どこかでリーナのことを耳にしたんだろう。


 現れるタイミングからして、領主と繋がりがあるのかもしれない。


 そしてリーナは、パスカに今日はじめて、地下闘技場へ連れて行かれたそうだ。


「リーナが、いっぱいたたかって勝てば、お父さんをろうやから、出してくれる、って……」


 魔法能力は天才と言っていいほどだが、中身はまだ一〇にも満たない子供だ。

 そんな純粋なリーナを焚きつけ騙し、今度はファイトマネーすら搾り取るつもりか。


「だから、リーナ、がんばる」


 そうか、と俺はリーナの頭を撫でた。


「……ロランのなでなで、リーナ、すきぃ……」


 ぐりぐり、と楽しそうにリーナは頭を押しつけてくる。

 甘えん坊モードになり、リーナはこっちをむいてぎゅうっと抱きついた。


 よしよし、と背をさすってやった。

 今まで一人でそれを抱え込んで、どうにかしようとしてきたんだろう。

 リーナの心情を察すれば察するほど、俺の胸の内はシンと冷えていった。


「パスカ、か……」


 一度見ただけだが、顔は覚えた。

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