大規模クエストとかつての仲間3
俺は子供たちを出口まで送った。
以前、美少女戦隊を解放したときのことを思い出し、今後のあてを聞いたが、全員首を振った。
『ゲート』を設置し、一〇人とともに家までジャンプする。
この人数ははじめてだったのもあり、消耗が大きかった。
物音を聞きつけたライラが外に出てきた。
「貴様殿……何をしておる。仕事に行ったのでは……それに、その子らは」
「詳しいことはあとで話す。元奴隷だ。俺が帰るまで、世話をしてやってくれ」
「うむ。わかった」
「頼む」
子供たちは戸惑っていたが、ライラが手招きして家の中へ連れていった。
俺はまたすぐに『ゲート』で地下闘技場への入口までジャンプする。
閉ざされていた非常口だけあって、運営する人間も存在を知らないのかもしれない。
「だとすると、作ったのではなく作ってあったものを再び利用している、ということか」
客席まで戻ると、騒ぎは一段落しており「死闘」と呼ばれる一対一の対戦が行われていた。
「カッコつけめ」
ロジェに毒づかれた。
俺が首を刎ねる瞬間は見えなかっただろうが、広場へ飛び降りるところまでは見えたんだろう。
「合意の上での対戦なら構わんが、理不尽なものは見るに堪えなくてな。今どうなっている」
「運営の人が不手際を謝って……今の戦いよぅ」
「言ってくれれば、ワタシだって……」
ロジェが拗ねたように唇を尖らせた。
こいつは、意外と正義感が強いらしい。
「すまんな。大勢が見ている中なら、一人のほうが動きやすいんだ」
しかも間一髪だった。話し合っている暇もなかった。
「鮮やかで、残酷で、雷のように無慈悲で、とぉってもステキだったわぁ。見えなかったけど、ロラン様がやったってすぐにわかったもの」
ウフフ、と笑うディーは大満足のようだった。
奴隷を狩るという、理不尽な見世物はあれだけのようで、今行われているのは、腕自慢同士の魔法、道具、何でもありの戦いだった。
殺すこともあったが、戦闘不能により勝利、という戦いもあった。
「ちょっとだけ、周りの人たちに尋ねてみたのぅ」
「助かる。どうだった?」
代わりにロジェが答えた。
「ワタシが聞いた限りでは、運営、主催者が誰なのか、知らないようだった。紹介されて、ただここに来た、と。その紹介者もはじめは同じだったという」
「一見さんが入れないような、かなり閉鎖的な客層だとは思ったが、そこまでか」
主催や運営の人間がどこの誰かのか知らないが、残虐な見世物が見えて博打ができる。
それだけで集まっているんだろう。
「わたくしもよぅ。ロジェ隊長と同じで、誰も知らなかったわぁ」
「ずいぶん徹底されているな」
「逆に言えば、徹底しなくてはならないような、主催者なのかもしれない」
俺はロジェの意見にうなずいた。
その可能性は高い。
……あとで警備の人間を拉致するか。
いや、末端の人間では知らないかもしれないな。
関係者らしき人間がいるとすれば、入場口の裏側だろう。
席を立とうとしたとき、アナウンスが入った。
『続いての対戦に参ります! ――人魔大戦時、魔物や魔族を屠った数は、三〇〇! メルセデス――――!』
出てきたのは、人間の身長ほどもありそうな剣を担いだ大男だった。
わっと会場が湧いた。
「メルセデス! ぶっ殺せ!」
「てめえに一〇〇万賭けてんだぞ! 負けたら許さねえぞ!」
『対戦者は、初の「死闘」となります。――自称魔法使いの仮面ガール!』
登場したその人物に会場がどよめいた。
華奢で小柄。
顔には面のようなものをつけていた。
もしかするとローティーンより歳は下かもしれない。
「まだガキじゃねえか!」
「おいおい、メルセデスをなめんなよ!」
その少女は、おどおどした様子を見せ、一度ぺこり、と頭を下げた。
「あんな子供まで……」
ロジェの表情がいっそう歪んだ。
ゴングも合図もなく、戦いがはじまる。
大剣を構えて突っ込む大男に対して、少女が素早く魔法を発動させる。
「あれは――」
「ん……あの子供……かなりやるぞ」
ロジェの見る目が変わった。
キュオン、と矢のような攻撃魔法が放たれ、大男に直撃する。
だが、ダメージはすくなそうだ。
『最初から、大魔法を撃つのは下策だ』
『どうして?』
少女は、その大男に対し、初動が速く、低威力の魔法を連射する。
会場は大ブーイングだった。
魔力の波動を感知するたびに、客席には対魔法障壁が展開された。
『敵の力量を計る必要がある。撃って当たればいいが、当たらなければどうする? 距離を詰められると完全にアウトだ』
『……ロラン、頭いい……』
速射し続けたが、大男が防御に徹すると、それも効かなくなりはじめた。
すると、青紫の魔法陣が少女を中心に広がった。
『小魔法で力量を計りながら、隙を窺え。足を止めさせろ。確実に当たると思ったとき、得意魔法を撃てばいい』
『……わかった。……やってみる』
大男が、撃つ魔法が速射系でないことに気づき、接近しはじめるまでに五秒を要した。
……これが明暗を分けた。
「相当の魔力……恐ろしい……あんな子供が……」
ディーがぼそっと言った。
未知数の敵には、初動が速い魔法攻撃で牽制を。
隙を作ったとき、はじめて威力の高い攻撃魔法を撃てばいい――。
かつて俺は、あの小さな少女にそう教えた。
まだ八歳だった、勇者パーティの天才魔法使いに。
「『スターブラスト』」
何度も何度も見た、群青色の攻撃魔法が爆音とともに放たれた。
あの攻撃魔法で、数千の敵を蹂躙したことが思い出される。
フルパワーでないことだけはわかったが――。
凄まじい衝撃音がこだまし、客席が大きく揺れ観客の悲鳴が上がる。
魔法障壁を破り、壁の一部を破壊したらしい。
射線上にいた大男は、大剣すら残さず消えて去っていた。
「やはり、リーナか」




