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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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大規模クエストとかつての仲間1


「今、いいかしら?」


 アイリス支部長が書類を手に事務室へやってきた。


「はい。今は、冒険者たちも捌けたので」


 朝にやってくる真面目な冒険者たちには、新たにクエストを斡旋し、ギルドをあとにした。

 もう冒険者はまばらで、職員のほうが数は多いくらいだった。


「マスターから大規模クエストの件よ」


 アイリス支部長は、書類を数枚俺の机に置いた。


「大規模クエスト。依頼主は、冒険協会。この地域ではかなり久しぶりね」


 目を通していくと、どうやらこの近辺で地下洞窟が見つかったらしく、その調査をしてほしいとのことだ。


「地下洞窟……。こういうのは、ギルドが率先してやっていいものなんでしょうか?」


 未知の場所へ冒険するとき、珍しい植物や動物、魔物、魔獣に遭遇する可能性がある。

 危険ではあるが、誰も入っていないこともあり、貴重なアイテムを見つけることもあった。


 ハイリスク・ハイリターンなのだ。


 帰って来られない可能性も高いので、調査を任せた、ということか。

 よくよく見てみると、情報提供料としてその冒険者にはいくらか支払っているみたいだった。


「リスクを冒したリターンより、ノーリスクでローリターンを取った、ということですか」

「みたいね」


 詳しい話はこっちで、と言ってアイリス支部長は、支部長室へとむかう。

 俺もあとをついて行き、中へ入った。


「で。このクエストの指揮をあなたにとってほしい、とマスター・タウロから指示があるの。戦術顧問としてね」

「ええ。それは聞いてます」


 どうしたらいいのかさっぱりだったが、冒険協会……ギルド本部からの指示としては、戦術顧問の俺にすべて一任という形らしい。


「……体のいい押しつけか」

「そんなこと言わないの。逆にいえば、それだけ戦術顧問に指名したあなたを信頼している、ということなのよ?」


 名誉なことなんだから、とアイリス支部長は付け加えた。


「というわけで、この仕事を優先してもらうから、通常業務を外れてもらうわ。こっちの仕事に専念して?」

「承知しました」


 書類を持って席に戻る。


 その未知の洞窟へ潜るのに、どれくらいの戦力が必要かも未知数。

 完全に調査隊だな。


 俺は冒険者名簿をめくりながら考える。


「戻って情報を公にできなければ、それは調査とは言わない……」


 大規模クエストは人数に上限がないらしいが、実際進むのは未知の洞窟。


 道幅もわからない以上、大勢で進んでは逆に危険だ。

 万が一のとき、後続が邪魔で退路を塞ぐ可能性だってある。


 となると、戦力は少数精鋭であるほうが好ましい――。


「ロランさん、さっきからブツブツと、何を言ってるんですか?」

「大規模クエストが発令されて、僕が戦術顧問として、その指揮を取ることになったんです」


「戦術顧問になったとは聞きましたが……具体的には何をするんです??」

「これまで指名された冒険者が指揮をしていたのを、職員が采配を振るうようでして」

「すごいじゃないですかっ! マスターに認められた、職員……! ロランさん、すごいですっ!」


 無邪気にミリアはパチパチと拍手してくれる。

 だが、ぴくぴく、と他の女性職員たちは耳だけを動かしていた。


「アルガンさんが、マスターに認められている……?」

「ってことは……出世コース驀進中……」

「最年少で支部長昇進も有り得る……!」

「アルガンくんなら、本部へ栄転も……上手くやれば、ワンチャン王都で華やかに暮らせる」

「ミリアには悪いけど、ここで見過ごしたら女が廃る……!」


 視線と殺気に近い気配を感じる。

 目の前のミリアだけは、純粋にそのことを喜んでくれていた。


「だから冒険者名簿をめくってたんですね!」

「そうなんです。なかなか、人選が難しくて」


 報酬については、戦術顧問が任務終了後、適正額を申請し、その額を冒険者たちでわけるシステムのようだ。

 だから今回は、洞窟の広さや危険度を俺がランク付けし、あとで報酬額を決めるということになる。


 最初は一次調査ということにして、ベテランや知識が豊富な者を少数連れていきたい。

 ……いや、そういう者ほどこの手の調査は、リスクが計り知れないから嫌がりそうだ。


「ロラン君、オレ、いい冒険者知ってんぜ!」

「俺が世話してる冒険者も腕がよくってなー」


 話を聞いていたのは女性職員だけじゃなかったらしい。


「ありがとうございます。リストを作ろうと思うので――」


「それ俺がやる」

「いや、適当なてめえはダメだ」

「ガサツな男には務まらないから、私がやるわ」


 協力してくれているのか、それとも俺に恩を売ろうとしているのかは不明だが、ともかく何から手を付けていいのかわからないのでありがたかった。


「オイオイ、後輩に媚売るなんざ、おめえら恥ずかしくねえのー? ったくよぅ。自分の仕事まずしてこーぜ? なあ?」


 ぶれないモーリーだった。

 言い方はアレだが、言っていること自体は正しいのである。


「こいつに任せときゃいいんだよ。全責任はロランが取るんだからよ。オレたちゃ、いつも通り仕事してたらいいんだってば」


 鼻クソをほじりながら言うので、説得力はゼロだった。


「たしかに、その仕事はロランさんが任されたもので、わたしたちには関係ありませんけど……同じ職場の仲間として、みなさんで協力……しませんか? ロランさん一人じゃ大変です……」


 やいのやいの、と揉めていた数人の職員が、ミリアの言葉で黙った。


「……それも、そうだな」

「戦術顧問なんて、すげー大変そうだもんな!」

「まず、調査開始日を決めましょう?」


 そのやりとりを聞いていた他の職員たちも協力してくれた。


「仲良い冒険者パーティが、五日後クエストから戻ってくる予定なんだ。だから、状態によるけど七日後スタートとかどうだ?」

「ありがとうございます。人選はさせていただくので、ひとまず七日後に設定しましょう」


 俺が言うと、他の先輩職員が言った。


「こういう冒険者らしい冒険のクエストを受けてくれそうな、腕利きの冒険者、みんな、知っている限りリストにしよう」

「七日後に間に合いそうな人な! わかればスキルも書いておこう!」

「あと、団体行動ちゃんとできるやつだぞ!」


 言うと、みんなが笑った。

 集団で行動するのが苦手なソロ冒険者は多い。

 そういうやつに限って腕がいいのだが。


「水や食料とか、物資はどうするの?」

「そういう経費になりそうなものは、あとで本部に請求すればいいみたいです」

「誰か! 消耗品、道具屋さんに発注しといて!」


 にわかにカウンターの内側が騒がしくなりはじめ、とある男が、カウンターの席の椅子をくるーんと回転させた。


「パイセンであるオレが? 後輩のために一肌脱いじゃおっかなぁぁぁぁ? ――ミリアちゃぁーん、オレ、手伝えることあるぅ? 何でも言って」


 自分を親指で差しながら、キメ顔でモーリーが言う。


「いえ、とくにないので、ご自分のお仕事をしていてください」

「…………はい」


 モーリーと目が合う。

 寂しそうな顔をするのはやめろ。


 くるーん……。


 モーリーは、また椅子を回転させ、誰もいないカウンターのむこうをむいた。


 かくして、四〇人ほどの冒険者リストができあがった。


 ランクは最低でE最高でA。

 みんなよく知っている冒険者を推薦したのか、スキルや特徴、性格が細かく書いてあった。

 一芸に秀でていたり、知識が豊富だったり、低ランクだからと一概に切り捨てられない人材もいた。


「みなさん、ありがとうございます。参考にさせていただきます」

「まあな。困ったことがあれば、何でも言えよな?」


 ドヤ顔でモーリーが真っ先に反応をした。


 水、携行食料、回復薬(ポーション)などの薬品を多数押さえた、と戻ってきた職員が教えてくれた。


「ちょっとくらい、頼ってくれよな?」

「うん。ロラン君には、いつも助けられてるからさ」


 俺はみんなに再度お礼を言った。


 物資を確認し、みんなが作ってくれたリストを手に、特別パーティを試作してみる。

 あくまでも調査。

 戦闘能力も必要だが、それ以外も必要となってくる。


 ……だが、リストの冒険者を見つけて、事と次第を説明しても、首を縦に振ることはなかった。


 冒険者からすれば、報酬がいくらになるのかわからず、危険も未知数となれば、リスクのほうが高く見えるんだろう。


 俺単独で行ってもいいが、冒険者の功績や報酬をすべて潰してしまうことになる。

 それは、ギルドの体裁としてもよろしくない。

 職員が冒険をするのであれば、冒険者は不要となってしまうからな。


 リストの名簿に斜線が多くなり困っていたときに、ディーがギルドにやってきた。


「ロラン様ぁ、クエスト終わったわよぅ?」

「いた。便利なやつ」


 アンデッド化したことで、太陽を苦にすることがなくなった。

 それに、吸血鬼。

 洞窟の暗がりは、むしろ本領を発揮できるフィールドだ。

 もう死んでる上に、腕も立つ前衛。


「やだぁ、便利な女だなんて……。わたくし、嬉しい……」


 ときめいているアンデッド吸血鬼を連れていくことにした。

 内容は説明する前からオッケーだった。


 リスクを上回る腕がある冒険者なら、それを苦にはしないだろう。

 だが、ディー以外でそんなやつがいただろうか。


 その日家に帰ると、ロジェがいた。


「遅かったようだな、ニンゲン! まずは、お疲れ様とでも言っておこう。ライリーラ様が夕食を作って待っている」


「いた。リスクを苦にしないやつ。前衛後衛ができる、使い勝手のいい能力。冒険者でないから報酬も要らない」


「? 何の話だ」


 夕食の席で理由を説明すると、フン、とロジェは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「ワタシを使っていいのは、ライリーラ様ただ一人だ。断る!」


「ああ、前に言っておった話か。ロジェ、手を貸してやってくれ」


「――であれば!! このロジェ・サンドソング、ご同行いたします!!」


 忠誠バカのエルフも連れていくことに決まった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大相撲クエストに空目しました
[気になる点] 魔王軍指揮してて草
[一言] 何か妙にロジェが、不憫で健気に感じる。
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