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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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王都へ出張1


 あとで支部長室に来てちょうだい。

 そんなふうにアイリス支部長に言われた俺は、朝礼後、ノックをして支部長室へ入る。


「今回は、何ですか?」

「実はね……大きなギルドって、慢性的に人員不足なのよ……とくに王都のギルドは」


 事情を聞いてみると、どうやら王都のギルドで何人か欠員が出てしまったらしい。

 一人は、冒険者への転身してしまい、もう一人は田舎へ帰り、またある人は、デキちゃった婚でギルドを辞めてしまったそうだ。


 普段なら新人を入れてから辞めてもらうようにしているらしいが、今回は急な話だったらしい。


「それで、あなたには王都のギルド……いくつかあるのだけど、西地区のギルドに出張して、ヘルプに入ってあげてほしいの」

「王都に出張ですか」


 王女勇者様がまたズカズカやってこないかだけ心配だが、このラハティ支部は、常に大忙しというわけでもない。

 冒険者志望の人が大挙として押し寄せてくれば俺の出番だろうが、そんなこともないだろう。


「僕でいいのなら」

「ありがとう。助かるわ。三人の穴くらい、あなたなら一瞬で埋めてしまいそうね」


 紹介状を書いてもらい、受け取った。


「これを、そこの支部長に渡してあげて」

「承知しました」

「他のギルドがどういうふうに仕事をしているか、それを体験するだけでもいい勉強になると思うわ。がんばってね」


 期間は一週間だ。

 このことをアイリス支部長が事務室で職員のみんなに簡単に言うと、


「お、王都の、ギルドに、ロランさんが出張……!?」


 ミリアがショックを受けていた。


「都会の、いやらしい女に……ロランさんが……!?」


 何やら心配してくれているが、俺は食い物にされるよりは食い物にする性質なので、安心してほしい。


「ロラン君なら、五人くらい孕ませて帰ってきそう」

「支部長に昇進するんじゃ……」

「貴族の未亡人と駆け落ちしたり……」


 みんな様々なことを口にしたが、それほど王都での暮らしは誘惑が多いそうだ。


「この支部は、ロランの恩恵を凄まじく受けたギルドなのよ。だから、それをお裾分けしてあげないと。一応、職場は違っても同じ組織の人間なんだし、助け合いよ、助け合い」


 そう言って、ざわつく事務室をアイリス支部長は黙らせた。


 みんなにお土産を色々と頼まれ、俺はギルドを送り出された。

 ミリアだけは、うるうると涙目でハンカチを振っていた。

 戦場に行くわけでもないのに、大げさな。


『ゲート』があるから毎日帰って来てもいいが、宿代は先方のギルドが支払ってくれるそうなので、遠慮なく宿泊させてもらうことにした。


 俺は少々の荷物を取りに家に戻る。


「王都……? わ、妾はやめておく……」


 スリ対策なのか、紛失防止なのか、ライラは、あれから買い直した猫の財布に紐をつけて首にかけている。

 だが、以前お気に入りの財布を失くしたのがトラウマになっているようだ。


「妾は、同じ轍は二度も踏まぬ……。この貴様殿に再び買ってもらった財布を失くすようなリスクは避けるのが、賢明……!」


 ロジェが今夜あたり来ると昨日言っていたな。

 あいつがいれば気も紛れるだろう。


「王都とはいえ、仕事である。頑張ってくるのだぞ」


 そう言ってライラに送り出された。




 王都に着き、ギルドにほど近い宿を取ると、俺はさっそく出張先の西地区のギルド――西支部に顔を出した。


「あ~。君がヘルプの人?」


 眼鏡を上げ下げしながら、紹介状と俺を交互に見る。


「ロラン・アルガンです。ラハティ支部から参りました」

「んなことは、知ってんの。書いてあるから、これに」


 ぺしぺし、と眼鏡の男は、紹介状を叩いた。


 スタン・ジャッカという、この王都、西ギルドの支部長だ。


「こんな新人寄越されても……」


 はあー、とこれ見よがしに、スタンは大きなため息をついた。

 年は四〇代前半くらいに見える。顔に疲れが滲んでいた。


「業務はひと通りできます。指示をください」

「王都のギルドは、田舎のギルドとは全然違うんだよぉ? わかってる、それ。向こうでできるからって、こっちでできると思わないことだな」


「ラハティの町は、田舎というほどではありませんが――」

「王都から見りゃ、だいたい田舎なんだよ。ここは、新人教育するための場所じゃないんだから、わかりません、聞いてません、出来ません、そういうのは、ナシね」


 ちら、とスタンは事務室のほうを見る。

 ラハティ支部より大きな事務室は、カウンターが一〇席あり、どれも受付の職員がいて向かいは冒険者で埋まっていた。


 がやがやと騒がしいせいで、誰も彼も、大声で話して会話をしている。


「さ、行った行った。冒険者は次々来るから、ちゃんと捌いて。それ、君の仕事だから」


 くるっとスタンは背をむけて支部長室に入った。

 しばらく一緒に仕事をする仲になるので、俺は仕事ぶりを観察しながら他の職員たちに挨拶をしていった。


 忙しいこともあり、おざなりの挨拶になったが、何がどうなっているのか、だいたい把握できた。


 カウンターで受付をしている冒険者だけでなく、順番待ちで後ろのソファで談笑している者、外で並んでいる者もいた。


 ざっと見ても五〇人以上は冒険者が受付待ちをしている状態だった。

 その忙しさのせいで、職員はみんなピリピリしている。


 俺は書類やら何やらが置かれていたカウンターを整理して、もう一席増やした。


 椅子は、いいだろう。

 すぐ終わる。


「こちら! クエスト報告受付用の窓口です! クエスト報告! クエスト報告の冒険者様は、こちらへどうぞ!」


 俺が声を張ると、職員たちがまず、ん? と気づいたが、不都合はないようで何も言わなかった。


 ソファに座っていた冒険者がさっそくやってきた。


「ロックバットの討伐クエストの報告なんだが」

「Dランクの一羽につき二〇〇〇リンの報酬でしたね」

「ああ、そうだ」


 このクエストは、ラハティ支部でも出ていた。

 クエストは、地域限定の物もあるが、採取、討伐は広く募集されることもある。

 そして、採取、討伐系は鑑定を必要とし、その鑑定に時間がかかってしまうのだ。


「拝見します」


 渡された麻袋の中には、二四本の牙が入っていた。

 形状からして全部そうだ。


「では、一二体討伐ということで――」

「オイオイ! ニイちゃん! 二四本入ってるだろ!? 二四体討伐したんだぜ、こっちは!」


 バン、とカウンターを叩いて威圧してきた。


「二本で一対とさせていただいています。一体につき、二本牙がありますので」

「………………そ、そうかよ」


 と、男は目をそらしながら言う。

 脅せば通じるとでも思ったか。


 俺のことをあまり見かけないから、不慣れな職員だとでも思ったんだろう。


「あまり、ギルド職員を騙さないほうがいいですよ。あなたがクエストをしたい、と思っても、斡旋するのはこちらなので。キツいクエストも、割のいいクエストも、誰にどう斡旋するかは、すべてギルド側の裁量次第ですから」


「……うっ……す、すみません……もう二度としません……」


 肩をすくめて小声で謝罪した男に、報酬を渡した。

 また別の冒険者がやってきて、薬草を鑑定し、報酬を渡す。

 今度は少年冒険者、次は女冒険者――。

 何人もクエスト報告を捌いていると、ソファで待っている冒険者も外で待っている冒険者もいつの間にかいなくなった。


「あれ……いつもより、楽……?」

「ああ……オレ、斡旋しかしてないぞ」

「報告専用窓口のお陰だ」


 業務を一種類に限定すれば、繰り返すだけでいいので集中しやすいし、ミスは減る。


「ナイスヘルプ」


 ベテラン風の職員に肩を叩かれた。


「いえ」


 報告する冒険者がいなくなったあたりで、スタンが中にやってきた。


「君、君ィ、見てたけど鑑定部署に回してなかっただろぉー?」

「はい。自分でできたので」

資格(ライセンス)は? ラ・イ・セ・ン・ス。――ないだろうが」


 目を剥いたスタンは、ぺしぺし、とカウンターを叩く。


「たしかにありませんが、わざわざそちらに回しては、手間が増えます。鑑定者の人数も多くありませんし、できる者がいるなら、手分けしたほうが効率がいいです」


「だからって勝手なこと――」


 後ろから、その鑑定部署の一人が、熱くなりはじめたスタンに声をかけた。


「あの、支部長」

「なんだぁ?」

「一応、こちらでも見させてもらいましたが……」


「適当だっただろ? 早けりゃいいってもんじゃねえの。どうすんだ、支払った報酬!」


「再鑑定しましたが、すべて、正確でした」

「へ?」


「三二種類、討伐の証から薬草類に至るまで、全部で二〇〇個近くありましたが、すべて正確で間違いありませんでした」

「…………」


 職員や他の冒険者がいつの間にか見守っており、スタンの反応をじいっと窺っていた。


「…………き、規則は、規則だから、今後、気をつけるように……」


 と、小声で言った。


「今日は、冒険者の数も少なくて助かったな、新人クン」

「あの、支部長」

「なんだぁ?」


「今日は、むしろ多かったです。ヘルプが入るまで……朝までかかるんじゃないかってくらい、多かったです」


「…………っ」


 職員や他の冒険者がいつの間にか見守っており、スタンの反応をじいっと窺っていた。


「こ、今後も、この調子で頑張るように」


 そう言って、スタンは逃げるように支部長室へ戻っていった。

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