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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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お悩み相談

通常のギルド業務回です。


「あ、あのッ!」


 男の冒険者がカウンターの向かい側へやってきたと思ったら、どうにも様子がおかしかった。


「はい? 今日はクエストをお探しですか?」

「い、いえッ。そ、そういうわけじゃなくて――」


 何歳くらいだろう。

 二〇歳にもなってないくらいの、少年と言っても通じそうな容姿をしている冒険者だった。


 俺が視線だけでわけを尋ねる。


「……その……マリッサが……」


 顔をはっきりと覚えているわけではないが、最近クエストを斡旋した若い女冒険者だ。


「マリッサに、妙な色目を使うのはやめてくださいッッ! ちょ、ちょっとモテるからって! ま、マリッサには、ぼ、僕がいるんですから」


 その剣幕に俺が戸惑っていると、ぬっと見慣れた中級冒険者が現れた。


「ちょいちょい、ニイちゃん。兄貴に何? なんか用?」


 がしっと若い冒険者の肩を掴むニール冒険者。

 笑顔だが目が笑ってない。

 反対の肩を、弟分のロジャー冒険者が掴む。


「ヘイヘイ、僕ちゃん……兄貴に文句あるんなら、オレたち通してくんねぇかなぁぁぁぁああ?」

「ひ。いや、文句というか……お、お願い、というか……その……」


 見た目がイカつい二人に凄まれたせいで、若い冒険者は縮み上がった。


「兄貴、世間知らずなニイちゃんを、ちょっくら教育してきますわぁ」


 ぐいっとニール冒険者が襟首をつかんだ。


「離してあげてください。話なら聞きますから」


 とはいえ、こっちはまったく覚えがないので、言いがかりにすら聞こえたが。


 ぱっとニール冒険者が手を離すと、へなへな、と椅子に座り込んだ。


「兄貴に、あんまヌルいこと言うんじゃねえぞ」

「脅すのもやめてください」

「ウスッ、すみません!」

「謝る人が違いますよ」


 ばつが悪そうに頭をかくと、「悪かったな」とそれぞれが謝った。

 中級冒険者の二人は、空いているカウンターでクエスト受領の手続きを進めはじめた。


 とんだチンピラだ。


「知り合いの冒険者が失礼いたしました」

「い、いえ…………」


 ニール冒険者が脅したせいか、すっかり委縮してしまっている。


「マリッサさんがどうかしましたか? 僕が色目を使っているとか」

「すみません……さっきは、勢いというか……感情的になってしまって……」

「いえ、気にしてませんよ」


 改めて自己紹介をしてくれた。

 この若い冒険者の名前はギル。Eランクの駆け出し冒険者だ。

 そうか。こいつがギルか。


「マリッサは、僕と同じ村出身で、一緒に村から出てきたんです」

「マリッサさんもEランクでしたね」

「……はい。元々、マリッサは村から出る口実がほしかっただけだったんです。でも、お金がないから、とりあえず自由にできるお金を作るために冒険者になって……でも、最近妙にやる気を出してクエストに取り組むようになったんです」

「いいことじゃないですか」


 何が問題なのか、と俺は内心首をかしげた。


「いいことではあるんですが、それが……受付にカッコいいお兄さんがいるからっていう理由なんです。頑張ればそれだけ褒めてくれるし、ダメならダメだって叱るし、ダメな原因を探して対策を一緒に考えてくれるし……」


「そんな手厚い対応をする受付がいるんですね」


 うんうん、と俺は感心していた。

 俺が理想としている受付の応対だ。

 冒険者のやる気を引き出させるだけでなく、上手くできなかったときの対策まで考えるとは。


「あなたのことですよ!」


 膝をぽんと叩いた。


「道理で」

「だから、その……マリッサが来て、指名をされても相手をしないでほしいんです……」


 と言っても、相手をするのが俺の仕事で、クエストを頑張ってこなしてもらうようにするのもそのうちのひとつだからな。

 ギルが言っていることは一方的で、俺が耳を貸す義理もないが……。

 どうしてこうなっているのか、おおよその見当はつく。


「ギルさんは、僕に嫉妬しているということですか」

「…………」


 口をへの字にして、苦そうな顔をした。

 図星らしい。


 年頃の男女が一緒に村から出てきて、一緒に冒険生活。

 意識しないわけがない。


「幼馴染……でしたっけ」

「え? ああ、はい。そうです」

「僕に要求したそれを、マリッサさんには?」

「いえ……言ってないです。やきもちを焼いていると思われるのも、カッコ悪いし……」


 そう思っているのは、案外男だけだったりもする。


「気持ちを素直に伝えてあげてください」

「え……でも、それって、僕がマリッサのことを好きだって言っているようなもんで……」

「違うんですか?」

「うっ……違わなくも、ないですけど……」


 照れはじめた。

 なんと初々しいのか。お互い。


「それができたら、ギルさんのご要望を聞いて、マリッサさんが来ても相手をしないようにします。いいですか?」


「は、はい……」


 くすっとミリアが後ろで笑った。


 振り返って唇の前に人差し指を立てる。

 この前の話をミリアも聞いていたのだ。


 俺は頑張ってください、とギルを送り出した。


「楽しみです~。あの二人、どうなるんでしょう……トキメキが止まりません……!」


 ミリアはやたらとわくわくしていた。

 お互い似た者同士なので、きっと大丈夫だろう。



 数日後のことだった。

 ギルがお礼を言いにきた。


「職員さん、ありがとうございます。僕が思っていることを打ち明けたら……マリッサも気持ちは同じだったみたいで……」


 隣にいたマリッサが、はにかみながら俺に会釈をした。


『職員さん、聞いてくださいっ。一緒に村から出てきた男の子とのことなんですけど……』


 ギルよりも前に、マリッサはそんなふうに相談を切り出した。


 今ではお互い手を繋いで幸せそうだ。


「付き合うことになったんですか~? おめでとうございますっ!」


 俺を押しのけてミリアがずいっと顔を出した。


「えと、はい……。だからきっかけを作ってくれた職員さんにお礼をしようと思って」


 一緒の村で育ち、一緒に村を出た年頃の男女。

 意識しているのは、ギルのほうだけじゃなかった。


『あたし……なんか、妹みたいに思われてるんじゃないかなって……』


 マリッサはそんなふうに思っていたらしい。

 だから、脈の有無を確認するために、違う男を気にしてみたらどうだ、と俺は言った。

 それが俺自身になるとはさすがに思わなかったが。


 効果はてきめんだったわけだ。


 マリッサが冒険のやる気があまりないのは当然だった。

 ギルの夢が冒険者だからだ。

 村にいては、叶う気持ちも叶わない、とギルについてきたのだ。


「あたしからも、お礼……ありがとうございました」

「いえ。よかったです。もうこれからは幼馴染じゃないですね」

「「はい」」


 くすぐったくなるくらい、初々しい二人だった。


 ニールとロジャーは、その様子を死んだ魚のような目で見つめていた。


「幼馴染って、なんだっけ……」

「さあ……新種の魔物ッスかね……」


「恋人って……カノジョって……なんだっけ……」

「さあ……新種の魔物ッスかね……」


 照れ笑いをしながら、二人は去っていった。


「これで、お互い冒険を頑張ってくれそうですね」


 トキメキが止まらないミリアは、まだ遠ざかる背を見つめていた。


「ステキです……お互いがお互い幸せになれるように頑張るなんて……ステキですぅぅぅ」


 できれば、これからも見守ってあげたくなる二人だった。


「兄貴……オレ、どうやったらモテるんですか……」

「ニールさんは、清潔感がゼロなので、身綺麗にしてください。まずはその無精ひげを剃るところからはじめましょう」

「う、ウス!」

「先輩!? そのヒゲ、ポリシーだって言ってたじゃないッスか!」

「う、うるせええ! 止めるんじゃねえええ!」


 この一部始終を見ていた冒険者たちが、俺の受付に並んだ。

 俺が応対する冒険者はほぼ女だったのに、この日から男女比は同じになった。


「ど、どうやったら、職員さんみたいにモテますか……?」


 しばらくは、クエストの斡旋よりも恋愛相談が仕事になってしまった。

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