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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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休まらない休日

旅行先での日常回です


 宿で適当な朝食を食べていると、ミリアがこそっと部屋に入ってきた。


「ロランさん、今日、お時間ありますか?」

「はい。大丈夫ですよ。帰るのは明日にしているので」

「も、もしかして、妾さんとお出かけするご予定などは……」

「いえ、とくに。あいつは、市場を見て回ると言っていたので」


 そう言ってライラは出かけていった。

 ニコニコとしていたミリアが、くるっと俺に背をむけた。


「っしゃッ。あれこれ妾さんに美味しい物を紹介したかいがありました! っしゃ」


 よしよし、とミリアが拳を上下に振っている。


「おほん。じゃあ、今日よろしければ、わたしと町を見て回りませんか?」

「はい。構いませんよ」

「やった♪ それじゃ、三〇分後、下で待ち合わせってことで」


 俺が了承し、ミリアが部屋から出ていく。


「よっしゃっ、よっしゃっ!」


 変なかけ声が遠ざかっていった。

 財布の残金を確認する。


「……」


 長居するつもりはなかったので、あまり手持ちは多くないが……。

 足りるだろうか。


 今度はディーが入ってきた。


「どうかしたか」

「用事がなくちゃ、会いに来るのもダメなのぅ? ライリーラ様に聞いたわよ。まだこの町にいるのよね」

「発つのは明日にしている」

「じゃあ、今日のお昼、お時間あるかしら?」

「昼? あると言えばあるぞ」

「よかったわぁ。それじゃあ、お昼すぎに海岸沿いにある岩場に来てちょうだい? イイコト、しましょ♡」

「イイコト? 何をする気かは知らんが、わかった。そうしよう」

「楽しみだわぁ」


 ウィンクをしてディーが去って行った。


 それから出かける準備をしていると、そーっとアイリス支部長が顔をのぞかせた。


「今、いいかしら?」

「はい? どうぞ」


 きょろきょろ、と廊下の左右を確認して、ささっと中にやってくる。


「出かけるの?」

「ええ。ミリアさんに、町を見て回ろうと誘われたので」

「ふ、ふうん……。あ、あの子……朝イチで約束取りつけるなんて……! 抜け目ない……!」


 ぼそぼそと言って、苦そうな表情をするアイリス支部長。


「昨日の海では、ありがとうございました。いい気分転換になりました」

「そう。ライラちゃんもキャンディさんも、楽しんでくれてたみたいでよかったわ。美女に囲まれて、あなたも罪作りな男ね。さすが、エース職員」


「エース、職員……」

「そうよ。それだけみんな、あなたのことを評価しているってこと」


 ふふ、と笑って、真面目な顔をした。


「けど、あまり無茶はダメよ? あなた、病み上がりなんだから」

「わかっています」


 今日はこっちの支部の仕事ぶりを見学すると言ったアイリス支部長は、じゃあね、と去っていった。


 時間になり、俺は宿の出入口で待っていると、おめかしをしたミリアが出てきた。


「お、お待たせ、しました。待ちましたか?」

「いえ。全然待ってないですよ」

「よかったです。…………で、デートっぽくて非常にグッドですっ」


 町を見て回るというが、一体何をするのかと俺は不思議だった。


「国外の珍しい物がこの市場で売られていたりするんですよ? 眺めているだけでも、心躍ります……!」


 と、目をキラキラさせながらミリアは、市場に並ぶ置物や雑貨を手に取ったり眺めたりして楽しんでいる。

 俺も気になる物があったので、買っておく。


「お昼ご飯は、どうしましょう? 本当は、わたしが作って持って来れればよかったんですけど――」


 ちらっと俺は日の高さを確認する。

 …………ディーは昼過ぎ……という話だったが、まさに今じゃないだろうか。

 ということは、もう俺は遅刻しているのでは。


「あ、ロランさんっ! あっちのほうに、海鮮料理のお店がありますよ!」


 いつ終わるんだ、これ。

 だが、ミリアが楽しそうにしている。それを切り出すのはさすがに野暮だ。


「行きましょう。僕は一度トイレに行きますので、先に行っててください」

「はーい。わかりました♪」


 離れる口実を得た俺は、次の待ち合わせ場所へと急ぐ。

 たぶん遅刻している。

 だが、遅刻だと思わせなければいいのだ。


 ディーとの待ち合わせ場所である岩場へやってくると同時に、スキルを使う。


「ロラン様、まだかしらぁ……?」


 岩の上に腰かけているディーが独り言をつぶやいている。


「おい、ディー。何をボソボソ言っている」

「あら。ロラン様。遅いわよぅ?」

「俺はさっきからここにいたぞ。おまえが気づかなかっただけだ」


 隣に竿と餌が用意してある。

 なるほど、イイコトというのは釣りのことか。


「さっそくやるぞ」

「そうねぇ。いーーーっぱい釣って、今日のお夕飯にしましょう?」

「そうだな」


 俺は針に餌をつけ海に投げ込む。

 ディーも同じようにすると、竿を置いて、腕を絡めチュッチュ、と頬にキスをされた。


「待っている間、暇でしょぉ? ちょっとだけ、イイコト……しましょ」


 普段なら構わないが、俺はふとミリアのことを思い出した。

 彼女を待たせている。イイコトをしている場合ではない。

 だが、この死体が離れてくれそうにない。

 俺は一旦竿を上げ、再度海へ投げる。


「うふふ、ロラン様ぁ? 早いオトコは嫌われるわよぅ? もっと気長に、ね?」

「生きとし生けるもの、気配がある。空腹なのか、そうでないのか……魚とて、それがある」

「そんなので釣れたら苦労しないわぁ」


 グンッ、と竿がしなった。


「かかった」

「嘘っ!?」

「竿を頼む。俺は逃げないようにその魚を捕まえてくる」

「釣り上げれば捕まえる必要は――」

「捕まえてくる」


 俺は強引に竿をディーに押しつけると、海に飛び込む。

 簡単に釣られては困るので、俺は『シャドウ』を発動させた。

 かかった魚を逃がして、代わりに黒子一二体に針やら糸やらを引っ張らせる。


「あらあら、まあまあ、大物だわぁ。さっきとは引きがまるで違う……! 別の何かに代わったような、そんな引きよ……!」


『影が薄い』スキルを使い、奮闘するディーを尻目に俺はこっそり『ゲート』を設置した。

 岩場を離れると、ミリアが待つ店まで走った。


 中に入ると、ミリアはもうすでに席について、俺を待っていた。


「すみません。お待たせしました」

「ロランさん、お腹壊したんですか? 大丈夫ですか?」

「ええ、まあ、そんなところです」


「あ、あの……。びちゃびちゃですけど――」

「汗です」


「す、すごい汗です……! 体調、やっぱりまだ快復してないんじゃ……」

「問題ないです。気にしないでください」


 運ばれた料理を食べていると、「美味しっ」とミリアはホクホク顔で舌鼓を打っていた。


 キイキイ、と鳴き声がするので店の外を見てみると、黒子が首を振ってバツマークを出していた。

 ジェスチャーを見るに、数体が潮で流され、肉食魚に数体が食われ、もう持たないという。


「くッ、軟弱な」

「どうかしましたか?」

「自分の軟弱な体が嫌になるな、と思ったところです。……すみません、ちょっと席を外します」

「は、はあ。わたし、お薬買っておきましょうか?」

「いえ、お気遣いなく」


 店の入口付近に『ゲート』を設置し、魚屋へ寄ったあと、岩場へジャンプした。


「長いわ……! 長い戦いだわっ! いったいどんな大物が……! ロラン様、息継ぎしなくても平気なのかしら……?」


 まだ黒子たちが踏ん張ってくれている。

 俺も再び海に入り、魚を針に引っかけた。


「今よ!」


 ばっと竿を一気に引いたと同時に、買ってきた魚をディーが引き上げた。


「あらあら、大きな魚だわぁ」

「このサイズなら十分だろう」


「ロラン様ぁ。海の中は、さすがにロラン様も思い通りいかないようね? うふふ。けれど……この魚、もう死んでるわぁ……。目の濁り具合が、まるで市場に並んでいる魚のような――」


「ディー。おまえとの死闘の結果が、これだ」


「そうなの……。……力、尽きたのね……? 長い戦いだったもの……」


 申し訳なさそうに、ディーは市場で買ってきた魚を見る。


「じゃあ、これを捌いてお夕飯にしましょう?」

「悪いが、約束は釣りだ。このあと、予定がある」

「もう、ロラン様ったら、いけず」


 ぶうぶう、と不満そうに文句を言うディーに、「埋め合わせはまた今度する」と言って『ゲート』で料理屋までジャンプする。


 店に戻り、ミリアのむかいに座った。


「ロランさん、お腹大丈夫ですか? わたし……無理に誘ってしまったんじゃ……」

「気にしないでください」

「? ……ロランさん、頭に海藻のようなものが――」


 さっと触って、ビターン、と床に叩きつける。

 紛れもなく海藻だったので、足で踏みつけ全貌を隠す。


「ゴミがついてたみたいですね」

「そ、そうですね……?」


 冷めかかっている料理を平らげ、ミリアと和やかに談笑をする。

 店を出て、今度は別の通りを見て回っていると、ライラを見かけた。


 隣にいるミリアが、意を決したように言った。


「ロランさん、夕食は、どうするんですか?」

「すみません。夜は用事があるので」

「そ、そうですか」

「今日はバタバタしたんで、今度何かご馳走します」

「はい。楽しみにしておきます」


 通りでミリアと別れると、ライラに見つかった。


「何をしておるのだ? 一人で」

「おまえだって一人だろう」

「フフン。違うぞ、妾は一人を楽しんでおったのだ」


 どうでもいいことでライラが威張りはじめた。


「ライラ。これ、よかったら使ってくれ」


 ポケットから、買っておいたヘアゴムを取りだして渡した。

 それぞれに、星やら猫やらの飾りがついている。


 ライラが目を輝かせた。


「こ、これを妾にくれるのか……! そなたが、妾に」

「気に入らなければ別にいいんだが」


 ばっと手の平のそれらをひったくって首を振った。


「つ、使う。大事に、する……」


 気に入らない、というわけではなさそうなので、一安心だった。


「いい店を見つけた。貴様殿は予定がないのであろう? そこで夕飯を食べるぞ」

「そうなるだろうと思った」


 ずんずんと歩き出したライラに追いつく。


「お礼に妾が馳走してやろう。……ふふふ。なぜこのヘアゴムが濡れておるのかは訊かんでおこう」

「そうしてくれると助かる」


 さっそく猫の飾りがついたヘアゴムでライラは髪をまとめた。

 ふふん、と嬉しそうだった。

 そっと近づいてくると、手を握ってきた。


 その店というのはずいぶん遠いらしい。

 手を繋いだまま、付近を周ることになった。


 やってきたのは、さっきから何度も見かけた店だったが、どうしてすぐに行かなかったのかは、俺も訊かないでおくことにした。

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