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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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慰安旅行6


 それから、俺が四肢を元通りに動かせるようになるまで、二日かかった。


 アイリス支部長の話によると、俺がベッドで横になっている間、倉庫街にあるとある倉庫の荷物は、近衛騎士団が差し押さえ、押収したという。


「体が重い」


 寝たきりだったせいで、妙に気だるい。


「致し方ないであろう。位階一等の死霊魔法を吸血鬼に使ってみせたのだ。それくらいの反動はあって当然である」

「おまえは以前に一度使ったと言っていたな。誰に使ったんだ?」


「オルテンベルグ、である……」

「? 誰だそれは」


「昔、妾が飼っていた……ペットの、猫である……。上手くいったはいいが、妾は数時間気を失った。反動は対象によるというのは、魔法陣の仕組みを見て、なんとなくわかっていた」


 猫と吸血鬼では、大きく違う、ということか。


「作ったのか運び込んだのかはわからないが、リーナスが広めようとした『セカンド』、あれは何だったんだろうな。別の誰かが作ったのか……?」


 横になっている間、あれこれ考えていたが、明快な答えは出なかった。


「ああ……あれは、今ではあまり使われなくなったが、一昔前に魔界で使われていた鎮痛薬の一種だ」

「作ったのではなく、作られていた物だったか」


 ライラが言うには、副作用のないものだったが、それはあくまでも魔族に限る話。

 人間が使うとどうなるのかまでは知らなかったという。


「鎮痛薬……回復薬(ポーション)のような飲み薬じゃないのか?」


「さすが、よく知っておるな。それは今の話。別種の薬草から液体の鎮痛薬が作れるようになったが、あの粉は、従来の物だ。戦場で粉薬など使いにくいからな。大量に余っていたのだろう」


 何かのきっかけで、リーナスは人間が服用したときの効果に気づいた、ということなんだろうか。

 はじまりが何だったのか、もう知ることもできないが。


「まったく、愚か者めが」


 寂しげにライラは一人毒づいた。

 時間があるときにでも、ランドルフ王に教えに行くとしよう。


「ロラン様ぁ? もう体は動かしても平気なのぅ?」


 ディーが顔を出した。


「ああ。いつも通りの戦闘はできないが、日常生活には支障ない」

「うふふ、それでも余裕で強いと思うから大丈夫よぅ」


 普段の感覚より、体の反応が鈍い。

 たとえるなら、全身に重りをまとっているような感じだった。


「さあ、行きましょう?」

「ん? どこへだ」

「どこへって……ライリーラ様? 言っていないの?」

「うぅ……切り出す機会もなくてだな……」

「もぅ、変なところで恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」


 話が見えないでいると、ディーが教えてくれた。


「海に行くの。みぃーんな、ちゃんと水着を揃えたから、ロラン様が大丈夫になったら行きましょうっていう話だったのだけれど……」


 ちら、とディーはライラを見る。

 もじもじ、と恥ずかしがっていた。


「やはり、妾は、あのような布っ切れをまとうのは、抵抗がある……なぜ裸ではダメなのだ……?」


 どういう感覚なんだ。


「そういう装備だと思ったらいいのよぅ、ライリーラ様。水中用の。ね?」

「……ふ、ふむ……なるほど……」


 俺用の水着は適当に買ってきてくれたらしく、ハーフパンツの水着をディーが渡してくれた。


 海か……そういうことであればちょうどいい。


「わかった。着替えてむかおう」

「それじゃまたあとで」


 ディーは、まだ気恥ずかしげにしているライラを捕まえて、部屋から出ていってしまった。

 外から見える砂浜には、ちらほらと人がいる。


 俺に気づいて、一人が大きく手を振った。


「ロランさぁぁぁーん」

「ミリアか」


 ワンピースのような水着を着ている。

 隣にいるのは、アイリス支部長か。


「大声出さないの」


 ちら、とこっちを見る。

 麦わら帽子にサングラスをかけ、紺色のビキニを着ている。

 ミリアと違って大人っぽい。


 みんな揃えた、と言っていたので、ディーとライラもあるんだろう。

 ライラはともかく、ディーは大丈夫なのか?

 穴が開いているが。

 きっと、果物か何かでも詰めるんだろう。


 手早く着替え、俺は砂浜にむかう。

 俺を見つけたミリアがさっそくやってきた。


「ロランさん、もう大丈夫みたいでよかったです」

「ご心配をおかけしました」


 大きなパラソルの下にいるアイリス支部長が、「私は大丈夫だろうとは思ったけれど」と言った。


「支部長だって、最初はおろおろしてたじゃないですかー」

「うるさいわよ。そんなところいると、日焼けするわよ」

「気にしてるの、支部長だけなんじゃないですか??」

「一〇年後、泣きを見るといいわ」

「海来たら、日焼けするのは当然だと思うんですけど……」


 日焼けを気にする派と気にしない派で議論している間、準備体操をする。


「……あの、ロランさん、何してるんですか?」

「ええ、あの島まで泳ごうと思いまして」

「……え、どれですか…………えっ、ちっちゃ! 遠っ!? 何でわざわざ!? せっかく海に来たのに」

「海に来たからでしょう?」


 ミリアが何を言っているのか、俺にはさっぱりわからなかった。


「水泳は、全身を使います」

「は、はあ……」

「非常にいい運動になります。鈍った体を元に戻すには最適です」

「そんなストイックなことしないでくださいっ」


 はっ、とミリアが何かに気づき、両手の人差し指をむけてきた。


「……女の子と、海に来たら遊ぶんです。普通のことです。がっつり泳ぐなんて、普通じゃないかも……」

「――遊びましょう」


 やった、とミリアが小さくジャンプした。


「じゃあ、砂でお城を作りましょう、お城」

「城となれば、少々口出しせざるを得ません」


「いいですよ! 二人で一緒に作るんですから、意見は言っていきましょう!」


「方針として、敵の魔王軍は一万、こちらの兵力は五〇〇を想定し、その戦力差で、三か月持つ城を建築しましょう。となると、破棄を前提とした前線拠点の構築も必要です」


「もっとファンシーな意見くださいっ! なんか生臭いです!」


「はい。築城というのは、常に最悪を想定するのが一番だと思います。綺麗事では済まないものなので、少々生臭くなります」


「わたしはっ、王子様とお姫様が恋する三秒前みたいなお城が作りたいんですっ」


 パラソルの下で、アイリス支部長がくすくす笑っていた。


「わかりました。防衛に関する一切は僕に任せてください。城を守ることができなければ、王子も姫も恋ができませんから」

「…………うう……ちょっとカッコいいこと言ってる……」


「王子も姫も、不退転の覚悟で有事の際は戦いますので、王族専用の地下ルートで脱出などしません。そんなルートがあると知られれば兵の士気にかかわります。援軍を得て守り抜くか、全滅かのどちらかにしましょう」

「やっぱり生臭いです!?」


「そうですね……援軍が早く来ればいいのですが」

「遠い目をするのやめてくださいっ。これ、砂のお城ですからっ」


 俺が前線拠点の構築に没頭していると、ざざーん、と波が前線拠点の五割ほどを壊していった。


「文字通り波状攻撃というわけか。逆に考えれば、ここに拠点があれば厄介だと公言しているのと同じ。フン、いいだろう……」

「ロランさん、楽しそうです……」


 ざっざ、と穴を掘り、壁を作っていると、ディーとライラがやってきた。


「まあまあ、ロラン様ったらぁ、砂遊び?」


 他の女の水着に比べてずいぶん布が小さい水着をディーが着ていた。


「ディー、穴はいいのか?」


 訊くと、ディーは脇を締める。

 押し出される形になった、むっちりした大きな胸が、谷間を作った。


「うふふ。こうやって、おっぱいをむにゅってするとぉ、見えないでしょう?」

「たしかに」

「背中は髪の毛で隠れるの」


 むにゅっとしなくても、胸が大きいのであまり目立ってなかった。

 ライラは、Tシャツを上に着ている。


「妾さん、脱がないんですか?」

「ううむ……どうにも、慣れぬ……」

「いつもは自信満々なのに」

「中途半端に着ているほうが、よほど恥ずかしい……」


「ロランさんが、じっと見てますよ?」

「……ライラ、隠されると、気になる」

「う……」


 往生際の悪いライラをディーが後ろから羽交い絞めにした。

 ミリアが手をワキワキさせながらTシャツを脱がしにかかる。


「やめ、やめよ……っ。恥ずかしい……っ」

「こういう妾さんも可愛いですねぇ……ジタバタしないで下さいっ」


 ぐふふ、と変な笑い声を出して、ミリアが脱がした。

 ライラが着ていたのは、所々に小さなリボンがついた、赤いビキニだった。


「~~~~っ」

「ライリーラ様、よくお似合いですよ?」

「一緒に選んだかいがありました♪」


 ディーもミリアも、うんうんとうなずいている。

 頬を染めるライラはへにゃん、と座り込んだ。


 華奢な肩に、小さなへそ。

 腰の横にあるヒモが、リボンのようになっていた。

 後ろでくくった髪の毛の下には、白いうなじが覗く。

 いつも暗がりで見ているせいか、太陽の下だと、ライラの肌は透明感が増して綺麗だった。


「綺麗だな」


 ぼふん、とまたさらに顔を赤くしたライラ。


「た、たわけっ」


 砂を俺に投げつけてくると、ミリアが持っていたTシャツをひったくって、さくさくさく、と砂浜を走り、アイリス支部長の背中に隠れた。

 人間に懐かない野良猫みたいだった。


「わたくしたち、水着だけを着ている人で遊びましょぉ」

「そうですねえ。そうしましょー」


 ちら、ちら、と二人がライラを見る。

 口をへの字にしたライラが、徐々に徐々に、パラソルの下から出てきた。

 餌におびき出される、警戒心満点の野良猫みたいだった。


「妾が、なぜあのようなハレンチな格好をせねばならぬのか……こうなれば、ここで全部脱いで――」

「ライラちゃん、裸のほうがよっぽどハレンチよ?」


 結局、遊びたい欲求に負けたライラは、白い素肌をさらし、俺たちの輪に加わった。

 砂遊びからはじまり、ビーチバレー、遠泳(これは俺だけだった)、死体(ディー)を砂浜に埋めたりして楽しんだ。


 なかなかどうして、海で遊ぶのもいいものだった。


 途中、離れた場所にエルフが打ち上げられ騒ぎになったが、無事だったらしくどこかへ搬送された。


「あれはロジェでは……?」


 遠くで担架に乗せられるエルフを見たライラが、ぽつりとこぼした。

 たしかに似ているような気がする。


「……海から来るのか、あいつは」

「いつもは魔界からである。となると……エルフ違いか」


 そのあと、アイリス支部長が用意してくれたバーベキューを堪能し、十分海を楽しんだ俺たちは、夕方頃に撤収し、宿に戻った。


 部屋へ戻ると、鏡の前でくるくる回りながら、ライラは上機嫌に映る自分を確認していた。


「~♪ ~~♪♪」


 あれだけ嫌がっていたのに、その日、なぜかなかなか水着を脱ごうとしなかった。

今回で「慰安旅行」編はおしまいです。

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