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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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即戦力ルーキーと出会う8


 ダールトンにしたお仕置きは、別段愉快な話でもないので、詳細は省く。


 無差別に冒険者や領民を拉致し、趣味で拷問して殺していたダールトンを許せなかった俺と、下等な人間に自分が利用され、呑みたくもない血を呑まされていたことに激怒したディーは、ひとまず留飲を下げた。


 あの場にヒーラーでもいれば、壊しては治し、また壊すことを繰り返せたが、いなかったので、出来る範囲でのお仕置きとなった。


 俺は『ゲート』で一気に自宅までジャンプし、バルデル卿の屋敷までむかった。


 応接室に通され、俺とディーは、バルデル卿を待ち、やってくると一からすべて説明をした。


「……この貴族がすべての元凶です」


 ダールトンだった物体を、顎で指す。

 渋い顔でバルデル卿は髭を撫でていた。


「経緯は理解しました。この度は、私の勝手な頼みを聞いていただき、ありがとうございました」


 立ち上がって、深々とバルデル卿はお辞儀をした。


「こちらも気になることがあったので。それに、冒険者がいなくなっては、ギルドとしても困ります」

「元凶を突き止めたばかりか、こうして解決までしていただいた。領民の安全を守ってくださったのです。感謝に堪えません」


 ダールトンは、従軍の経験を持つ。

 それで、どこかネジが飛んでしまったのかもしれない。


「ロラン殿のお話を聞いた限りでは、そういった経験がいつの間にか快楽に繋がったのかもしれませんなぁ。まったく、お痛がすぎましたな」


 戦時中は、捕まえた魔族を拷問しないわけではない。

 種族の生死を懸けた戦争中だ。

 俺も綺麗ごとを言うつもりはない。

 その是非を問うつもりはなかった。


 戦争という特殊な環境に影響された精神状態を、ダールトンはまだ引きずっていたのかもしれない。


「ダールトン家へのご報告はお任せします。別荘を見せれば、何が行われていたのかすぐにわかると思います。何かあれば、僕から陛下にひと言伝えることもできますので、そのときは、教えてください」


 ダールトン家とバルデル家で揉め事になる可能性もなくはない。

 それは、先方の出方次第だろう。

 他家の領地で、息子が冒険者や領民をさらい殺していたのだから、むこうが無茶を言うとは思えなかった。


 非公式に解決し、家名に傷がつかなかったのだから感謝されてもいいくらいだ。


「ありがとうございます……! ロラン殿には、何から何までお世話になりっぱなしです」


 バルデル卿は、そう言って俺に何度もお礼を言った。


 謝礼を、と言われたが、俺は断った。

 ディーはちゃっかりもらっていた。


「だってぇ、もらえるものは、もらっておいたほうがいいじゃなぁい」


 領主の家からの帰り道、ディーが腕を組んできた。


「あの程度のやつが、おまえに催眠魔法をかけられるとは思えないんだが……」


 これが一番疑問だった。

 一度ディーは、周囲に人の有無を確認する。


「あまりニンゲンに言ってはいけないのだけれど……」


 そう前置きして、こっそりと教えてくれた。


「吸血鬼という種族は極端なのぉ。すっごく。ニンゲンは、夜更かししたからといって、能力が変わることってないでしょぉ?」

「ああ、そうだな。……まさか」


「ウフフ。そのまさかよぅ。陽が出ている間は、弱体化してしまうの。とくに、魔法に対する抵抗力が」


 俺は人魔大戦を思い返す。

 いつだって吸血鬼が猛威を振るったのは夜。

 行軍する都合で、ディーを含めた他の吸血鬼は、『ファイアガード』を使うことで日差しを和らげて昼間に行動することもできたという。


 行動できるというだけで、本来の力が発揮できるわけではない。

 朝、昼、夕方の戦闘で、吸血鬼による甚大な被害が出たことは一度もなかった。


「魔族の位階でいうと一〇等……小隊長以下まで力は落ちちゃうし、陽があるうちの活動はすっごくリスキーなのよぅ」


 魔族の小隊は、おおよそ五〇とされている。

 その小隊長もしくはそれ以下、さらに単独で行動中であるなら、人間でもかなりの人数が対応できるだろう。


 夜に特化した最強の攻撃カード。

 だがそれは、陽があるうちは雑魚という裏返し、か。


「それで……。諸刃の剣だったわけか」

「このこと、ニンゲンに教えるのははじめてなの」

「わかっている。いちいち他言しない」


 ありがとぅ、とディーは微笑む。


「あの男は、わたくしを吸血鬼だと知らなかったのかもしれないわぁ。クエストが遅くなって、朝を迎えてしまって……」


 言いにくそうに、ディーは言葉尻を濁した。


 朝、ディーを見かけたら、絶世の美女が一人でいる、くらいにしか見えないだろう。

 あの拷問バカのことだから、美女でイロイロと楽しもうとしたのかもしれない。


 催眠魔法が成功して、吸血鬼だと気づき、スケープゴートとして利用することを思いついた……そんなところか。


 俺はディーの頭をパシン、と叩いた。


「あいたっ」

「人間を下等種族だと侮っているからだ」

「それについては、反省しているわぁ……」


 しゅん、としたディーの頭を今度は撫でた。


「あまり、心配をかけるな。能力の高さも特異性も、俺はおまえを重宝しているんだ」

「まあまあ。嬉しいお言葉……。本気にしてしまうわぁ」


 本音だからな、と俺は言う。


「今後は、人間を全員俺だと思って行動しろ。そうすれば油断しないだろ」

「油断はしないかもしれないけれどぉ、全員ロラン様なら、わたくし好きになってしまうわぁ」


 どうしましょう、とディーは冗談めかして言った。


「ロラン様が来なければ、わたくし、あの下衆のスケープゴートとして、呑みたくもない血を呑まされる毎日だったと思うわ。ありがとう」


「美食家の癇に障ったんだな、あいつは」


「それもあるけれどぉ、催眠魔法が解けないように、なんていうくだらない理由で、吸血させられていたのよぅ? 吸血鬼にとって、吸血は性行為以上のものなの。自我のない状態で、そんなことを無理にさせられていたなんて……しかも下等種族に……そんなの、屈辱よぅ」


 憤慨したようにディーは唇を尖らせた。

 夜明け前特有の藍色の風景を、俺とディーはのんびり歩き、家へとむかう。


「ライリーラ様が、心からロラン様を愛する理由がよくわかったわぁ。わたくしも、食べてしまいたくなるくらい、愛おしく想うもの……」


 ちゅ、ちゅ、とまた俺の頬にキスをしたディーは、かぷっと甘噛みした。


「……? 噛まないのか? 多少なら構わんぞ」


「これは、求愛の証よ。噛むのが当然と思われる吸血鬼だからこそ、あえて寸止めするのは、その人のことを大切に思うがゆえの行為なの」


 ぎゅっとディーが抱きついてくる。


「キャンディス・マインラッドは、ロラン様のことを、心からお慕いしています」


 どう反応していいのか迷い、俺はディーの頭を撫でた。


「もしよろしければ、わたくしの血を、呑んでくださらない?」

「どういう意味があるんだ?」


「吸ってばかりの吸血鬼が、自分の血を差し出すというのは、あなたのものになるという意味があるの」


 俺がわかった、と言うと、ディーは手の甲を牙で裂いた。

 傷口がうっすらと赤く滲むと、つ、と血が伝い、指先にかかる。


 なぜだかわからないが、それを俺は綺麗だと思った。

 手を取り、甲に唇をつけ、ディーの血をすこし飲む。


 体に異変は何も起きないし、味も、よく知っている血の味。

 美味しくともなんともない。

 だから、儀式的な意味合いのほうが強いんだろう。


「…………ロラン様……ありがとう」


 再び抱きついてきたディーが、うっすらと瞳に涙を浮かべる。


「今からわたくしは、貴方様のものよ」


 そして、せがむように目をつむった。


 背後で物音がした。


「……? っ!? ――――ッ!?」


 ディーが離してくれそうにないので、俺は何度かキスをした。


「わたくし、今とっても幸せ……この身が今塵になっても、後悔しないわぁ」


 首に腕を回し、ちゅっちゅ、とディーは俺の唇を感情が赴くまま貪る。


「ロラン様……愛してる……」


 ちゅ、ちゅうう、とディーは情熱的なキスをして離してくれない。


「………………家の前で、そなたらは何をしておる……!」


 ゴゴゴゴゴ、と変な音が聞こえるので振り返ると、拳を震わせるライラが立っていた。


「あらあら、まあまあ。ライリーラ様ったらぁ、覗き見ははしたないですわ」


「何が! 覗き見か! 家の! 扉の! 前で! 堂々と! ちゅっちゅ! ちゅっちゅ! 口づけしおって~~~~ッ!」


 ライラは人差し指をビシッビシッと突きつけてくると、今度は地団駄を踏んだ。

 かなり怒っていた。


「だがな、そういう儀式らしいぞ、ライラ」


「そのような儀式があってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ! 妾はな! そなたの帰りが遅いから……待っていたというのに…………話し声が聞こえ外まで来てみれば……!」


 眠気も吹っ飛んだそうだ。


「ではライリーラ様、わたくし、これから眠りますので、ご一緒にどうですか?」

「フン。妾を侮るな。これから家事をする。自由気ままなそなたとは違うのだ」


「下手な家事なら、やってもやらなくても同じだと思うけれどぉ……」

「何か言ったか!?」

「な、何も……」


 目尻を吊り上げるライラは手に負えず、強張った笑みを浮かべたディーは家の中に逃げた。


 まったく、とライラが鼻息を荒くする。


「ライラ、実はな……」


 言おうとすると、遮られた。


「よい。戻りがこの時間だ。ディーの様子や、そなたの様子を見れば、何かがあったのだろう、というのは察しがつく。やたらと血のにおいもするしな」


「……詳細は何も言わないが、おまえが信じた通りだった。見る目があるな」

「何を今さら」


 ライラは得意そうに笑った。


「俺の帰りは、遅くまで待たなくてもいいんだぞ」


 ふるふる、とライラは首を振り、うつむきがちに小声で言った。


「妾が……その……好きでしていること……である……」


 ちらっとこっちを見て、さっきのことを思い出したのか、膨れっ面になると、呆れたように小さく笑った。


「……おかえり。よくぞ戻ってきたな」

「ああ、ただいま」


 俺の肩に手を置き、ライラが踵をすこし上げてつま先立ちになる。


 ライラを支えるように、俺は腰に腕を回して抱きしめた。


 山の稜線が朝日で燃えるようなオレンジ色に染まる。


 長い長い夜が明けた。



2章完結です!(本にするとだいたい2冊分くらい)



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