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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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即戦力ルーキーと出会う4


 三人の共同生活は、それほど長くはなかった。

 期間にして、三日だった。


 俺が斡旋した難易度の高いクエストや、誰も引き受けない夜のクエストを、ディーはさらりとこなしてみせた。

 冒険ランクはひとつ上がってEになった。

 これからどんどんランクを上げていくことになるだろう。


 そしてディーは、報酬が手元にあるからと言って、宿で生活をするようになったのだ。


「妾は困らぬのだが……居てもよいのだぞ?」

「いえ、これ以上魔王様のお邪魔はしたくなかったので」

「魔王ではない。今後は、ライリーラと呼べ」

「承知いたしました」


「ディーよ、困ったことがあれば、妾はここにおる。何でも相談するがよいぞ」

「お心遣い、感謝いたします」


 家を出ていくとき、ぺこり、とディーはお辞儀をした。


「俺とはギルドで顔を合わせることになるが、今後もよろしく頼む」

「はぁい」


 こうして、ディーは宿屋での生活をはじめた。

 やはり活動時間は夜らしく、いつもギルドにやってくるのは閉館間際の時間が多かった。


「あれ以上いると、色んな意味でロラン様を食べてしまいたくなってしまうので……それは、ライリーラ様にとっても、望ましくはないでしょう?」


 クエストを紹介するときに、そんなことをディーは言った。


「上司思いなんだな」

「あのようなお方、生涯二度と現れないと思うからぁ」


 今日も今日とて、誰も受けたがらない夜型のクエストを斡旋して、ディーはそれを受けた。


 俺が一番気になっているのは、食事だった。


 ディーは以前、「人間の食べ物は、空腹感は紛らわすことができるけれど、アッチの欲求までは抑えることは難しいのぅ……」と言っていた。


 人間でいう、性欲と食欲を合わせたものが、吸血鬼でいう吸血衝動なのだとディーは教えてくれた。

 だから、満たされないときの飢餓感は凄まじいとも言った。


 魔界ではどうしていたのか、気になってライラに訊いてみた。


「罪人の血だ。定期的に、少量それを飲ませる。魔王軍ではそうしておった。それで幾分か和らぐのだそうだ。……だが、ニンゲンの血は別格だと聞いたことがある……」


 となれば、今ディーにとって、このニンゲン界は餌しかない天国のような場所になるのかもしれない。


「ディーには、それなりに気を配っていたほうがいいかもしれないな」

「そのようなことはせぬ。貴様殿が考えているようなことを、あやつはせぬ」


 真っ直ぐ俺を見つめて、ライラははっきりと言った。

 ずいぶんと信用があるらしいが、俺はまだいまいち信じることができなかった。


 壊滅させられた一個大隊の惨状を目の当たりにしたからかもしれない。

 それはまだ脳裏から離れない。


 あの美貌ですり寄り、牙を立て、出血を促進させる唾液を流し、吸い上げる――。

 そんなイメージばかりが先に立ち、なかなか消えてくれない。


 槍傷のある遺体も水分がなくなっていた。

 今思うに、あの槍には、血液を含む水分を吸い取る呪いがかけられているんだろう。


 それから、ディーは三日に一度現れ、受けたクエストの報告だけして去っていった。

 困ったことや変わったことはないかと訊いても、とくにはないと言う。

 嘘を言っているようには見えなかったので、やはり杞憂なのかと思いはじめた。


 そんなとき、アイリス支部長から届いた手紙を渡された。これで二通目だ。


「たしかに、届けたわよ」

「……はい」


 中身を確認すると、仕事が終わらせた俺はディーのいる宿屋を訪ねた。


「ああ、あの美人さん? 最近は、ウチには泊まっていないけどねえ」

「……そうですか。ありがとうございました」


 ここにはいない、か。


「そうであってほしくない可能性から潰していくか」


 馬屋に寄って、職員用の馬を駆って町を出ていく。


 山を一部切り崩して平地にしたような場所に、貴族の別荘がある。

 北部の一部を治める領主のものだが、最近、息子がその別荘で暮らしていると聞いた。


 一通目の手紙を受け取ったとき、俺は情報収集をニール、ロジャー両冒険者に頼んでいた。

 そして今日、俺が思っていた通りの話が二人から聞けた。


『兄貴……変な噂があるんです――』

『自分も、先輩が今言ったその話、違う筋から聞いたッスよ――』


 ……杞憂では、済まないかもしれない。


 アイリス支部長が渡してくれた二通の手紙の差出人は、領主のバルデル卿だった。


『ここ一か月ほどで、私の知る冒険者が数人消息を絶ったのですが、ご存じないでしょうか』


 もちろん、心当たりはないと返事を書いた。

 残念だが、冒険者が行方不明になることは、珍しくない、と。


 二通目の手紙では、こうも書かれていた。


『どうやらいなくなっているのは、冒険者だけでなく、領民の一部もそうらしいのです――私どもも調べはしているのですが、一向に何が起きているのか掴むことができず――』


 だから、領民たちも非常に不安がっている。

 安心して外に出ることもできない、と領地の窮状をバルデル卿は俺に訴えた。


 俺にわざわざ手紙を送ってくるあたり、相当困っているようだった。


 馬を駆けさせてしばらくすると、小さな山の中腹あたりに豪邸が見えた。

 明かりの灯っているあれが、例の別荘だ。


 馬を適当な木に繋いでいると、雲に陰っていた月が姿を現した。


 原っぱを動く何かがいる。

 月明りに照らされた、使い込まれた外套とフードの後ろ姿が、小さいがはっきりと見えた。


 例の別荘へと歩いていっている。


「そうであってほしくないと思って、真っ先にこちらへ来たんだが」


 また雲で月が陰る。

 俺は念のためスキルを使うことにし、闇に紛れた。

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