表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/230

隣国の王子とお見合い7



 ルーベンス王たちがこのソマリール海岸を離れ帰国するとき、ランドルフ王は見送りにも来なかった。


「ロラン、今はどこに暮らしているのだ? ちゃんと食べているのか? おまえのことだ。栄養さえ取れればそれでいい、と言うんだろう。私は、国を離れることが難しい。だから、また――いつか、また――」


 それに対し、エルヴィは俺に長い長い別れの挨拶をしていた。

 全然エルヴィが追いかけてこないので、部下が大声で名前を呼んでいる。


「おい、エルヴィ、呼ばれているぞ。早くいけ」

「おまえはいつもそうやって素っ気ない……! い、意中のじょ、女性は、い、いるのかっ……?」

「別れ際にする話でもないだろう」


 くすくす、とアルメリアが笑う。


「もう、エルヴィったら。手紙でも書けばいいじゃない」

「アルメリア……余裕ぶっているのも今のうちだ」

「な、何よそれ。別にわたし、そんなつもりないもん」


「手紙を書く。ロラン、必ず返事をくれ。三日に一通書く」

「多い。減らせ。こっちに届く前に新しい手紙が発送されることになる」


「~~ばかもんっ!」


 顔を赤くしたエルヴィに、どん、と胸を押された。

 逃げるように背をむけ、繋いでいた馬にひらりと乗る。


 去っていくエルヴィの背中にむかって、アルメリアは手を振った。


「ねえ、ロラン、今どこに住んでるの?」

「どこでもいいだろ」

「あのギルドの近く?」

「どこでもいいだろ」


 そうだ。

 ライラはまだ寝ているのか?


 一応『ゲート』を設置しておいた。

 だから、魔力を使えばまたすぐに来ることができる。


「仕事は順調?」「だいたいどうしてギルド職員なんてしてるの?」「わたし、まだ冒険者なっちゃダメなの?」「いつになったらいいの?」「もうこのまま護衛になっちゃえば?」


 連射される質問を、俺はため息ひとつで答えた。


「よくしゃべる女だな。帰る準備をしろ。もうすぐここを発つだろう」


 ぷう、とアルメリアが膨れた。


「何よ、それっ! ちょっとはプライベートなこと教えてくれたっていいじゃないっ!」


「小娘よ、この男に正攻法など効くはずもないだろう」


 ライラがいつの間にか起き出して、俺とアルメリアの間にいた。


 わあああ、とアルメリアが目を輝かせた。


「しゃ、しゃべってるぅぅ! 猫ちゃん、しゃべってりゅうう! どこから来たんでちゅかー」


「う……。こやつ、動物に話しかけると口調が変わるタイプか。気持ちはわかるが、実際やられると気分のよいものではないな……」


「何、ロランの知り合い??」

「……まあ、そんなところだ」


 これがあの魔王だなんて思いもよらないだろう。


「よいか、小娘。よい女とは、節操なく男を追うものではない。むしろ追わせるようにするのがよい女ぞ」

「猫ちゃん……いや、師匠……!」

「うむ。師匠と呼ぶがよい」


 この二人が勇者と魔王なのだから、平和になったものだと思う。


「正攻法でダメなら、どうすればいいんでしょう……?」

「押してもダメなら引いてみるのだ」

「なるほど……!」


 ライラの恋愛講座に、アルメリアは興味津々に聞いている。

 人に教えられるほど経験してないだろ。


「し、師匠は、え、えっちなことをした経験は…………?」

「ふふん」

「っっっ!? その! 反応はっ!? く、詳しく……何がどうなるのか、詳しく……!」

「待て待て、焦るな、処女め」


 ミリアのときもそうだったが、ライラは処女か否かでマウントを取るのが好きらしい。

 黒猫師匠のちょっとエッチな恋愛講座を聞いていられなくなり、俺は別荘のほうへ戻った。


「今回は、私の我がままを聞いてくれて感謝している。改めて礼を言わせてくれ」


 ランドルフ王と部屋に二人きりになると、頭を下げられた。


「仕事だ。ギルドを通して、ギルド職員の俺を指名した。だからこれは、私的なことではない仕事だと俺は認識している」


 テーブルの上には、口の広いグラスがふたつ。

 中には、大きな氷がふたつと、琥珀色の高価そうな蒸留酒が入っている。


 それらは、ランドルフ王が自らが用意してくれた。

 使用人やメイドにそれをさせなかったのは、気持ちの表れなんだろう。


「……そうは言うが、おまえが目指している『普通の暮らし』とやらを邪魔してしまった」

「――とは口で言うが、実際は?」


「アルメリアの見合いが破談になりハッピー!」


 思わず表情が崩れてしまう。


「いや、冗談だ。いやいや本音なのだが、おまえに迷惑をかけて申し訳なく思う気持ちも本当だ」

「わかった。もういい。そもそも、ルーベンス王がいるというのが、俺もすこし心配だった」


 俺が暗殺の仕事を請け負ったときは、目的のためなら手段を選ばない、という印象だった。

 その通りの事態になったわけだが、来てよかったと思っている。


「アルメリアも、難儀な男を好いたものだ」


 グラスを掴み、中の氷を手首だけでカラリンと回す。


「おまえほどの男が、わからぬわけがないだろう。ひと晩でレイノーラ嬢をオトし、あれこれ訊き出したおまえが、女の感情の機微に疎いはずがない」


 難儀ではあるが、これ以上ない男でもあるがな、とランドルフ王は苦笑しながら、グラスを傾けた。


「その『普通』とやらは、もう十分なのではないか?」

「何が言いたい」

「おまえが、先日私的な依頼を借りとしたように、魔王討伐の報酬を支払うのは、フェリンド王国の王だ」


 俺はランドルフ王の続きを待った。


「アルメリアの父として、おまえのいち友人として、個人的な願いだ。我が娘の相手がおまえなら、私は何も文句はない」


 友人……。

 そうか、俺とランドルフ王は、友人なのか。


「ランドルフ王……すまない」

「そうかぁ……」


 深いため息をついて、ランドルフ王は、ぐいっとグラスを呷った。


「アルメリアとロランがくっつき、子が生まれるのが一番なのだがなぁ……今は姫しかおらぬからなぁ……孫がいればなぁ……」


 ちらちら、こっちを見てくるランドルフ王。


「孫の顔が見たいものだ……」

「ふふ。くどいぞ」

「まあよい。世継ぎは、私が頑張って作るとしよう」


 おどけたように言うので、俺は懐から金を出した。

 全部で一〇万リン。


「ランドルフ王の現役は、おそらく五七で終わる」


「おい、私をあまりナメるな、ロラン。その予想だとあと一五年ほどか。……いや、だが、ロランに言われるとそんな気がしてくる……。が! 私の予想は六五」


 ランドルフ王も一〇万リンをテーブルの上に乗せる。


「より近いほうが勝ちだ」

「いいだろう」


 ニッと笑った俺たちは酒を同時に呑み干した。


「しかし、自分の現役が終わる予想をするのは、どんな気分だ?」

「やかましいわ。おまえがさせたのだろう」


 ランドルフ王は、男の使用人を呼び、賭けのことをきちんとメモさせた。


「しかし陛下、これでは陛下が現役だと言い張れば、年齢を引き延ばせるのでは?」

「ぐ、おまえ、それは言うな! ロランを出し抜こうとしたのに……!」


 俺は人差し指を立てた。


「最後のセックスから一か月だ。それ以上空けば不能とみなす。自慰はカウントしない」

「ロラン、おまえ、厳しいな……!」

「かしこまりました。では、そのように」


 こうして、賭けは成立した。

 時間になり、俺たちはリゾート地のソマリール海岸をあとにし、フェリンド王国へと帰った。


 ランドルフ王たちと別れてから、すぐに『ゲート』を使い、ライラと一緒にソマリール海岸に戻った。


 海岸線を散歩する。

 ライラがするりと手を絡めてきた。


「アルメリア……あれが勇者か」

「ああ。どうだった?」


 んん、とライラは難しい顔をすると、


「なんというか……まっすぐでよい娘だと思った。あと……戦わなくてよかった、とも思ったぞ」

「それはよかった」

「師匠と呼ばれるのも悪い気はせぬが……トモダチになりたいとも、思った」


 ずいぶんとライラはアルメリアを気に入ったらしい。


「不思議なことがある。今回の件、どうして断らなかった? そなたは、アルメリアや、国王とはなるべく距離を置こうとしていたと思うが」


 俺もそれは考えていた。

 アイリス支部長の立場からすると、引き受けてほしかったのだろう。

 だが、依頼した本人は、どちらでもいい、と言っていた。


 それを俺は、深く考えることなく、あっさりと引き受けてしまった。


「あの親子――俺が親しいと感じる二人が、おそらく難しい局面に立たされるだろう、と予想がついた。そして、俺ならその難局を打開できると思った。……仕事というのは、自分自身への建前だったのかもしれない。俺は、親しい男の力になってやりたかった。親しい、それこそ弟子のような娘を助けてやりたかった。それだけだ」


 アルメリアにも、ランドルフ王にもこんなことは言えない。


「そなたにも、トモダチというやつがおるのだな? それは、よいことだ」


 うんうん、とライラは上機嫌にうなずいた。


「ミリアに聞いたぞ? 『普通』はトモダチというのがおるらしい。今の話を聞いてわかった。そなたは、トモダチのために今回の仕事を受けたのだな。何を悩んでいるのか知らぬが、それは『普通』なことだと、妾は思うぞ?」


「悩んでいる? 俺が?」

「うむ。なんとなくそうだと思った」


 自覚はなかった。

『普通』である限りは、王や王女と関わるのはおかしいと思っていた。

 だが、力になりたいとも思った。


 俺は、その理屈と感情の板挟みで悩んでいたらしい。


「自分のことがわからぬとは、貴様殿もまだまだよな」


 くふふ、とライラは隣で笑った。


 日が暮れたので、帰ろうとすると、ライラが渋りはじめた。


「……貴様殿、昨晩はお楽しみだったようだな」

「ああ。別に楽しくはなかったが」

「そういうことを言っているのではないっ! ベッドだ、ベッド! 知らぬ、メスの、においが、した!!!!!」


 ふん、と荒く鼻息を吐き出した。


「妾は魔王。器の大きさでは他の追随を許さぬ。そなたがどこで種をまこうが、構わぬ。そなたほどの男、女子が放っておかぬからな。……だからその……何が言いたいか、わかるか?」

「……?」


 こっちをちらっと見ると、ちょん、とライラは俺の指先を握った。

 静かな波の音が聞こえる中、小声でぼそりといった。


「………………まだ…………帰りたく、ない……」


 薄暗くてもよくわかるほど、ライラは頬と耳を赤くしていた。

 俺がわかった、と言うと、くるりと反転し、胸に抱きついてきた。

今回で「隣国の王子とお見合い」編はおしまいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「自主規制」がなかった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ