表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/230

隣国の王子とお見合い4


 朝の砂浜でライラはしくしく泣いていた。


 一晩一緒にいたレイノーラを送ったあと、海岸で見つけた。


「はしゃぎ、我を忘れ、貴様殿がどこにいるのかもわからなくなり……ここで、待っておった……」


 海だ砂浜だの、と騒いでいたライラは、どうやら、俺がどこにいるのかわからず一晩彷徨っていたらしい。


「そうか。別荘がある。そこへ帰るぞ」

「それだけ……!?」


 自業自得と言えなくもないが、気になることがあったので俺もライラのことは後回しにしていた。


 別荘の部屋までライラを連れていった。


「妾は、寝る!」


 ぼふん、とライラはベッドに入ってすぐ、寝息を立てはじめた。

 首輪を触り、黒猫の姿にしておく。


「…………そろそろか」


 陽の高さを確認する。

 王女と王子が二人でデートする時間だ。


 小耳に挟んだことが、本当なら……。

 こちらも準備しておく必要がありそうだ。



◆ファビアン◆


 ルーベンス神王国のファビアン王子は、鼻から小さくため息をついた。


 隣にいるアルメリアが、昨日に続きブスっとしているからだ。

 昨晩と同じで愛想は全然ないし、「そうですね」か「あはは」しか言わない。


 朝とも昼とも言えないような時間に、爽やかに散歩をしているが、二人の間に会話はなく昨日にも増して空気が重い。


「休憩をしよう」

「そうですね」


 ファビアンのすすめで、砂浜が見えるカフェにやってくる。

 注文をすると、よく知った店員がパインジュースをふたつ運んできた。


「ここのパインジュースは、一級品の新鮮な物を絞って作ってるからすごく美味しいんだよ」

「そうですか」


 相変わらず声に抑揚がなく、無関心もいいところだった。


 ……だが、冷めたこの態度も、もうすぐ変わる。


 今回の見合いは非常に不本意なもので、そんなつもりはさっぱりないというのが、態度でよくわかる。


 まったく無関心で、歯牙にもかけない自分への態度が、手の平を返すようにコロリと変われば、どれだけ愉快だろう。


 思えば、女には何不自由しなかったが、この女だけは違う。

 自分の相手をすることを嫌がり、王女だから、とか国のためという体裁を保つために、今ここにいる。


 そんな彼女を思い通りにできたら、と考えるだけで暗い欲望が満たされていく。

 

「…………なんですか?」

「ううん。君が綺麗だから、つい見惚れちゃって」

「はあ。そうですか」


 まるでゴミを見るようなひどい目だった。

 だが、ファビアンはそれが嬉しかった。

 この目をするアルメリアが、もし何でも言うことを聞くようになれば――。


 そう考えるだけで、胸がすっとする。


 アルメリアがストローをくわえて、ちゆ、と飲んでいく。


 その薄い唇をめちゃくちゃに汚してやりたいと、思わずにはいられなかった。

 自分がほしくても手に入らない女……そういう意味では、アルメリアはファビアンにとってはじめての女だった。


「どうだい? 美味しいだろう」

「ええ……まあ、それなりに」


 ファビアンもストローをくわえてジュースを飲む。

 甘さと酸味が口の中に広がる。

 思わず、愉悦のため息がこぼれた。


 キイ


 どこからか、変な鳴き声が聞こえた。


「魔物――?」


 そんな気配は感じなかったが、あちこち見回していると、てってこ、てってこ、と去っていく黒い小人のような何かが見えた。


「……?」


 波の音を聞きながら、二人は無言でジュースを飲んでいく。

 しばらくして、アルメリアの手が止まった。


 じっと瞳を見つめていると、聞いていた通り、すっと目の光が陰った。

 ファビアンは、思わずほくそ笑んだ。


 即効性、持続性、ともに抜群という話だ。


「……アルメリア王女殿下」

「はい、何でしょう」


 先ほどとはまるで違う、恋しい人を前にしたかのような反応だった。

 無関心を貫いていたアルメリアのその反応に、胸が震えた。


「僕は、あなたのことを愛しています」

「えっ……そんな、いきなり……」


 ああ、好ましい。実に好ましく恥じらう。


「僕と結婚し、ルーベンス神王国の王妃となってほしい」

「……ファビアン様……」


 小声でアルメリアは、「はい」とはにかみながら返事をした。


「すぐあとに、両家揃っての昼食会がある。そのときに、僕たちのことを父上たちにご報告しよう」

「はい。それがいいと思います」

「そのときに、その証拠として誓いのキスも、ね」


 当然そのときに誓約書に近い婚姻書も書かせるが。


「……もう、恥ずかしい……。ですが、証拠というのであれば……わかりました」


 照れたあと、可憐な笑みを浮かべてアルメリアはうなずいた。


 今夜、こっそり二人で密会しようと約束を取りつけた。

 そのときに、勇者で、王女で、自分に無関心だったこの女を、思い通りにめちゃめちゃにしてやる……。


 そのあと、彼女を別荘に送り届け、ファビアンは父にそのことを報告した。


「父上、手筈通りに」

「そうか、上手くいったか。フフフ、これで、実質フェリンド王国もじきに我らルーベンス王家の手中となるな」

「昼食会が、楽しみです」

「で、あるな」


 はっはっは、とルーベンス王は笑い声を室内に響かせた。




 昼食会は、ルーベンス王族側の別荘で執り行われた。

 初日の晩餐と違い、側近の数人も交えての非常にフランクな会食だった。


 だが、王族と一緒に食事をするわけではないので、テーブルの上には四人分の料理が並んでいる。


 一流の料理人が作る、一流の料理の数々。


 ルーベンス側は、ルーベンス王、ファビアン王子、護衛であり仲介役をしたエルヴィ、あとはファビアン付きの美女二人がいる。


 フェリンド側は、国王とアルメリア、護衛を任されたというギルド職員、あとは騎士らしき男が二人がいた。


 全員が揃うと、ファビアンは立ち上がった。


「食事の前に、僕たちのことを皆さんに報告をしたいと思います」


 ちらりと、アルメリアを見ると、うつむいている。

 いざとなると恥ずかしいのだろう。


「僕は、アルメリア王女殿下に求婚をし、アルメリア王女殿下は、イエス、と返事をしてくれました」


 場がどよめいた。


「あ、アルメリア!? ほ、本当なのか!?」


 面食らったランドルフ王が慌てている。


「アルメリア、そ、そうなのか――!?」


 仲のいいエルヴィも、眼球がこぼれんばかりに目を剥いている。


「皆様、静粛に。すこしばかり早いですが、この昼食会は、婚約記念パーティになりそうです」


 ファビアンは言うと、アルメリアのそばまで行く。


「誓いのキスを」


 え――っ? と、展開の速さに周囲がついていけず、どよめく。

 だが、もうアルメリアは承知の上だ。


「それ以上近寄らないで」

「え? なんで――?」


 アルメリアの細い肩を抱きしめて、ファビアンが唇を突き出した瞬間だった。


 バゴォォォオオオオンッ!


 アルメリアは、ファビアンにビンタをした。

 ビンタというには、凄まじい音が鳴った。


 頬をぶたれたファビアンは、吹き飛び、テーブルの上にある料理を巻き込んで床に倒れた。

 一張羅はいつの間にか一流料理で彩られていた。


「キス? はあ? 結婚? はあ? ……するわけないでしょ。キモっ」


 アルメリアは、無関心どころか、蔑み、下に見てくる、冷たい目をしていた。


「え――え……え、なんで……!? 何がどうなって……!?」


 元に戻っている――――!


 持続性は抜群なはず!

 数か月……いや半年は持つとさえ言われた媚薬だ!


 誰だ。

 誰が何をした――!?


 みんなが呆気に取られたり混乱している中、一人冷静に部屋の隅で事態を見守っている男がいた。


 護衛のギルド職員だ。

 ファビアンと目が合うと、フッと嘲笑にも似た笑みを浮かべた。


 あ、あいつかぁぁぁ――――ッッッッ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ