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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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飲み会に誘われる



 公式の閉館日が、この支部は月に一度あった。

 その日は、受付業務をせず事務作業だけをするため、昼前に出勤し、夕方までには退勤するという一日になる。


 なので、その前日は、男女問わず食事に誘われた。


「アルガン君、頼むよ、今日の夜!」


 男性職員が拝むように手を合わせた。


「冒険者や貴族様んところで働くメイドとか、今回の飲み会は、女子のレベルが高いんだ! アルガン君いると助かるっていうか――むしろアルガン君いないと話にならないっていうか……ね? 頼むよぉ」


 いつも世話になっている先輩の一人でもある。

 男女それぞれ四人、計八人で飲み会らしい。


 何か情報を引き出すわけでもないのに、なぜ見ず知らずの女と食事しなくてはならないのか。

 だから俺はいつも断っていた。


「パン屋のヒルダちゃんも来るんだよぉぉぉぉ」

「と、言われても……」

「カノジョいないんだろ? 普通、こういう飲み会で出会い求めるもんじゃんか!」


『普通』、だと……?


 泣きそうな顔で拝み倒されて、俺はついにイエスを返した。


「わかりました。そういうことであれば。ですが、あまり慣れていないので、不作法があるかもしれません」

「いいよ! 全然いいよ! ありがとう、ありがとう!」


 力強く先輩に握手された。

 よっぽどヒルダとかいうパン屋の娘とお近づきになりたいらしい。


 メンバーを訊くと、俺、拝み倒した先輩と仲のいい同期、そしてモーリーの四人だった。


 仕事が終わり、その飲み会とやらに行く四人は残っていた。


「さて……ギルド入口を待ち合わせにしているから、そろそろ来ると思うんだけど……」


 と、俺を拝み倒した先輩、シェーン職員がそわそわしながら窓の外を見ている。


 シェーン職員とその同期、ライン職員とモーリーの三人が円陣を組んだ。

 何やら、打合せのようなことをしている。


「いいか、テメエら、こういうのはチームワークだ」

 と、シェーン職員。


「わかってる。おまえはパン屋、俺はメイド。おい、モーリー、おまえは?」

 と、ライン職員がモーリーに話を振った。


「オレ? オレは、場面場面で? いい子いたら、いこっかなー? って感じだわぁ。別に誰が狙ってるとか関係なくな」


「チームワークだって言ってんだろバカ」

「輪を乱すんじゃねえよ」


 二人がモーリーを蹴った。


「いやけど、むこうから来たら、もう不可抗力つーか」

「来ねえから」

「夢見んな」

「そういうこと……言うなよ……」


 窓のむこうに、それらしき人影が見えた。


 そのことを三人に告げ、俺たちは裏口から出ていき、表で待っている女たちと合流した。

 たしかに、素朴ではあるが、整った顔立ちの女が多い。


 脚を大胆に出していたり、可愛らしい恰好だったりと様々だ。


 移動して、シェーン職員がよく行くという、路地を入ったところにある小さなレストランにやってきた。


 俺は一番端に座らされ、それぞれ意中の女のむかいに先輩たちは座った。


 俺のむかいは、大人しそうな小柄な女の子だった。


 簡単に注文を頼み、すぐに飲み物の葡萄酒が運ばれてきた。


 軽く乾杯をして、歓談の時間に入る。

 酒をひと口呑み、料理をつまむ。


「じゃあ、まず自己紹介していこうか――」


 シェーン職員が言い出し、順番にみんなが自己紹介をしていった。


 どうやら、メイドとパン屋は元々友達らしい。

 剣士風の女冒険者は、パン屋の娘を通じて知り合ったという。

 さっきから、ずっとモーリーが、女冒険者の巨乳をガン見している。

 わかりやすい男だな。


 そして、どう考えてもガン見がバレている。

 ゴミを見るような目をされているぞ、モーリー。気づけ。


 最後の一人、俺のむかいに座っている女の子も一応冒険者。

 魔法使いだという。小声で大人しそうな印象だった。


 そして、俺に順番が回った。


「ロラン・アルガンです。下っ端の職員です。みなさんには、職場でいつもお世話になっていまして。今日は、よろしくお願いします」


 小さく頭を下げたとき、はいはい! とメイドの女が手を挙げた。


「あのお、ミリアがすごく仕事がデキるって言ってたんですけど」

「あ、それ! あたしも聞いたー! 物静かだけど、やる時はやる人だ、って!」


 思い出したようにパン屋が続いた。


 なるほど。ミリアとも繋がりがあるのか。さすがは地元っ子、ミリア。


「いえ、僕は別に、やれることをただやっているだけなので」


 メイドとパン屋から熱い視線を感じると同時に、二人をターゲットにしている先輩職員たちの視線も感じた。


 それでもモーリーはまだ巨乳を見ている。

 もうそろそろやめとけ。


 メイドとパン屋は、まだ俺にあれこれ訊きたそうだ。


 メイドはライン職員で、パン屋はシェーン職員だったな。


「ヒルダさんは、あそこのパン屋で働いているんですよね? シェーンさんがいつもパンを買ってきて、美味いから食ってみろってひとつくれるんですよ」


 ちら、と視線をやると、小さくうなずいたシェーン職員は、テーブルの下で、ぐっと親指を立てた。


「そうなんですよ、おれ、あそこのパンすごい好きで」「あ! もしかして、お昼にいつも買いに来てくれてます――?」「そうですそうです!」


 まあ、あとはよろしくやってくれ。

 メイドは、あのバルデル卿のところで働いているのだったな。


「お仕事は、大変でしょう。バルデル卿にセクハラされたりしませんか?」


 冗談めかして言っておく。

 おい、ガン見をやめないモーリー、おまえにも言ってるんだぞ。

 巨乳を見ながら酒を呑むのをやめろ。


「もう、そうなんですよぉ。さっさとやめて、あたし、王都のほうで何かしようかなって思ってて――」

「ラインさん、元々王都のほうで仕事されてたんですよね」


 ちら、と視線をやると、ライン職員は、神を見るような目でこっちを見てしてくる。


「そうなんですかー?」「はい。俺、王都の冒険者ギルドにいたんですけど、王都はやっぱり賑やかでいいですよ」「あたし、他の町で暮らしたことなくて――」


 まあ、あとはよろしくやってくれ。


 ぐいぐい、と酒を呑むペースが早い女剣士。


「お酒、好きなんですか」

「うん。冒険者やってると、いつどうなるかわかんないから、呑めるときにどんどん呑むのが、あたしの主義なの」

「大変ですよね。わかります」


 俺がフォローをしているのに、モーリーが酒臭い息で話しかけてきた。


「うぉぉい、ルーキー、オレの巨乳ちゃんに、勝手に話しかけてんじゃねえよ」


 おまえのじゃないぞ。

 またゴミを見るような目をされているぞ。


「一回でいいから揉ませて下さ――」


 誰にもわからないように、脇腹を突き、モーリーには眠ってもらった。


「ちょっと、呑みすぎちゃったみたいですね」


 あはは、と笑っておく。

 他の先輩二人は、モーリーなど放っておいて、会話に熱中している。


 俺は、女剣士と内気な魔法使いを相手にしながら、話をした。


「聞いたことあるよ! めちゃくちゃスゴ腕職員だって、みんな言ってるよ! アルガン職員。あの人にクエスト斡旋してもらったら、誰も怪我しないって」

「それは大げさですよ」

「ウチも……聞いたこと、あります……」


 魔法使いがはじめてしゃべった。

 どういう繋がりなのかと思ったが、女剣士と以前に何度かパーティを組んだことがあるそうだ。


「知り合いの、冒険者……みんな言っています……アルガン職員さんは、とてもいい職員さんだって……」

「僕は、みなさんが実力を出せるように、あれこれご案内しているだけです。だから、みなさんの力です」

「その優等生な面の下には、何を隠してるんだろうね?」

「僕を潰したら、あれこれしゃべるかもしれませんよ」

「ふふん、面白い、じゃ、付き合ってもらおうか」


 不敵な笑みを浮かべた女剣士は、ぐいっと葡萄酒を飲み干した。


「喜んでお付き合いさせてもらいます」


 俺はニコリ、と笑みを作って同じように酒を呑む。


 先輩たち二人は、一対一でしゃべったり、四人でしゃべったりとなかなか上手くいっているようだった。


 やがて時間となり店を出ることになった。


「アルガン君っ! 今日は、俺たちが、支払いすっから! マジでありがとうなっ!」

「ほんと、マジで来てくれて、ありがと!」


 かなり出来上がっていた先輩二人が、気前よく店の支払いをしてくれた。


「じゃあ、あたしたちはこれでー」

「ロランさん、またご飯行きましょうね!」


 メイドとパン屋は、先輩二人の二軒目の誘いを鮮やかにかわし、そそくさと去っていく。

 それでも大戦果だったらしい先輩たちは、意気揚々と肩を組んで楽しそうに帰っていった。


「ううう……ロラン、強しゅぎだろ……」


 ろれつの回らない女剣士を背負い、俺は魔法使いを宿まで送っていく。

 おやすみなさい、と挨拶をして去ろうとしたとき、呼び止められた。


「あ……あの……」

「はい」

「……色んな意味で、人気の職員さんだから、指名しなかったんですけど…………こ……今度から……クエスト、受けるときは……ウチも、指名して……いいですか?」


「ええ。僕でよければ」


「――――っ……、は、はい……っ! お、おやすみ、なさい……っ」


 小声の魔法使いは、酒は呑んでいなかったと思うが、顔が赤かった。

 俺の姿が消えるまでずっと手を振っていた。


 女剣士……名前はディアナだったか。


「ディアナさん、宿はどこですか? それとも家か何かありますか?」

「あっち」


 あっちだ、こっちだ、と言われやってきたのは、川沿いにある人けのない水車小屋だった。


 俺の背中から降りた女剣士は、俺の手を引いて中に入り扉を閉めた。


 ギイ、ギイ、と水車が軋む音だけが静かに聞こえる。


「ここで寝起きしてるんですか?」

「そうじゃないよ。人が来なくて色々便利だって、他の冒険者から聞いて……」


 そういうことか。


 俺の首を抱くようにして、キスをされた。


「言ったでしょ。冒険者なんて、いつどうなるかわからないって。だから、ね。後悔しないように行動してるんだ、あたし」


 小屋の隙間から差し込む月明りに照らされた、白い太ももが見える。


 彼女が、剣を挿しているベルトを片手で外す。

 それが無造作に床に落ち、ゴトン、と音を立てた。


―――――――――――――――――――




       自主規制




――――――――――――――――――― 


◆モーリー◆


「お客さん、お客さん、起きて下さい」


 テーブルに突っ伏していたモーリーは、店員に肩を揺すられ目を覚ました。


「あれ……なんで、オレ、寝てるんだ……?」


「お連れの方、みなさんお帰りになりましたよ? それと、もう閉店なので」

「え、ああ、うん……」


 おかしい。

 巨乳を揉んだような気がしたが、あれは夢だったらしい。

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[一言] ―――――――――――――――――――        自主規制 ―――――――――――――――――――  ↑ これ笑っちゃう…
2024/02/15 21:08 退会済み
管理
[良い点] 自主規制がなかなかいい
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