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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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クエストランク設定のお仕事2


 俺は、犯人の予想とそいつを来る途中に倒したことをホーガンに伝えた。


「ええっ!? じゃあ……もうオオナツが奪われたり、果樹園が荒らされるようなことはない、と?」

「いえ。あくまでもジャイアントヒヒが犯人だった場合ですので」


 とは言ったが、十中八九そうだろう。


「わたし、一度だけ遠くから見たことがあるわ」

「おまえ、それは本当か?」


 ええ、と夫人はうなずく。


「そのときは、盗賊か何かだと思って、すぐに隠れてしまったのだけど、一瞬だけ姿を見たの」

「どういう風貌でしたか?」

「たしか……茶色の服か外套のようなものを着ていたと思うわ」


 それは、服でも外套でもなく、ただの毛ではないだろうか。


「すごく身軽で、高い柵を手だけでよじ登ってて」


 特殊な力を持つ人間の仕業かもしれないが、やはりジャイアントヒヒだ。


 俺は念のため、二人を外へ連れていき、ジャイアントヒヒを見せた。


「こいつらが、来る途中襲ってきたので、返り討ちにしました」


 はぁ~、と夫婦は感心しきりだった。


「たしかに、わたしが見かけた犯人とよく似ているかもしれないわ」


「そうか、そうか! じゃあ、こいつたちが犯人で、職員さんが倒してくれたということか!」


 ありがとう、ありがとう、とホーガンは俺と握手して、その手をぶんぶん振った。


 喜色満面のホーガンには悪いが、一点だけ問題がある。


「ジャイアントヒヒは仲間意識が強く、仲間がやったことを真似る習性があります。なので、近くに潜んでいるとすれば、別のジャイアントヒヒがやってくることも考えられます」

「そうなんですか……」


 俺がライラを見ると、小難しい顔をしていた。


「ジャイアントヒヒは、本来森に暮らす種族ぞ。ここらへんは森に近いというわけでもない」

「移動している途中だった、という可能性は」

「もしそうなら、何度もこの果樹園を襲いはしないであろう」


 近辺に森はない。

 あっても草むらがせいぜいだ。


 最寄りの森となると、馬をしばらく走らせる必要があった。


「どうするのだ? これ以上は貴様殿の仕事ではないのだろう?」

「乗りかかった船だ。最後まで面倒をみることにしよう」


 俺はホーガン夫妻に、かなりの数を退治したので、しばらくはここまで来ないだろうと説明をした。


「そうでしたか。それはよかった」

「ですが、どうしてジャイアントヒヒがこんなところまで来ているのかわかりません。なので、僕は一度、最寄の森まで様子を見に行ってきます。原因がわかりませんと、同じことを繰り返してしまいますし」

「お若いのに、ずいぶんと優秀なんですなあ」

「いえ、まだまだ勉強中の身ですので」


 陽の高さを見る。

 再聴取、現場調査だけの場合だと、それほど時間はかからないが……。


 帰ってから、あれこれアイリス支部長に説明する必要がありそうだ。


 俺は柵に繋いでいた馬に乗り、住処にしそうな最寄の森まで走らせた。


「考えられるとすれば、食料不足か」


 俺は頭にくっつくライラに訊いた。


「うむ。魔物や魔獣にはありがちなことであるな。オオナツの味を知ったがため、わざわざ森を出て通うようになってしまった、とは考えにくい」


 ジャイアントヒヒは、樹上の果物、木の実を主に食べる。


「食べられる餌がなくなった、ということか」

「まあ、まずは森の様子を見てみるとよい」


 その森を見つけ中に入った。

 馬をゆっくりと歩かせながら周囲の様子を観察していく。


「ジャイアントヒヒのフンが落ちておる。ここが住処で間違いないようだな」


 樹の枝先や細かく見ていくと、木の実がすくない。果実もそうだ。

 地面に落ちているものもあるが、さすがにこれは食べないだろうし。


「……餌不足か」

「であるな。だが、問題は、どうしてここで餌不足が起きているのか、だ。それがわからねば、原因を突き止めたことにはならぬぞ?」

「わかっている」


 遠目に何頭かジャイアントヒヒを見かけた。


 道で倒したジャイアントヒヒもそうだったが、俺が知っている一般的なそれより痩せている。


 そんなとき、森の奥で甲高い鳴き声がした。


「キィィィィィィィイイ――――」

「んむ? この鳴き声は……」

「わかるか?」

「ああ。プレシオルスだろう」

「プレシオルス? あのプレシオルスか?」


 首が非常に長く、湖や河の近くに生息する大型の魔物だ。


 鳴き声のしたほうから、ジャイアントヒヒが樹を伝って逃げてきていた。


「ジャイアントヒヒなどひと噛みで死ぬであろうな。その上雑食である」

「なるほどな。プレシオルスがいるせいで、自分たちの食い物がなくなるばかりか、自分たちすら食われると」


 プレシオルスの長い首なら、水中だろうが樹上だろうが、餌には困らないだろう。


 馬を駆けさせていくと、すぐにプレシオルスは見つかった。


 頭の位置は、見上げるほどに高い。

 大口を開けると、のん気に餌を食べていたジャイアントヒヒごとバクリと食べた。


 どこからか迷い込み、餌が豊富なここを住処にしてしまったのだろう。


 馬がビビって先に進んでくれないので、下馬してプレシオルスへ接近する。


「ライラ、背中にくっつくのは構わないが、振り落とされても知らんぞ」

「まあ、まあ、魔王としての妾の手腕を見せるときである。見ておれ」


 威張るライラが、俺から飛び降りて、トコトコ近づいていく。


 うにゃああああ、と鳴くと、プレシオルスが気づく。


「キュィィィィイ」

「にゃう、うなああ」

「キュイイイ、キイイイ」

「にゃん、にゃあ、にゃうう!」


 何を言い合っているのかさっぱりわからない。


 姿を元に戻せ、とライラが言うので、そうしてやったが、大差はなかったようだ。


 フン、と憤慨したように、ライラがこっちに戻ってきた。


「あのデカブツ、どうやらここに居座るつもりのようだ。餌には困らぬ、外敵もおらぬ」


 いずれ討伐クエストが出るかもしれないがな。


「ジャイアントヒヒが困っておると言うと、自分には関係ないと言いおった。あとそれと……! 妾が魔王だと言うと笑いおった……許さぬ……! 貴様殿、あとを頼む」

「まったく、素晴らしい手腕だな」


「阿呆。外交努力の結果だ。これは致し方ない武力行使であるぞ」

「とどのつまりは、俺任せ、と」

「うううう……!」


 もう知らん、とライラは膨れて馬のほうへとむかっていった。


「頑張るのだ、オオナツのためであるぞ! 大義名分はこちらにあるっ!」


 わかったわかった、と俺は適当に後ろへむけて手を振った。


 戦争中。プレシオルスのいる部隊と何度か戦ったことがある。


 水中でも陸上でも移動が速い。

 背中に一個小隊約四〇人ほど乗せられるのも利点だ。

 それに、首が長いおかげで視野が広く、行軍中は索敵に非常に便利なのだ。


「キィィィィィイイ!」


 俺が放った敵意に反応したプレシオルスが、警戒したような声を上げた。

 魔物ではあるが、特殊な攻撃はしない。


 くるん、とその場で回り、周囲にあった樹を薙ぎ倒し、尻尾を俺へと叩きつけてくる。


「プレシオルス、自分勝手はよくない」


 尻尾を片手で受け止めて、飛んできた方角に投げ返す。


 再びぐるんと回って、プレシオルスは正面をむいた。


「? ……??」


 自分に何が起きたのか、わかってなさそうだった。


「別種族同士、上手くいかないこともあるだろうが、仲良く食べ物は分け合う。そうすれば、討伐されることもなかっただろう」


「キュィィィィイイ!」


 大口を開けて咆哮すると、今度は首を上から叩きつけてくる。


 倒れている大木を持ち、降ってくる首に対し直角に構える。


「ギュェェェェェェェエエエ――――!?」


 ザグン、とあっさり大木はプレシオルスの首を貫いた。


 頭を振って苦しむプレシオルス。

 大木の上を走り、小さな果物ナイフで脳天の一部を突き刺す。


「ギュイイ……」


 すぐに楽にしてやった。

 ドスウウン、と事切れたプレシオルスが横に倒れた。

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