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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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祝宴


 専任の試験官になったことをみんなの前で告げられたあと、俺は帰路を一人歩いていた。


「ロランさん~!」


 紙袋を抱えたミリアがあとを追いかけてきた。


「お祝いしましょ! 専任試験官に就任ってことで」


 じゃんっ、と葡萄酒の瓶を見せるミリア。

 結構値の張るいいものだった。


「いえ、今日は……」

「いいことをして、嬉しいことがあったときは、みんなでお祝いをするんですっ! こんなの、普通です」


「『普通』!? ……わかりました。そういうことでしたら」


「やったっ♪ ……ロランさんって、もしかして普通って言うと何でも言うこと聞いてくれるんじゃ……?」


「みんなってさっき言ってましたよね?」

「あ、はい。支部長もあとで来ます。今は、一度うちに帰って着替えてくるそうです」

「どこでやるんですか」

「ロランさんちですよ?」


 祝われる側の家でやるのが『普通』なのか。

 多少抵抗はあるが、致し方ない。


「……わかりました。行きましょう」

「やったっ♪」


 俺とミリアがむかっていると、家の扉の前でもじもじしているアイリス支部長がいた。


「支部長、早いですね!」

「ええ。これ、お祝いに」


 アイリス支部長が渡してくれたのも、高価な酒瓶だった。

 ミリアがニヤニヤしている。


「支部長ぉ~、またずいぶんと、おめかししてきましたね~?」

「別に、こんなの私にとっては普通よ」


 化粧をし直して、洒落た服に、ブレスレットをしているアイリス支部長。

 なるほど、これが『普通』。


「気合入っているくせにぃ」

「うるさいわよ」


 中に入ると、ぱたぱた、とライラが小走りで廊下を走ってきた。


「おかえり。……ん? 今日は客人がいるのか。珍しい」

「妾さん、お久しぶりです」


 うむ、とうなずいたライラ。


「……なんだ? 何かあったのか?」

「お祝いをするそうだ」

「お祝い?」

「それについては、私が。はじめまして、ロランの上司であるアイリス・ネーガンよ」

「うむ。見知っておる」


 アイリス支部長は怪訝そうな顔をしたが、ライラは黒猫状態でよく出入りしているのでよく知っているだろう。


 先ほど事務室であったことをアイリス支部長は説明した。


「ほうほう。それで祝宴をささやかに開くというわけか。うむ、悪くない」


 ライラもなぜか嬉しそうだった。


「妾さん、キッチンを貸してください」

「フン。妾の城に足を踏み入れようとはな。小娘、その度胸は認めてやろう」

「……何言ってるんですか。お料理ですよ、お料理」


 何だかんだで仲がいいらしい二人は、キッチンに消えていく。


「あの、妾さん、この鍋に入っているものは?」

「腕によりをかけて作ったスープである。口にすればその美味に誰もが腰を抜かすであろう」


「あの……これ、悪い意味で腰抜けますよ……。――ちょっと! ロランさんにちゃんとしたものを食べさせてあげてくださいっ!」


「小娘、今の言葉を撤回せよ。妾とて許容できることとできぬことがある」


 ぎゃーぎゃーとキッチンで言い合っている二人。


 やがて、「んもう、邪魔なのであっち行ってください」と魔王城を追い出されたライラが、リビングにやってきた。


「あの小娘め、なんにもわかっておらぬ……。――おっと、挨拶が遅れたな。妾は、ライリーラ・ディアキテプという。この男がいつも世話なっておるようだな」

「ううん。こちらこそ、いつも驚かされてばかりよ」


 干し肉をツマミに、ライラとアイリス支部長は葡萄酒が入ったコップを空にしていく。


「……ところで、あなた、ロランの何?」

「決まっておろう。妾はこやつの伴侶のようなものだ」

「は――んりょ……。え? え?」


 さっき、旅の途中に知り合った仲だ、というところまで説明をしていた。

 伴侶……伴侶なのか?


「慌てるでない、アイリス。妾は寛容である。よい種をメスが求めるのは当然のこと。こやつがどこで種をまこうが、詮索をするつもりはない。……ちゃんと、妾のところへ戻ってくれば、それでよい……」


 最後のほうはかなり小声だった。

 酒が入っているせいか、顔が赤い。


「ふうん。なるほどねえ。食事に誘っても、断られるわけね」


 くすくす、とライラの様子を見てアイリス支部長は笑う。


「妾さん、何ノロケてるんですかっ! なんか、モヤってしますっ!」


 料理を運んできたミリアが話題に食いついた。


「乳くさい小娘とは、格が違うのだ。妾の前にひれ伏すがいい、処女め」


 ちょっと前までおまえもそうだっただろう。


「うぐぐぐぐ……!」


 どすん、とミリアが俺の隣に座り、自分で注いだ酒を一気に呷った。


「ふう……。お料理の腕が終わっている妾さんより、わたしのほうがお料理上手ですし、絶対いいですよ」

「僕はそれほど食事にはこだわらないので」


 必要な栄養があれば何でもよかった。


「ほれ、見たことか」

「うぐぐぐぐ……!」


 ミリアの作った料理を食べながら、酒を呑む。

 仕事の話になったり、それまでの『旅』の話になったり、と話が尽きることはなかった。


 女たちは三者三様で、さながら、高嶺の花と足下のタンポポと大輪の薔薇といった風情だった。


 上機嫌で呑み続けたライラがまずダウンし、負けじと付き合っていたミリアも続いてダウンした。


 二人をそれぞれのベッドに運ぶ。

 隣にいるアイリス支部長とぽつりぽつり、と話しながら、まだ残る葡萄酒を呑んでいく。


 不意に目が合う。

 合う……というより、見つめられていたので、気になってそちらを見たのだ。


 ちゅ、と距離をたしかめるような、触れ合うだけのキスをされた。


「逃げないなんて、悪い男」

「知ってるでしょ、前は、悪い仕事をしてたので」


「ねえ……女をオトすのも、お手の物?」


「情報を訊き出す場合など、状況にもよりますが……任務を遂行する上で必要があればオトします。……どうしたんですか、こんなことを訊いて。酔ってるんですか?」


「ふふ。そういうことにしておいて……」


 髪をかきあげると、むん、と濃い色気が漂った。



――――――――――――――――――


       自主規制


――――――――――――――――――



 俺はアイリス支部長と夜が更けるまであれこれ話をした。

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