迷い込んだ白猫1
日常系短編です。
3話構成でまた明日更新します。
「なーう」
ギルドに通勤中。足元から声が聞こえると、そこにいたのは白猫だった。
「なーう」
人懐っこい性格をしているのか、俺の足に体をこすりつけてなうなうと鳴いている。
「……」
猫が好きなにおいでもしているのだろうか。
疑問に思ったが、訊いて答えが返ってくるはずもなく、俺は通勤の足を早めた。
白猫はご機嫌に俺のあとをついてくる。
そうする間に、もうギルドには到着してしまった。
どうしたものか困っていると、さっそくミリアに見つかった。
「あー! ロランさんが違う猫ちゃん連れてきてますー!?」
「連れてきているのではなく、勝手についてきてしまったんです」
「ロランさんの浮気者☆」
楽しげに俺をからかってくる。
ああ、そうだった。ミリアの中では、俺は家で黒猫を飼っているということになっているんだったな。
「勝手についてきただけなので、浮気というほどの付き合いではありませんよ」
それに、ライラは俺が他の女性と関係を持っても比較的寛容だ。
猫ならなおさら、気にかけることはないと思う。
「猫ちゃん、ロランさんが気に入ったんでちゅか?」
ミリアが白猫を撫でまわしても、白猫は嫌な素振りを見せず、気持ちよさそうに目を細めている。
「きゃわいい……っ」
「人間のことを警戒してないみたいですね」
「ギルドで飼いましょう……!」
「はい?」
「飼い主が見つかるまで、飼うんです」
「ご自由にどうぞ」
目を爛々と輝かせるミリアは、白猫を抱っこしてギルドに入っていった。
すでに白猫は、職員のアイドルと化しており、撫でられても機嫌が悪くなることもなく、逃げ出すこともない。
「……ライラとは大違いだな」
黒猫状態のライラは、暇つぶしにときどきギルドにやってくることがあった。しかし、職員の誰であっても触らせるようなことは決してなく、まさに気まぐれの猫そのものだった。
女性職員中心にきゃいきゃい、と騒いでいると支部長がやってきた。
「何を騒いでいるの?」
「あ、支部長ー! この猫ちゃん、しばらくここで飼いますね」
「どうして相談じゃなくて事後報告なのよ……」
支部長が頭を抱えていた。
いつの間にか女性職員たちが結託しており、ミリアの援護をするかのように次々にうなずいている。
「だって、ほら、きゃわいい」
ずいっとミリアが白猫を支部長に突き出す。
「なーう」
「……っ、それとこれとは、別よ。仕事に支障が出るわ」
「支部長も触ってあげてください。喜びますよ。ロランさんちの黒猫ちゃんは、全然触らせてくれませんし」
「なーう」
「……」
愛らしい雰囲気に負けた支部長が、そろりと頭を撫でる。
直後、支部長が雷に打たれた――かのように俺には見えた。
なでなでなでなで! もふもふもふもふっ。
支部長の表情がどんどんゆるんでいき、おほん、と咳払いをする。
「……ちょっとだけよ」
支部長もオチた。
「支部長、仕事に支障が出るというのは、正論だと思うのですが」
「い、いいのよ。ちょっとくらい。あなたのところの黒猫ちゃんはよく出入りしているわけだし」
「それはそうですが」
ライラは遊ぼうとしても一切見向きもしないから、職員の仕事の手が止まることはないのだ。
トップの支部長が「もふなで」の威力に負け、当面の間、ラハティ支部で白猫を飼うことになった。




