王様と暗殺者3
ロランは、私の酒に付き合ってくれるようになった。
家臣の愚痴をグダグダと話したり娘の成長について話したりしているうちに、夜が明けることもしばしばあった。
そこまで深酒をした夜は、たいてい酔いつぶれてしまうことが多かった。
ある日のこと。
ロランと深酒をし、私がトイレで泥酔していると、皮肉そうな声が聞こえてきた。
「王でも、呑みすぎれば吐くんだな」
「……わ、私も、王である前に、人で、あ――話すとまた吐き気が―――ううぉぉえっ」
呆れたような目をしているロラン。その黒目が、以前見たときより少しだけ鮮やかになっている。
「そなたは、酔わぬのか……」
泥酔状態の私は、もう寝ているのか起きているのかわからなかったが、どうにか口は動いた。
「訓練するうちに耐性がついてしまったんだろう。酔うというのが、よくわからない」
至極冷静な口調でロランは言った。
私よりも呑んでいるのに。
「そなたも苦労をしているのだな」
そう言ったのを最後に、私は眠りに落ちた。
気づいたら私はベッドにいて、二日酔いのすさまじい頭痛とともに、最悪の目覚めを迎えた。
たいてい私が泥酔して終わるのがお決まりの流れで、ロランは使用人を呼ぶでもなく、ベロベロになっている私を見て、呆れたり苦笑したりしていた。
他に人を呼ぶことも助けることもしなかった。
彼なりの悪ノリなのであろう。
ほぼ意識のない私が泥酔してトイレに向かおうとしていると、「あそこだ」と教えてくれた。
それが娘の部屋の扉だと気づいたときには、私は下半身丸出しで、物音に気づいた娘が扉を開けたところだった。
血の気もオシッコも引っ込み酔いがさめた。下ろしたズボンを即座に戻した。
「おとうさん……?」
「あー、あー、なんでもない、なんでもないぞ、アルメリア!」
娘を回れ右させて、ベッドへ促した。
扉を閉めてひと息ついていると、後ろから声がした。
「間違えた。トイレの場所は、本当はあっちだ」
「おまえ……。冗談ですまなくなるところだったぞ……!」
「悪いとは思っている。何せまだ場所をよく知らなくてな」
「嘘つけ!」
薄暗い廊下で、ロランが肩を揺らしているのがわかった。
笑い声も聞こえず表情も見えないが、笑っているのだとわかった。




