王様と暗殺者1
ランドルフ王視点の外伝です。
魔王暗殺依頼までのお話です。
◆ランドルフ王◆
決められた呼び出し方をすると、影はどこからか現れた。
これは王家に伝わるとされる特別な方法らしく、普段はいくつかの段階を踏んではじめて依頼が届くという。そちらのやり方は教えてくれなかった。
やってくるまで、ときに数時間程度かかることもあれば、一瞬で姿を見せることもある。
今日は後者で、男が一人現れた。
さっきからそこにいたかのようであり、まるで影から発生したかのようでもあった。
「女性のあの人ではないのか」
黒髪の女暗殺者がやってくるのだと思っていたら、まだ少年のような男の子が現れた。
娘より少し年上くらいだろうか。
いや、よく見ると幼くも見えるし、逆にもっと年上にも見える不思議な少年だった。
「後任の俺に変わった」
私は酒瓶と二人分のグラスを用意していたが、ひとつグラスを減らした。
「そうか。変わったのか」
「依頼は?」
「いや、違うんだ。前の彼女のときも依頼をすることはなかった」
私がそう言うと、隅で佇んでいた彼はいつの間にかソファに座っており、うんざりしたような顔で頬杖をついていた。
「依頼があるときだけ呼ぶという話だ」
「一人で呑むのが寂しかったのでな。前任の彼女には、ときどき付き合ってもらっていたのだ」
「依頼がないなら帰るぞ」
刺すような視線に、言外にもう次はない、と言われているようだった。
私は両手を上げて降参のポーズを取って見せた。
「気分を害したのなら謝ろう。後任の君は、私の酒には付き合わない。覚えておく」
私は彼のむかいに座り、グラスに琥珀色の酒をゆっくりと注ぐ。
彼が席を立つ。
「……まあ待て。強いて依頼をするなら……、私の孤独を殺してくれ――」
ヤバイ。超上手いことを言った。
凄まじい手応えを感じた私は、物憂げなキメ顔でグラスをチビりとやってみせる。
何も反応がない。前を見てみるともういなかった。
「む、無視して帰りよった!?」
これが少年暗殺者と私の出会いだった。




