エピローグ2
すっごいところだから、とアイリス支部長に案内をされて、俺とライラは店までやってきた。
「アイリス・ネーガン様ですね。こちらへどうぞ」
正装をした給仕に促され、店内を歩く。
重厚な朱色の絨毯が敷き詰められた店内は、内装も凝っていて、たしかに『すっごいところ』らしい。
「ラハティの町に、こんな店があるんですね」
「そうなのよ。私も滅多に来ないんだけどね」
「妾に相応しいよい店である」
物珍しそうにする俺たちとは違い、さも当然のようにライラはうなずいている。
案内されたのは、最奥にある個室だった。
飲み物を頼み、それが揃うと、静かにグラスを重ねた。
「オーランドさんとは、付き合いは長いんですか?」
「ええ。私がまだペーペーだったときからよ」
まだラハティ支部に来る前のこと。
酔い潰れているのを介抱したのが縁となり、まだ受付業務をしていたアイリス支部長の下へやってきて、クエストを受けるようになったという。
「優しいでしょ、オーランド」
「ええ」
「報酬を減額された件も、もっと怒っていいのに、しょんぼりした様子で漏らすから、どうにかしてあげたいと思っちゃって」
ロジェの昔馴染みというのを知っているライラだが、興味はないらしく、酒と肴だけが進んでいた。
「オーランドさんも、森を出て長い。まだ差別が強く残っている頃を知っているから、変に差別慣れしてしまったのかもしれません。騒ぎ立てたところでどうにもならない、という無力感があったのかもしれません」
「減ってはいるけど、差別主義者ってたまにいるものね。ただ、イーミルの支部長がそうだとは初耳だったけれど」
「エルフや獣人の職員がいても不思議ではないのですが」
「あなたがもっと出世して、変えて。ギルドを」
「その前に、支部長が出世するでしょう。変えるのは僕ではなくあなたです」
「それもそうだけれど、たくさん出世したいわけじゃないのよね……」
傾けたグラスの葡萄酒を眺めながら、アイリス支部長は困ったように笑った。
「仕事の話ばかりで、妾を放置するとは、不敬である!」
もう何度も酒をおかわりしていたせいか、ライラの呂律が怪しい。
「ふけーである!」
「わかった、わかった」
構え! と顔に書いてあるかのようだった。
あれから、オーランドはときどきこちらの支部に顔を見せるようになっていた。
といっても、Sランクに斡旋できる仕事はなく、俺とは世間話だけをする。支部長とは、仕事が終わったあと呑みに行っているようだった。
ライラがクラッカーを寄こせ、次はチーズ、その次はドライフルーツだ、と要求してくる。
すべて「妾に食べさせよ」と口を開けて待っていた。
クラッカーを食べさせ、上機嫌にグラスを傾け、次はチーズを……そんな具合に、俺はリクエスト通りに食べさせてやった。
「ライラちゃん、よかったわね、ロランに食べさせてもらって」
うふふ、と微笑みながらも、完全に小馬鹿にしているアイリス支部長だった。
だが、普段は気づくであろう真意も気づかないほど、ライラは酔っていた。
「うむ」
もぐもぐと口を動かして満足そうだった。




