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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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眠っていた兵器と魔王城6


 ◆ロジェ◆


 巨大な魔導兵器を前に、オーランドが口を半開きにして見上げた。


「オーランド、あれが『石巨兵』だ」

「だと思った」

「おまえ頭いいな」

「サンちゃんが悪いだけ」

「む」


 幼馴染と背中合わせになり、故郷を追い出されるきっかけになった最後の戦いを思い出す。


「DIOOOOOON」


 鳴き声のような駆動音を鳴らし、『石巨兵』が長い腕の先にある五指をこちらへむけた。


「オーランド、任せていいか」

「うん」


 こちらを向いた指から、ドドッ、ドドッ、ドドッ、と赤い弾丸が発射された。

 その瞬間、二人は離れ、ロジェは妹のマリオンのほうへ走った。


「何年ぶりかしら」

「ああ、そうだな、マリオン」


 姉妹喧嘩はよくした。だが、やっても口喧嘩がせいぜいだった。


 マリオンが魔法弓を発現させ矢をつがえた。


 まだ心のどこかで、ロジェはマリオンが本気なのかわからないでいた。

 だが、自分と森一番の腕を争う技量は衰えておらず、狙いをつけて放たれた矢は、間違いなく自分を貫く射線を描いた。


「ッ……」


 闇属性魔法『シャドウエッジ』発動。

 魔法を剣の形状に変え、それを両手に携え矢を払った。


「なにそれ。エルフのくせに、闇属性魔法だなんて」

「おまえは知らないだろうな。故郷を失ってから、ワタシなりに努力したのだ」

「故郷を失って、エルフ族の誇りすら捨ててしまったのね、お姉ちゃんは」

「ああ……誇りで故郷が守れれば、どんなに楽だったか」


 もう一〇〇年以上前のことだ。

 故郷を失ったあと、復讐を考え実行した。群れていないニンゲンを一人ずつ倒すのは簡単だった。


 当時死んだと思っていたオーランドは、今は『石巨兵』相手に奮戦している。


「DIGUOOO!」


 伸ばした腕から、赤い弾丸が発射される。

 それを身軽にかわし、風属性魔法を操り大剣を叩きつけた。


「攻撃、死んでる。単調。魔獣のほうが、予測不能」


 今は冒険者でランクはSなのだと再会したときに言っていた。どうやらSランクは伊達ではないらしい。


 戦いを見守っていたマリオンが、ロジェに質問を投げかけた。


「お姉ちゃん、どうしてマスターに逆らうの?」

「ヴァンとは交換条件で従ったが、本来付き従っているのはライリーラ様ただ一人。そのお方にヴァンが危害を加えるのであれば、お救いするのが近衛隊長として当然の使命」

「私もいるわ。ライリーラというあの魔族も。ここで暮らせばいいの」


 マリオンの提案にロジェは首を振った。


「わかっていた。わかっていたが、ワタシは見て見ぬフリをした……。本物のおまえだと、思い込もうと努力した」

「本物でしょ? 一体何が違うっていうの?」


「あの日のまま過ぎる。成長も退化も何もしていない……記憶にあるそのままだ。再会したオーランドとおまえは大違いだった。旧知の友と会ったから余計にそれを痛感する。やはり、『復元』されただけに過ぎないのだと」


 つまらなさそうにマリオンは首を振った。


「もういいわ。このお姉ちゃんは要らない。新しい『お姉ちゃん』をマスターに作ってもらうわ」


 マリオンは、三本の矢を作り出し弓を引いた。


「……もうそれは……」


 ロジェも魔法弓を発現させ、闇属性魔法で作った矢をつがえた。


 マリオンが放ったと同時に、ロジェも放つ。


 三本の矢が蛇のようにうねりながら鋭く迫る。


「マリオン、魔法弓に魔力矢……それらはもう時代遅れなのだ。森の技術は、とうの昔に世界から遅れてしまっているのだ」


 ロジェの矢は、マリオンの矢から守るように粒子のように広範囲に展開。そこを通過した矢は見当違いの方角へと飛んでいき、壁や床にそれぞれが突き刺さった。


「そんな……何、その矢……」

「『誤認識(チャフ)』という魔法矢の一種だ。放たれた物体の照準を大きく逸れさせる矢といえばわかるか? 戦前に死んだおまえは知らないだろう。人魔大戦時、広く魔王軍で使用されたものだ。……ワタシが考案した、エルフ殺しの矢だ」


「どうしてそんな矢を」

「もうワタシは、森のエルフではない。魔王軍近衛師団、第一魔法連隊長のロジェ・サンドソングだ。ワタシを同族殺しと蔑むか? 旧世代の技術で戦場に来るほうがどうかしているのだ」

「私のこと?」

「おまえに限らず、エルフ族全体がそうだったというだけの話だ。ワタシはそれを恥じた。森の技術だの誇りだのと聞こえのいいことを言い、甘っちょろい理想とプライドを引っ提げて戦場に現れた時代遅れに、他の誰でもないワタシが引導を渡してやろうと思った」


 停滞しているのなら、奪われ蹂躙されるしかない。

 故郷を失ったロジェはそれを学んだ。


 ドォン、と砲声にも似た轟音が響いた。

 建物が揺れパラパラ、と壁の欠片が剥がれ落ちる。


 オーランドが振るった大剣が、『石巨兵』の片腕をへし折った。どこで身につけた技術なのかはわからないが、オーランドも、伝統的なエルフの戦い方ではない。

 当時とは戦闘スタイルがまるで違う。


『石巨兵』が四つん這いになると、肘と膝から伸びた杭のようなものが床に突き刺さった。


 がぱっと口が開くとそこから砲身が伸びた。


「DIGO――!」


 強烈な赤い光をまき散らし、砲身から魔力弾が発射された。


「えい!」


 オーランドが大剣で真っ二つに斬ると、割れた魔力弾が壁に着弾した。

 あれほどの攻撃を受けて城が崩壊しないのは、ライラが魔法を使ったからだろう。


 あの一撃を放つと、すぐに元に戻れないらしく、『石巨兵』は大剣の餌食となっていた。


「オーランドも、もう、エルフの戦い方ではないわ」

「マリオン、おまえが死んでから、一五〇年が過ぎようとしている。少しくらいなら、ワタシもオーランドも変わる」


 ロジェが隙を突き、一足飛びで接近するとマリオンは『シャドウエッジ』を腰の短剣で受けた。


「マリオン、あのときは守ってやれずすまない」

「やめて! 私は守られたくなんてなかった!」


 エルフの戦法はロジェも熟知している。こうしてつばぜり合いをしてしまえば、脅威ではなくなってしまう。


 再び距離を取ると、マリオンはまた弓を構えた。


「まったく進歩しない。エルフが引きこもりの種族と揶揄され、バカにされるのも、致し方ないことだった」


 あのとき、それに気づいていれば、守れただろうか。

 森を、故郷を、妹を。


 マリオンが放った矢を両手の『シャドウエッジ』で斬り落とす。


「ッ――!」


 また近接戦闘をロジェが仕掛けると、振り上げた武器がマリオンの短剣を弾き飛ばした。


「また会えて嬉しかった。ワタシの我がままに振り回してしまい、すまない」


 顔を見て、一瞬躊躇しそうになる自分を叱咤した。

 迷いかけた刃を、マリオンの胸に突き立てた。




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― 新着の感想 ―
[一言] ロジェさん…複製とはいえ、妹を手にかけなければいけないとは、切ない…。
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