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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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眠っていた兵器と魔王城5

 ◆ロラン◆


 王城からずいぶん離れた城下町の廃墟で俺たちは一夜を明かそうとしていた。


 俺が周囲を警戒する間、三人には休んでもらった。


 遠く見える王城には、まだ明かりが灯っている。城に近づくにつれて、警護や巡回の魔導兵器の数は増えていった。


 あの様子からして、俺たちをどうやら捜しているらしい。

 外でこそこそと動く気配があり、窓の隙間から様子を窺ってみる。


「むう、いないか……! 一体どこへ行った……!?」


 大声で愚痴をこぼし、廃墟の扉を律儀に閉めようとしているロジェがいた。


 なぜ姿を消し、戻ってこなかったのか、その理由が判然としない以上は、ロジェがヴァン側にいる可能性も十分に考えられる。


「いるならこのあたりだろうと思ったが、あのニンゲン、手間ばかりかけさせて……!」


 ゲシ、と柱を蹴ったが、固かったらしく、つま先を押さえてロジェが悶絶している。


 相変わらず緊張感のないエルフだ。


「この国に来たのは知っている! 出てこーい!」


 どうやら俺を捜しているらしい。


 もし敵だったとして、三人が休んでいるここがバレなければ問題はないだろう。

 それに、俺一人ならどうとでもなる。


 俺は休憩所とした廃墟を出ていった。

 スキル発動――。

 その方角がわからないよう気配を消して、大きく迂回し、ロジェの近辺までやってきた。


「夜だというのに騒がしいな、おまえは」

「い、いたっ!」


 指を差すと駆け足でこちらへ走ってくる。敵意のようなものが感じられないので、俺は接近を許した。


「俺を捜しているのか」

「ああ、そうだ! それよりも、ライリーラ様が――!」


 暗がりでわかりづらかったが、ロジェの表情は、焦りと恐怖のようなものが浮かんでいた。

 口をへの字にし、すがるような視線を俺に投げかけていた。


「ライラがどうした」

「魔導兵器を発掘した、ヴァンが、銃というやつで」

「落ち着け。何を言っているのかわからない。ライラがどうした」

「ライリーラ様が、銃とやらで撃たれ意識がない」


 攻撃を受けた? ライラが?

 にわかには信じがたい。

 もし可能性があるのなら魔導兵器だろう。あれは完全に未知の技術だった。ライラを傷つけることもできるのか?


「おまえは、ライリーラ様を連れ戻しに来たのだろう!? ワタシは、ヴァンとは協力関係にあるが、心服しているのはライリーラ様のみ。だが、ワタシでは助けられない……」


 途中からロジェはぽろぽろと涙を流しはじめた。

 敬愛している主を自分の手で助けられないのが悔しいのだろう。失ってしまうかもしれない、という恐怖と不安もあったのだろう。


「問題ない。戦力を把握したい。教えてくれ」

「あ、ああ!」


 ぱあっとロジェの表情が晴れた。


 元々攻略した城。内部の構造は知っている。警戒すべきは、あの魔導兵器とやらだ。

 その類型をいくつか教えてもらった。

 犬型の『猟犬』。大きな人型の『石巨兵』。ライラを負傷させた『銃』。あとひとつあるらしいが、どういう使用法なのかわからなかったそうだ。


「だ、大丈夫か? ワタシやライリーラ様でも、苦戦を強いられる敵だ」

「誰に言っている」


 時間が惜しい。

 俺が王城へ向かおうとすると、「どこ行くのよ」と声をかけられた。


「また一人でトイレ?」


 アルメリア、エルヴィ、オーランドが廃墟から出てきたところだった。


「ロラン、私たちは、結局おまえの足手まといでしかなかったか? もう少しだけでいいから信用してくれ」


 オーランドは、ロジェのもとへ走って抱き着いていた。


「サンちゃん、久しぶり」

「オーランド!?」


 久闊を叙す二人の脇では、ついていく気満々のアルメリア、エルヴィが装備の確認をしていた。


「話は聞こえていたわ。一人で行ってもあとで絶対に追いつくんだから」

「ああ。私は、敵に負けてしまうことよりも、ロランに戦力にならないと思われるほうが嫌だ」

「好きにしろ。もう守らないぞ」


 顔を見合わせる二人が、くすぐったそうに笑った。


「ロランにこんなことを言われる日が来るなんてね」

「死ぬほどキツかった鍛練に耐えた甲斐がある」


「もうわたしたちじゃないのね、守りたい人は」


 俺は何も答えなかった。


「二人はどうする?」


 ロジェとオーランドに尋ねると、うなずいた。


「ワタシも行くぞ」

「オーラも行く」


 メンバーは違うが、また五人であの城を攻略することになった。





 こと制圧戦にかけてはアルメリアの右に出る者はいない。

 当時からそう思っていたが、やはりその火力は圧倒的だった。


 アルメリアは王城までの道中、『インディグネイション』で警備巡回の『猟犬』を一掃していく。


「あははは。どんなもんよー!」

「あまり前に出るな、アルメリア」


 指示を出す前に、エルヴィが盾を構え、発動させたスキルで自分に攻撃を集中させた。


 エルヴィに気を取られている敵を、オーランドが大剣で吹っ飛ばしていく。攻撃して破壊するのは諦めたらしい。


 ガゴン、と重い音がすると、ニ、三体は放物線を描いて飛んでいった。


「オーランド、頭を下げろ」

「うん」


 魔力で作っ魔法弓をたロジェが魔力の矢を射る。エルフのお家芸といったところか。


「腹を狙え」


 俺が助言すると、矢が地を這い、下から上へと『猟犬』を貫いた。


「おまえの攻撃がまともに成功をするとは」

「貴様、ケンカを売ってるのか」

「褒めているんだ」

「む。そうなのか」


 そのつもりはなかったが、すぐに納得してくれた。

 夜中とあって、人がいない。誰かを巻き込むことはなさそうだ。


 アルメリアの火力と敵の注意を引きつけるエルヴィ、残った敵をエルフ二人が担当。

 一対一を得意とする俺の出番はこれといってなかった。

 役割分担もできているし、安心して任せられた。


 王城に忍び込む必要もなく、アルメリアの火力で正面突破は簡単にできた。


「どんなもんよー!」

「ロラン、アルが褒めてほしそうだ。あのセリフは二回目だ」

「アルメリア、さすがだな! さすが勇者!」

「でっしょー!?」


 みるみるうちに鼻が高くなっていくのがわかった。


 機嫌をよくしたアルメリアは、魔法剣で閉ざされた王城の門を破壊する。


 俺たちが中へ入ると、見覚えのある一階のエントランスに出た。

 階段の上には、エルフが一人いる。


「お姉ちゃん、どうしたの。何をしているの?」


 お姉ちゃん?


「……私はエルフを妹に持った記憶は」

「エル、あんたじゃないわよ」

「え」


 後ろにいたロジェが、押しのけるように前に出た。


「マリオン。ワタシたちはライリーラ様を救う。時間がない。そこをどくがいい」

「無理よ。わかってるでしょ? 指示は絶対よ。……やだ、オーランドも一緒なの?」

「マリオン、生きてる……どうして?」


 驚くオーランドがロジェに訊くと、バツが悪そうにうつむいた。


「ヴァンに持ちかけられたのだ。一人『復元』してやる、と。代わりに協力を求められた。『復元』されれば、製作者――ヴァンを主と認める。マリオンも、それで……」


 正面階段をのぼらなくても、上階へ行く方法はいくつかある。だが、一番の近道はそこを通ることだ。


「ワタシに任せてほしい。すべては、ワタシの心の弱さが招いたこと」


 ロジェが臨戦態勢に入ると、オーランドも戦闘態勢に入る。


「あの日、マリオン、死んだ。死者は、生き返らない。あのマリオン、幻。サンちゃん一人に、背負わせはしない」


 相手は他にもいるらしい。

 俺たちが入ってきた扉をくぐるように、巨大な人型の兵士がぬっと姿を現した。


 二階にも届きそうな身長に、だらりと伸びた両腕。視覚情報を得るであろう目の部分は、『猟犬』と同じように三つの目が赤く光っていた。


「ロラン、先。みんなも」

「ここだけは、ワタシが弓を引かねばならない。ニンゲン……ライリーラ様を頼む」


 うなずいた俺は、正面階段を真っ直ぐ上る。


「ダメよ。上は。マスターに怒られてしまう」


『影が薄い』スキル発動。踊り場にいるマリオンを簡単に抜き去った。


 見失った俺を捜している隙に、エルヴィとアルメリアが両脇を素早く駆け抜けた。


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