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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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眠っていた兵器と魔王城4


 気づけば、町の住人たちが、巨犬が敵視していた俺たちを注視していた。

 間違っても好意的なものではない。


「オーラたち、睨まれてる?」

「みたいね」

「住人は俺たちを大歓迎してくれるらしいな」

「ロラン、皮肉を言っている場合か」


 それもそうだな、と俺はつぶやき、「離れよう」と促し三人とその場から移動した。


「あれ、何だったの?」

「偽のライリーラ殿が溶けたと言ったが、まさか」

「ヴァンの手によって作られた魔導兵器だろうか」


 腕を突き刺した限りの感触だと、体は鋼鉄でできていた。

 魔力が動力なのかと思ったが、そうではないらしく、魔法的な術式で動いているだけの自律式兵器だった。

 さすがにあれがどろりと溶けるとは思わなかったが。


 人けのない廃墟にやってくると、二階に上がり、警戒しながら窓の外を見る。

 魔導兵器と思しき巨犬の溶液のそばに人が集まり、騒ぎになっていた。


「わたしたちは、むしろ邪魔者なのかしら……」


 同じく眺めていたアルメリアがぽつりとこぼす。


「この町の平和を乱そうとしているのは、俺たちのほうだったのかもな。通報したか何かであの魔導兵器が起動し、侵入者を追い払おうとした、といったところか」


 通常なら追い払うところが、返り討ちに遭ってしまった、と。

 ライラとロジェを捜すどころではなくなってしまったな。


「オーラ、あれ知ってる」

「オーランド殿、そういうことは早く言ってくれ……」


 エルヴィが嘆くように頭を振った。


「直接は知らない。昔……二〇〇年くらい前、本で読んだ。四つ足の魔導兵器。三つの小型砲。『猟犬』で間違いない」

「魔導兵器の『猟犬』」

「そう。一〇〇〇年前に滅んだ技術。大戦争起きた。そのときに、兵器破壊。――て書いてあった」


 破壊、か。

 それが本当なら、さっきのあれは復元され、ああして元気に発砲してきている。


 確かめる気はないが、町の人もそうなのではないか。


「ヴァンの能力では、俺の偽物を作ったりライラの偽物を作ったりできた」

「私が預かった魔剣もだ」

「ん。おそらく『作る』ことに長けた能力だろう。本体に通じる一部分でもあれば、復元、複製が可能なのかもしれない」


「何よそれ……埋まってた人の骨を使って復元してるってこと?」

「あり得る」


 それが正しければ、墓地に痕跡のひとつやふたつあるだろうな。


「趣味悪いわね」


 心底嫌そうなアルメリアのつぶやきだった。


「現状、俺たちは侵入者扱いだ。『猟犬』はあれきりではないだろうし、もしかすると、別型の魔導兵器がいるかもしれない」


 侵入者のことは、もう内部では知られているだろう。


 敵とそうでない者を見分け、任意に攻撃し、かつ自律式……。

 一〇〇〇年前の技術というのは、相当高度なものだったらしい。


「ライリーラ、どこにいるのかしら」

「もしいるとすれば、あそこだろう」

「あそこ?」

「一番高いところだ」


 ああ、とアルメリアとエルヴィは、その方角にちらっと目をやった。


「お城?」


 首をかしげるオーランドに、俺はうなずいた。


 ここまでやってきたのだ。気づいているのなら、顔を見せてくれればいいものを。






 ◆ライラ◆


 かつて、ライラが私室としていた部屋から窓の外を眺めていると、住民たちが騒いでいるのがわかった。


 未登録者が来訪してきたのだろうが、なかなか『猟犬』は戻ってこない。


 ライラは窓を開け、魔力で聴覚の感度を上げる。すると『猟犬』が破壊されたとという会話と侵入者に怯えている住民の声が聞こえた。

 珍しいこともあるものだ。

 魔物や盗賊程度の敵なら『猟犬』一体で十分追い払えるというのに。


 ヴァンが遺跡から見つけてきた欠片で『猟犬』はいともたやすく元の姿を取り戻した。ロランの右腕から本人を作ったのも納得がいった。


 ヴァンが国を興すという目的を聞いてからライラがしたことは、まずは治安を取り戻すこと。

 巣食っていた魔物を排除し、ねぐらにしようと寄ってきた盗賊を追い払う。

 そうしているうちに、遺跡に向かったヴァンは、遺物の復元に成功し、魔導兵器と呼ばれたかつての兵器を伴い帰還した。


 以降は、『猟犬』が治安維持を担っている。

 ライラは、ヴァンの国造りの相談役として、呼ばれたときに助言を与える日々を過ごしていた。


「ライリーラ様」


 扉の外からロジェの声がする。

 ライラがここへ来てしばらくした頃に、ライラを探しにロジェがやってきた。


 復興の手伝いをすることを伝えると、やり方を聞いたロジェは珍しく難色を示した。だが、ヴァンが何かの条件を持ち出すことで、協力するようになった。


「入るがよい」

「は」


 中に入ったロジェが、外の様子を教えてくれた。


「あの男が来ました」

「そうか。道理で」

「ヴァンにも報告しますが、『猟犬』が一体破壊されました。また別の魔導兵器を手配することになるでしょう。……会わなくてよいのですか?」

「うむ」


 何か言いたげなロジェは、逡巡すると、やがてゆるく首を振った。

 小さく一礼して、部屋を出ていく。


 その隙間からちらりとエルフの姿が覗いた。


 この町へやってくると、ロジェはすぐに彼女をともなって挨拶に現れた。

 昔、ニンゲンとの争いで亡くした妹だという。

 ヴァンが出した協力の条件はそれなのだとすぐにピンときた。

 ヴァンの『蘇生』に嫌悪を示したロジェだったが、常識も倫理観も家族の情には敵わなかったのだ。


『安全で豊かな町だと示すことであろう。さすれば自然と人も戻ってくるはず』


 ライラはそう提案したが、ヴァンはその能力で安易な方法を取った。

 墓地から『蘇生』させた人々が、今町には溢れている。


 能力を使ったのは二〇〇人ほどだそうだが、別の墓地にいけば簡単に人口を増やせるだろう。


「死者の国、か」


 ヴァンの能力は本物とそん色がない。それならもう、その人個人ではないだろうか。

 このまま人は増え続けるはず。物資物流を整えれば、復興の第一歩。


 それを見届けて、ここを去ろう。


「……」


 廊下からこちらへ近づく足音がある。ニ、三人ではない。もっとだ。


 扉が不作法に開けられ、中に屈強な男が一〇数人雪崩込んできた。


 治安維持名目で部隊を編成すると言っていたが、簡単に兵と指揮官を育成できると思わない。だから、その手の墓地から腕に覚えがありそうな者を全員『蘇生』させたのだろう。


「ディアキテプ。マスターの命により、ここで死んでもらう」


 ライラは呆れたようなため息をついた。


「妾もずいぶん舐められたものだ。これは侮辱以外の何物でもない。これっきりで妾をどうにかしようなどと笑止。妾を侮ったことを永遠に後悔するといい」


 ライラが不敵に笑うと、剣や短剣、それぞれの得物を持った男たちが襲い掛かってくる。


「余興にもならぬ」


 第八位階魔法『焦炎砲』を発動させた。赤黒い魔力の熱球が瞬時に複数形成される。

 一、二、三……ライラが指をさすと、猛犬のように熱球は標的へ飛翔していった。


 魔法陣もなく、魔法を詠唱するでもなく、発動の意思と標的の指定だけで襲撃者は瞬時に黒炎と化した。


「つまらぬ。協力すると言っておるのに……」


 残りの襲撃者がたじろいだ。

 燃えた標的は不自然に液状化すると、ライラの魔法によって蒸発した。


 あれが『蘇生』されたニンゲンの特徴だった。

 ロランの偽物を目の当たりにしたときは、本人のままだと思ったが、粘性のある液体化するなど、やはり中身は本物と大きく違う。


「少しくらい妾を楽しませてくれ。退屈しておるのだ」


 殺気を放ち、襲撃者が声を上げ迫ってくる。また一人、二人とライラが指先ひとつで蒸発させていると、目の端で見慣れない武器を構える者を認めた。

 あれは、銃と呼ばれる代物だったなと書物の知識が脳裏をよぎる。


 ライラは『次元壁』を発動させた。

 物理、魔法のすべての攻撃を完封する第二位階魔法だ。

 経験のない武器、攻撃には、これが最適解。


 ガァン、と炸裂音が響くと、弾丸がライラへと放たれた。


 あれなら問題なく『次元壁』が阻むだろう。

 向かってくる鈍色の弾丸を視認した刹那、ただの弾丸ではないことがわかった。

 魔導兵器に見られるような、未知の術式が弾丸に細かく刻まれている。


「――」


 ライラは踵を鳴らし、転移魔法を発動させ念のため退避しようとする。

 万が一『次元壁』で防げなかった場合の一手だ。


 だがその万が一は起き、転移魔法発動はわずかに遅かった。


 ライラは一発を肩に被弾する。

 続けて放たれた二発目を胸部に受けた。


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