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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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捜索4


 気絶しているエルヴィをディーが魔法で捕縛をした。


「『緊縛』って言うのよぅ。卑猥よねぇ」


 うふふ、と微笑みながら、聞いてもない魔法名をわざわざ教えてくれた。


 自由を奪ったエルヴィをベッドに転がし、ついでに気を失っていたロジェもベッドに寝かせておいた。


「ロラン様、ライリーラ様は……」

「ディーが戦ったのは、偽ライラだったらしい」

「道理で。何か物足りない気がしていたのよねぇ」


 ディーは吸血槍の穂先をじっと見つめると、ふっと消した。


「じゃあ、さっきライリーラ様が帰りたくないって言ったのは、本人の本心ではない、と思っていいのかしら?」

「いや、それはおそらく本人の言葉だろう」


 偽物の俺と対峙したことでわかったが、思想も思考回路もそのまま俺だった。

 だから、偽ライラが罪を感じていると言った言葉は、本人もそう思っているはずだ。


 偽物がまったく違う思考をするのなら、まだ救いはあったが……。


 俺は小さくため息を吐いた。


「勇者様、困ります! 勝手をなさると――あ、ちょっとぉ」

「いいのいいの、エルにはあとで私から言っておくから。使用人や警備の人が叱られないようにするから、大丈夫、大丈夫!」


 騒がしい足音と困惑する声が聞こえると、バン、と景気よく扉が開いた。


「エル――! ここにいるのはわかって……って、もうロランたちがいるのね」

「遅かったな」


 荒事が片付いた室内をひと目見て、アルメリアは首をかしげた。


「ライリーラは? ここにはいないの?」

「……ここにはいなかったようだ」

「ふうん、そう」


 戦ってみたかった、とでも言いたげな口調だった。


 アルメリアとライラでは、やはりライラのほうがまだ上だろう。

 だが、アルメリアの能力で一番驚嘆すべきは、呑み込みの早さだ。

 エイミーと戦う前に俺が叩き込んだ防御と回避を上手く攻撃と組み合わせれば、もしかすると、いい勝負をするかもしれない。


 アルメリアも揃ったので、エルヴィの頬を叩いて目を覚まさせてやった。

 アルメリアが詰ると、エルヴィの額を指で弾く。ペシッ、といい音がする。


「敵うわけないのに、もう……。バカエル」


 うなだれるようにエルヴィはうつむいていた。


「敵うかもしれない、とは思った。私とて、無策でロランを迎え撃って勝てるとは思えないからな」

「そう思わせたのが、あの剣か」


 先ほど鞘にしまって隅に立てかけた剣に目をやると、エルヴィは小さくうなずいた。


「私は、私の正義に従った。後悔はない。好きにしてくれ」

「別にどうこうしないわよ」


 でしょ? とアルメリアが視線で尋ねてきた。


「ん。したところで、どうなるものでもない。それよりも、エルヴィ。あの剣と偽ライラの出所を教えてほしい」


 偽ライラ? と首をかしげるアルメリアに、ディーが説明をした。


「いたのはいたのよ、ライリーラ様。でも本物ではなく偽物だったけれど。溶けちゃったの」

「溶けた?」

「そうよぅ。『盾の乙女』さんは、あの剣一本でロラン様を迎え撃ってどうにかできると思っていたの? それ、正気?」


 ディーの言うことはもっともだったし、少し怒っているふうでもある。


 どうして単独行動だったのか。慎重派のエルヴィなら、騒ぎにならない範囲内で軍や他の機関に報告して態勢を整えられたはず。


「ロランの家を訪れたあと、あの男が剣を持って現れたのだ」


 あの男?


「誰よ、それ」


 アルメリアが言うと、エルヴィは詳しくは知らないが、と前置きをして続けた。


「ヴァンと名乗った男だ。試作品だと言って、私にあの剣を預けた。剣には、不思議な魅力があった。一度使ってみると、力という概念そのものを手にしているかのような、途方もない自信が湧き溢れてきたのだ」


 過剰ともいえる力が、自身の実力を過信させた、と。文字通り魔剣だったというわけか。

 相手が俺でなければ、相当な脅威になったはずだ。

 ……ワワークなら、あの剣を調べれば、何かわかるだろうか。


「その人は、どうしてエルにそんなものを?」


 至極もっともな疑問に、エルヴィが答えた。


「わからない。ヴァンとやらは神王国民だと言っていたが、南方の訛りがあった。国王暗殺の責任を負っている私のことを、どこかで聞きつけようだった」


 近衛隊長のエルヴィは、国王暗殺に責任を感じるような人柄で、名誉挽回を狙いたいと思うのも無理はない。

 生きていた魔王を捕縛したとなれば、アルメリアに代わる英雄とされただろう。

 エルヴィは生来の正義感と相まって上手く利用されたようだ。


「……待て。暗殺の情報は秘匿されたままのはず。どうしてそれを知っている」


 俺が言うと「確かに」とエルヴィは今さら思い至ったらしい。


 ヴァンとやらは、内情をどこで知った――?

 軽々に口にする者がいるとは思えないが、第三者に漏らす者がいるなら、それは偽物の俺だろう。エルヴィの立場や性格を知っているし、国王暗殺の犯人でもある。


「そのヴァンには、勇者パーティかどうか確認されたから、剣の使い手を選んでいたように思う」


 試作した剣を渡すにはちょうどいい相手だったんだろうな。


 試作……。

 偽の俺と繋がりがあったとみていいだろうし、魔剣をも作った。


 エルヴィが偽ライラの身柄を預かれば、俺が奪還に動くだろうことも読んでいた。

 偽ライラと魔剣の性能を確認するためか……。


 どうやら、上手く踊らされたらしい。


「偽の俺を処刑したときの様子はどうだった? もし溶けたのであれば」

「ヴァンがあのライリーラを作った可能性が高い、ということか。詳しくは聞いてない。あとで調べておこう」

「ああ、頼む。本物のライラが今どこにいるかわかるか?」

「すまない。私にはまったく……」


 剣を試作した、とエルヴィに言ったあたり、創作能力のようなものがあるのだろうか。


「剣を借りてもいいか」

「ああ。構わない。好きにしてくれ」


 調べて何かわかればいいが。



◆ロジェ◆


「らっ――ライリーラ様っ!?」


 がばっとロジェが目を覚ますと、そこは見知らぬ客室だった。


「おお。起きたかエルフ殿」

「む。貴様は、勇者パーティの『盾の乙女』。しかしワタシはどうしてベッドに……。ここへ踏み込もうとして……はっ!? ライリーラ様はいずこへ!?」


「所在は不明だが、ロランたちならすでに帰ったぞ」

「い、いつの間に……!?」

「お茶でも用意させよう」

「……気を遣わせてすまないな」


 ペコりと頭を下げて、使用人が出してくれた紅茶をズズズと飲んで一服するロジェだった。


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