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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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捜索2


 ロジェの転移魔法でルーベンス神王国の王都、ウイガルへ到着する。

 町中では誰が見ているかわからないので、王都を見下ろせる人けのない丘へ移動してきた。


 ぼそり、とアルメリアが言う。


「魔王は、冷徹で悪辣な悪の象徴ってイメージだったけど、ライリーラがそうだってわかると、イメージと大きく違うのよね……」


 魔王としてのライラと、個人としてのライラでは、アルメリアの言うように印象がまるで違う。


「ライリーラ様は、心根の優しいお方だ。人魔戦争後は、常に罪悪感に苛まれていたようだった。ワタシは、それを間近でずっと見続けてきたのだ。戦争の傷痕を見かける度に、お心を痛めておいでだった」


 おそらく、ロジェが考えている通りだろう。


「魔王軍がやったことは到底認められないけれど、罪を認めて償おうっていう人に付け込むようなやり方は気に入らないわ」


 ライラは大罪に悩み、どこかで罰を欲していたのかもしれない。

 バーデンハーク公国復興には、ライラなりに尽力していた。


「真意は、本人からあとで訊くことにしよう。本当にライラがエルヴィの下にいるかもまだわからない」


 俺は『シャドウ』を発動させ、エルヴィの屋敷を中心に調査をさせる。

 一度訪れた場所だけあって、『シャドウ』を忍び込ませ情報を集めるのは簡単だった。


「変な魔法を覚えたのね」

「魔族の魔法だ。ライラに教わった」

「へぇ……ふーん」


 アルメリアが唇を尖らせている。


「私が教えても、大した魔法は全然できなかったのに。ライリーラが教えたらできちゃうんだ? へー」


 すごくつまらなさそうに言うので、俺は理由を話した。


「人間の魔法は魔族のそれに比べると、婉曲的で冗長な部分が多い。それが俺に合わなかったんだろう」

「魔族の魔法なら合う、と」

「といっても片手で数えるほどしか教わってないがな」


『シャドウ』の一体から反応があった。

 俺の感覚と同期させると、その一体の視覚と聴覚と繋がった。


 低い視界の中、エルヴィの屋敷の中庭が視える。

 壁越しに話し声が聞こえてくるので、『シャドウ』を壁際まで静かに移動させた。


「――お嬢様が客室にお連れになられたあの方って」

「以前、ロラン様と一緒にいらっしゃったお綺麗な方でしょう? ライリーラ様だったかしら」

「え、修羅場? え、修羅場?」

「嘘。あり得ないわよ。お嬢様がそんな積極策を取るなんて」

「真正面から当たって砕けろって感じでしょう、お嬢様ったら」

「じゃあ、本当に? ロラン様と釣り合うのは自分だと直接?」

「絶対そうよ。今ごろ、お部屋の中はピリピリしてらっしゃるのよ、きっと」

「やぁー、もう、お嬢様、頑張って」


 ……もしそうならどれだけよかっただろう。

 俺は『シャドウ』の同期を解除した。

 情報はまだ必要なので、他の場所にいる『シャドウ』をエルヴィの屋敷に集めて待機させておく。


「どうやらライラはエルヴィの屋敷にいるようだ。使用人の会話からして、酷い扱いは受けていないと思われる」


 客室と言っていたから、客人として屋敷に連れてきたようだ。

 ディーが誰ともなく尋ねた。


「もし、魔王だと知っているなら軍を動かすこともできたはずでしょう? そうしないのは、周知せず秘密裏に事を済まそうとしているってことでいいのかしら?」

「おそらくな」


 顔を合わせ魔王として話をし、一緒に酒を呑んだとはいえエルヴィには憎い魔王でしかなかった、ということなのだろうか。

 そういえば、とアルメリアが思い返すように視線を宙にやった。


「様子が変って思ったとき、佩いていた剣がいつもと違っていたわ」

「違うときくらいあるだろう」


 何でもなさそうにロジェが言うと、ディーは首を振った。


「戦闘の感覚が違ってくることもあるから、とくに近接戦闘を主としているなら、おいそれと武器を変えることはないと思うわよぅ」


「ロランがいるんだから魔王だろうが何だろうが、放っておけばいいのよ。もう、バカエル」


 腰に手をやり、平らな胸をでんと張って、自信満々にアルメリアは言う。


「いいわ、私が直接交渉をしに行くから!」

「無鉄砲ねぇ」

「猪突にもほどがある……」


 ディーとロジェが困惑していた。


 この自信と向こう見ずの性格は圧倒的な能力に根差したものだ。

 しかし、それが他人に希望を与えることがあるのを俺は知っている。


 エルヴィは、俺の偽物からライラのことを訊いたと言ったな。


 最悪のことを一度想定してみる。こういう言葉にできない勘が働くときは、最悪の状態か、その一歩手前の状態であることが多い。


 予感が、冷たい北風のように肌を撫でた。





『シャドウ』から引き続き情報を集めようとしていると一体の身動きが取れなくなった。


 状況を把握しようと同期させると、しゃがんだ女と目が合った。


「……来たのか」


 ライラだった。

 あいつが俺の『シャドウ』に気づかないはずはない、と思っていたらこれだ。


 話したいことはたくさんあった。

 だが、俺の力では、ライラのように『シャドウ』を通じて会話をすることができない。


「妾は、救出なぞ望んでおらぬ。そもそも、妾の意思でここへ来たのだ。そなたに迷惑はかけたくない……。勝手を言ってしまってすまないが、もう決めたのだ」


 優しく寂しけに話しかけるライラ。

 もう言うことはないと言わんばかりに、『シャドウ』に何かした。すると、同期は解除され、その『シャドウ』は消えていた。


 俺は分散させていた他の『シャドウ』を消すと得た情報を三人に伝えた。


「屋敷の客室にライラはいる。自由に動ける状態だ。自分からここへ来たと言っている。だから拘束していないんだろう。警備は、以前来たとき通りだ」


 俺が簡単に警備の配置を伝えると、ひとつ言うべきか迷ったことがあった。

 言葉を待つ三人が、怪訝そうにこちらに向く。

 もしかすると抵抗されるのは俺たちのほうかもしれないな。


「さっき『シャドウ』伝いに言われた。救出は望んでいないそうだ」

「あ、そ。我がまま言ってくれるじゃない」


 と、意に介する様子がないアルメリア。


「望んでいらっしゃらなくても、ライリーラ様を害する何かがあるのなら、お守りするのがワタシの役目。このロジェ・サンドソングが万難を排してみせよう」


 ロジェが意気込んだ。こいつにしては珍しくいいことを言う。

 ディーも同じことを思ったのか、そのセリフを聞いて、表情がゆるみ半笑いになっていた。


「そ、そうですね、ロジェ様。ぷふっ……。フラグじゃなければいいのだけれど……ぷすす」

「何がおかしい?」


 ロジェがきょとんとすると、ディーは笑いをこらえながら「いえ、何も」と首を振った。


 たとえ、ライラ本人が望んでいなくても――。


「ロラン、準備オッケーよ!」

「ワタシもだ」

「わたくしもいつでもいいわよぉ」


 俺たちがそれを望んでいる。

 ライラ、ここは、俺たちのエゴを通させてもらうぞ。




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