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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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捜索1


 仕事が終わり家に帰ると、出迎えてくれるライラはおらず、奥にはつまらなさそうな顔をしたロジェがいた。


「今日は何の用だ」

「何の用だ、ではない。今日はワタシが来る日だとライリーラ様にはお伝えしていたのだ。お帰りになられたかと思えば……貴様か」


 これ見よがしに、はぁとため息をつかれた。


「ライラは?」

「買い物ではないのか? ワタシが昼過ぎにここへ来たときには、もういらっしゃらなかった」


 リビング、キッチン、寝室……どこを覗いてもライラはいない。


「おい、ライリーラ様はどこへ行ったのだ。ま、まさか誘拐されてしまったのでは――!?」


 おろおろ、と焦るロジェを俺は落ち着かせた。


「力が戻っているあいつは、『ゲート』を使える状態にある。王都やその他の場所へ簡単に行ける」

「だから、今は近辺にいないだけだと? ワタシが今日来ると知っているのだぞ……? 訪問のご了承を得たあとに不在なんてことは一度としてなかった」


 近衛としてライラのそばにいたらしいロジェだ。

 所在不明というのは不安で仕方ないのだろう。


 だが、今日訪れたロジェにも俺にも一言もなく留守にするというのは、確かに不自然だ。


「おい、ニンゲン。何か心当たりはないのか?」

「……」


 心当たり……。

 そういえば……唐突にヨルヴェンセン王国のことを訊いてきたな。

 それが姿を消す理由になるかどうかもわからないが、今思いつくことはそれしかなかった。


「ロジェ・サンドソング。ライラからヨルヴェンセン王国のことを何か訊かれたか?」

「ヨルヴェンセン……? いや、ワタシは何も。それがどうかしたか」


 俺は最近あった出来事をロジェに教えることにした。

 俺の偽物が現れたこと、おそらくそいつがライラが魔王であるとエルヴィにバラしたこと。それを知ったエルヴィやアルメリアたちがここへやってきて会話をしたこと――。


「で、では、勇者パーティの誰かだ! ライリーラ様を連れ去ったのは! 今の話では、『盾の乙女』に違いない!」


 盾の乙女というのはエルヴィの通り名のようなものだ。


「落ち着け、阿呆。今のライラは簡単に連れ去れるような存在ではないだろう」

「では、なぜライリーラ様はいないのだ?」


 ロジェの表情が、今にも泣き出しそうに歪んでいく。


 以前ロジェがライラを連れて行こうとしたときのように、その痕跡を探すが、何もない。


「……」


 ふと、俺とライラの周囲を嗅ぎまわっていた気配のことを思い出す。

 エルヴィの手紙を届ける使者だと思い込んでいたが、違うのではないか。

 届けるだけであれば、わざわざ観察や監視をする必要はない。


 俺やライラに興味を持った第三者がいる……?





 ライラの行方を考えていると来客があった。


 玄関の扉を開けると、珍しい組み合わせの二人がいた。


「ロジェ隊長が今日は来るというから、楽しい夜になりそう~なんて思っていたら」


 ちら、とディーが隣にいるアルメリアに目をやった。


「こぉーんな方も呼んでいたのぉ?」

「吸血族にエルフ族……ロラン、あんたこの家で何をする気だったのよ」


 呆れたような半目でアルメリアが俺を見てくる。


「勇者王女様は大層お時間を持て余しているらしいな」

「皮肉を言わないで」

「悪いが、今日は構っていられない。ライラの所在が知れない」


 ディーがあらあら、と反応すると、アルメリアは表情を曇らせた。


「アルメリア、何か心当たりがあるのか?」

「ううん。それはわからないけれど……最近エルの様子がおかしいから、ロランに相談しようと思って今日来たの」

「エルヴィの?」

「ええ。この前ここに来て丸く収まったでしょ? なのに今になって許せないって言いはじめて……。ライリーラが今いないのって、もしかして、それが原因なんじゃないかしら」


 ……アルメリアが違和感を覚えるのもわかる。

 エルヴィは、簡単に意見を翻すような人間ではない。

 戦争の件を追及し糾弾するなら前回していただろう。


「『盾の乙女』がライリーラ様の足下を見て……ほ、捕縛したのでは……!?」


 根が善良なライラのことだ。

 戦争被害のことを持ち出されれば、抵抗はしないだろう。


「エルヴィに会いに行く」

「私も行くわ。変だったもの、エル」

「もちろん、わたくしも行くわよぅ」


 ロジェは、訊く必要はないな。

 険しい顔で臨戦態勢といった様子だった。


 行動をともにすることになったので、アルメリアにはロジェとディーの素性を明かしておいたほうがいいだろう。


「このエルフは、あのロジェ・サンドソングだ。ダークエルフだったが、本来はこの姿らしい。この家には、主人であるライラがいるのでよく来る」

「なるほどね。こっちもその関係かしら?」


 アルメリアが視線を投げかけると、ディーは微笑を崩さないまま挨拶をした。


「わたくしもそうよぅ。元魔王軍。今は冒険者で、ロラン様とはとぉーってもイイ仲なの」

「……」


 アルメリアに嫌悪感が浮かぶような目をされた。


「ディー、わざと語弊を生むような言い方をするな。彼女はキャンディス・マインラッド。俺が担当をする冒険者では、一、二を争うほど優秀だ」


 はあ、とアルメリアはため息をついた。


「わたしたちが知らないだけで、元魔王軍って、結構いたりするものなのね」


 おそらくその通りだろう。

 こちらの大陸に残らざるを得なくなり、素性を隠して生活をする者はディーの他にもまだまだいそうだ。


 少数精鋭。戦力は十分だ。


 うっとりとした口調でディーが言う。


「ロラン様と一緒に行動するなんて、わたくし嬉しいわぁ」

「おいキャンディス、貴様、遊びではないんだぞ!」

「あらあら。戦いって書いて、遊びと読むのよぅ?」

「む? そ、そうなのか?」


 完全に騙されているロジェに、ディーがプススと笑い声をこぼしている。

 その二人をアルメリアが心配そうに指さした。


「大丈夫なの、この二人?」

「やるときはやる」


 ロジェのほうはわからないが。


「行くぞ」



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