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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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202/230

仲間として


「あんたも暇ねぇ」


 孤児院を訪れたエルヴィを見るなり、アルメリアは開口一番に言った。


「別に、私とて暇というわけではない。ただ、仕事ぶりやここにリーナがいると聞いて、様子を見に来たのだ」

「そういうのを、暇っていうのよ」


 呆れたように口にしたアルメリアは、どこか嬉しそうに笑みをこぼした。


「あっちの部屋がちょうど空いているから、そこで待っててちょうだい」


 そう言われ、エルヴィは言われた通りの部屋でアルメリアとリーナ、あとまだ来ていないセラフィンを待つことにした。

 応接室といった風情のこの部屋には、事務机、三人が腰かけられそうな古いソファ、くすんだ木製のローテーブルが、それぞれひとつずつあった。

 光が差し込んでくる窓があり、そこからは、外にいる子供たちのはしゃぐ声や泣き声が聞こえてくる。

 勇者王女は、公務の合間にはここにやってきて日々忙しく生活をしているという。


 しばらく待っていると、待ち人の三人が一緒に部屋へとやってきた。


「同窓会でもしようってわけ?」

 と、アルメリアが不思議そうに尋ねる。


「でしたら、大事な大事なだぁーいじな方がいらっしゃいませんよねぇ?」

 のほほんとした口調でセラフィンがあとに続いた。


「ロラン、来る?」

 揃った面子に、リーナが目を輝かせて誰ともなく尋ねる。


 パーティを組んでいたときとまったく変わらず、みんな言いたいこと、訊きたいことを口にした。


「エル……あんたんとこ、大騒ぎなんでしょう? 近衛隊長だっけ? こんなところまで、わざわざ油を売りに来たってわけじゃないんでしょう?」


 机によりかかったアルメリアが、ゆるく腕を抱いてエルヴィに訊いた。


「近況を知りたいと思ったのは、嘘ではない」

「ということは、目的はちゃぁーんと別にあるってことですねぇ」


 相変わらず聡いセラフィンがソファに座ると、膝をぽんぽん、と叩く。リーナにここに座れ、と促しているが、リーナは気にせず、隣に腰かけた。


「ロラン、来る? 来る? アルちゃん、ちゃんと呼んだ?」

「呼んでないわよ。そもそもエルが今日来るってことも、セラを呼んでいるってことも、今日知ったんだもの」


 アルメリアが首を振ると、お気に入りらしいウサギのぬいぐるみをリーナがぎゅっと抱きしめた。


「ロラン……」

「その、ロランのことだ」


 自分の性格をよく知っているアルメリア、セラフィンだ。雰囲気で何かを察したらしい。

 二人の表情が、一瞬固くなった。

 きょとんとした顔で、リーナが尋ねた。


「ロランが、どうかした?」

「ロランに、同居人がいることは、知っているだろう」


 逡巡するような間があり、アルメリアが口を開いた。


「ええ。ライリーラでしょ。何度か会って話をしたことがあるわ」

「ロランが、どうして魔族の女性と屋根を共にしているのか、知っているか?」

「……何が言いたいのよ」


 おおよその答えはアルメリアの中にあったのだろう。探るような鈍い反応だった。


「ロランは、私たちを置き去りにし、魔王を単独で倒し、その後行方をくらませた」


 相槌を打つように、こくり、とリーナがうなずいた。


「でも、ロラン、生きてた」

「ああ。彼が死んだとは、私たちは誰も信じなかった。しばらくして、経歴や身分を隠しギルド職員として生活していることがわかった――」


 エルヴィがこれまでの経緯をまとめた。


「職員になっても、大活躍みたいですねぇ。ギルドマスターのタウロさんが、ずいぶん評価しているみたいですしぃ」

「勘のいいセラが気づかないとは、思えないのだが」

「さあ、何のことでしょう」


 にこりとセラフィンは笑顔を作った。


「まあいい。リーナはともかく、二人がどういうつもりでいるのかはわかった。……単刀直入に言おう。ロランと生活している魔族の彼女は、魔王だろう」


「……あ、そう」


 だから何、とでも言いたげなアルメリア。


「そうだったのですか~」


 と、嘘くさいリアクションをするセラフィン。


「私たちは魔王の……いや、結果的には魔王ではなかったが、ともかく偽装された死体を確認した。それが見つかってからは、魔族も魔王討伐が虚報ではないと知り、軍は退いた」


「ライリーラを見かけたときに、似てるなー? とはさすがに思ったわよ」

「どうしてそのときに――」

「魔力を感じられなかったから。じゃあもうそれは、『魔王』ではないわ」


 アルメリアの主張を同意するように、セラフィンも続いた。


「わたくしが持っていた首輪は、ロランさんが持っていました。まあ、壊れてしまったみたいですけれど。ロランさんが魔王を封じたとて、何の不思議もありません」


「それで合点がいった。先日、ロランの家を訪ねたときには、彼女は首輪をしていなかった」


 これはさすがに知らなかったのか、アルメリアもセラフィンも押し黙った。

 リーナだけは、頭上で交わされる会話についていけず、首をかしげていた。


「首輪の出所をロランさんは知りたがっていましたが……それで」


 セラフィンも納得がいったようだった。


「で、あんたはロランの同居人をどうしたいわけ。『ライリーラ』? それとも『魔王』?」

「私は……旅を通して、ロランとは少なからず信頼関係ができたと思っていた。それはみんなそうではないのか。なのに、どうしてロランは私たちを騙すような真似をして、魔王を……彼女を逃がしたのか」

「エルヴィさんは、不満なのですね。嘘をつかれたこと、何も言わず去ったこと、無力化したとはいえ魔王を逃がしたことが」


 エルヴィは、自分なりの正義の下、火種を消すことを考えていた。

 だが、セラフィンの言う通りなのかもしれない。


「もう無力化されていないのだ。それをこの前確認した」

「肩書きだけじゃなくて、もっとちゃんと見なさいよ、エル」


 窘めるようにアルメリアが言う。

 彼女とは境遇が似ていることもあり、すぐに仲良くなったことを、なぜか今思い出した。


「ライリーラのそばにロランがいる。これ以上ない抑止力よ。魔王だったのかもしれない――今となっては、たったそれだけのことよ」

「私は、ロランが何を考えているのかわからない。以前の彼ならあり得ないことだ。あそこまで人間を苦しめた魔族の王を、冷徹な彼がどうして見逃す。容姿や色香に惑わされたか? そんなロランではないだろう」


 ふふっ、と吹き出すようにセラフィンが笑う。


「ロランさんは女性を惑わす側ですからね~」

「あんたが納得できないっていうのは、わかったわ。……やめてよね、変な気を起こすの」

「何が変な気なものか!」


 口をついて出た言葉は、自分で思っているよりも大きく、リーナがびくっと肩をすくめた。


「エルちゃん、怒らないで……」

「すまない、リーナ。怒っているわけではないのだ」


 エルヴィはリーナの髪を撫でて、一度間を置いた。


「このことが万が一明るみになれば、我々勇者パーティは世界に嘘をついたことになる。偽物を倒したと公言した大嘘つきだ」


 エルヴィよりも先にアルメリアの口調が熱を帯びはじめた。


「でも戦争は終わったわ。それで十分じゃない。結果そうなっているのなら、真偽はどうだっていいわ」

「おまえはいつもロラン任せだな」

「違うわよ! 私たちが考えていることを、あのロランが考えてないわけないじゃない。もっと色んな可能性を考慮した遠謀遠慮があるんじゃないかって言ってんのよ!」

「その深謀遠慮とやらの果てに、もしロランが心変わりしていたらどうする。実際彼は変わっていただろう?」


 思い当たる節があるのか、アルメリアもセラフィンも何も言わない。


 再会をしたとき、柔らかい雰囲気になったと感じた。

 尖った刃物だったような彼の発する気配が、日差しのような暖かさがあった。

 いい変化だとそのときは思った。


「真面目バカ。放っておきなさいよ。だいたい、敵うわけないでしょ」

「アル、おまえは……そんなふうに思っていたのか? 私たちが挑んでも、敵うわけがないと?」

「違……そういうつもりじゃ――」


 熱くなる二人の会話についていけずとも、非常事態だというのを察したリーナの表情が怯えたものへ変わっていく。

 その頭をセラフィンが優しく撫でた。


「大丈夫ですよ、リーナさん。こんなの、いつものことだったじゃないですか」


 そう言って手を打った。


「はいはい。そこまでです」


 セラフィンとアルメリアの間に険悪な沈黙が流れると、セラフィンが言った。


「本人がいないところで言い合っても仕方ないでしょう。まずは、事実を確認すること。憶測や妄想は被害を広めるだけ……って、わたくしの知っているロランさんなら言いそうです」


 納得したアルメリアがうなずいた。


「言いそうね」

「ああ。セラ、事実を確認すると言うが、実際どうする」

「そんなの、決まってるじゃないですか」


 わかってかわからずか、リーナがぽつりとこぼした。


「ロランに会いたい……」


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