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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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内偵の職員2


 次の実技試験は何をすればCランクになれるだろう、と考えながら歩いていると、ガシッと試験官に腕を掴まれた。


「そうスタスタ先を行くなって」

「すみません」


 手順や流れがわかっていると、丁寧にしてくれる説明も無駄に感じてしまう。


「Cランクでいいのか?」

「はい。実技も、それくらいの力で調整するつもりです」

「何だ調整って……」


 目まいをこらえるかのように、試験官はこめかみを押さえた。


「魔法は? 何ができる」

「初級魔法をいくつか」

「中級以上は?」

「相性が悪いのか、どうにも上手く扱えず」

「魔力だけはあるが、魔法として消費することはできない、と?」

「魔族の魔法でいいのなら、使えます」


『シャドウ』を複数体出してみせると、個々を操りカウンターの上で踊らせてみせた。


「そっちのがすごいわ……ええい、座れ座れ!」


 実技は? と首をかしげる俺を試験官は元の席に着かせた。


「実技はいい。ていうか、今見た。……なんというか、そこらへんにいる平凡そうな兄さんのはずなのに、『人は見かけによらない』の典型例のように感じる」


 そうだろうかと思うが、試験官の経験則に基づく勘が働いたようだ。


「Cランクで冒険者をはじめたい理由があるんだったな。調整っつってたから、わかるぜ」

「……」

「ああ、いい、いい。これ以上は詮索しねえ」


 両手を挙げた試験官。話のわかる男でよかった。


「ソラン……あんたが何者かは訊かない。ここはかつて大貴族のモイサンデル家が治めた大都市だ。現領主の様子を探りに誰かしらやってきても、不思議はない」


 どうやら俺のことを、現領主の素行を調べるために派遣された調査員とでも思っているらしい。


「このギルドは長いですか」

「オレぁ、まあそこそこ。一〇年ほどか」


 長いな。

 であれば、長年やっている冒険者にも顔が利くだろう。


 ほいよ、と出来上がった冒険証を渡してくれた。

 ランクのところには、Cと刻まれている。


「オレの顔を潰すことはすんじゃねえぞ?」


 シシシ、といたずらっぽく笑い、ベシベシと俺の肩を叩いた。

 気のいい男だ。

 それからギルドの使い方を説明しようとしたので、俺は不要だと言って断っておいた。


「パーティに入ったり、誰かと組んでクエストをしたいんですが、僕を相手にしてくれそうな方っていらっしゃいませんか?」

「ソランは何ができるか未知数なんだよなぁ。さっき一応見たけど、あれじゃまだ情報不足だ」

「他には、幻覚を見せたり、魔力的な効果を解除したり――」

「ああ、もういい、もういい、腹いっぱいだ。珍しい魔族魔法使いってことにしとくか」


 今挙げた魔法だと、支援系の魔法使い……と思われるだろう。


 さらさら、と何かを書いた試験官。どうやら推薦状のようなものらしい。


「これをオーランドっつー冒険者に渡せ。バカみたいにでかい大剣を持ってるやつだ。そうすりゃ組んでくれるはずだぜ」

「ありがとうございます」


 もらった推薦状を懐に入れ、俺は試験官と握手をした。


「僕が魔族の手先で悪事を働こうとしていたらどうするんですか?」

「そんときゃ、おまえを殺してオレも死ぬ」


 カカカと喉の奥で愉快そうな笑い声をあげた。

 他人を信用するには早すぎると思うが、それがこの試験官の人間的な魅力なのかもしれない。


 三階をあとにして、中級以上の冒険者専用の窓口があるらしい二階へ下りた。


 すると、さっそく大剣を背に担ぐ冒険者を発見した。

 あれがオーランドか。


 報告をしに来たようで、証拠となる素材を渡し、鑑定待ちのため空いたソファに座ろうとしていた。


「オーランドさんですか?」


 華奢なせいか背負った大剣で体が見えず、後ろから声をかけると、ほとんど大剣に話しかけているのと同じだった。


 やがてこっちを振り返り、うなずいた。

 オーランド……名前からして男だと思ったが、女だったか。

 しかもエルフ。

 きょとんとした表情をしている。


「組んでくれる方を探していて。試験官の人に、これを渡せば組んでくれるかもしれない、と」


 推薦状を渡し、目を通すと驚いたように書面とこっちを何度も視線を往復させた。


「ダン、推薦……とおーっても、珍しい」

「そうでしたか」


 ダンというのがあの試験官の名前のようだ。


「新人さん、なのに、Cランク」

「はい」

「すごい」


 言葉は少ないが褒めてくれる。

 オーランドの冒険証を先ほどちらりと見たが、Sランクだった。

 もしかすると、このエルフがアイリス支部長の言っていた冒険者か?


「組む」

「ありがとうございます。精一杯がんばります」

「よろしく」


 俺の知っているエルフといえば、あの口やかましいおバカなエルフしか知らない。物静かなエルフもきちんといるらしい。


「オーランド・フェーグリーさん。鑑定が終わりました」


 職員から案内があり、オーランドが席を立ち報酬を受け取る。

 仕草のひとつひとつは軽快で、背に大剣なんてないかのような動きだ。


 すぐにオーランドが戻ってくるかと思ったが、なかなかカウンターから離れない。

 次のクエストを受けているのだろうと思ったが、納得いかなさそうな表情でこちらへ戻ってきた。


「どうかしましたか」

「報酬、提示された額より、少ない」


 話を聞くと、受けたのはBランククエスト。だが、三割ほど少ない額になったという。


「手数料、報告までの時間、それが減った理由」

「オーランドさんだけ?」

「たぶん」


 そう言ってオーランドはしょんぼりした。


 クエストの内容と掲示された本来の報酬額を訊いてみたが、おかしな点はない。

 アイリス支部長の話を聞いたときは冒険者の愚痴かと思ったが、ギルド側に問題がありそうだ。


「コンビ結成の、お祝い」


 何が言いたいのかわからず、ギルドを出ていくオーランドについていくと、食堂へやってきた。

 葡萄酒を中心に料理をたくさんオーランドは注文をした。

 親睦会のつもりのようだ。


 杯を手にすると、それを控えめにお互いぶつけ合った。


「これから、頑張ろう」

「はい」

「ワタシが、払う。安心して」

「いえ、出しますよ。このくらいは」

「嬉しい」


 俺のおごりだとわかるや否や、杯を空けるペースが増した。

 オーランドは色白の顔を赤らめて、ぷーっと膨れた。


「飲み仲間にも、文句、言ってる。ギルドの、ちょっとだけ偉い人」


 ギルドのちょっと偉い人というのに、思い当たる人物が一人いる。


「飲み仲間に言っても、仕方ないのでは?」

「そう。仕方ない。でも、なんとかするから、って言った」


 そして俺が今ここにいる、と。


「稼ぎが減るのなら、余所の町へ行けばいいんじゃないですか?」

「……余所、高ランククエスト、ほとんどない」


 それもそうか。

 大都市なら、様々な種類のクエストが集まる。

 俺がいるラハティ支部では、Bランククエストは、月に一度あるかどうかだ。

 話を聞いていくと、イーミルはBランク以上のクエストが週に二、三度はあるという。


 職員の暗黙の了解として、高ランク冒険者には低ランククエストを斡旋しないことになっている。Sランク冒険者には何かあったときにすぐ動いてもらう必要があるし、低ランク冒険者の仕事がなくなってしまうからだ。


 地道に情報を集めていく予定だったが、試験官のおかげで思わぬ情報源に辿り着けたな。


「誰の指示かはわかりませんが、調べたほうがいいでしょう。危険に身を晒して報酬を得る仕事です。誰かが掠め取っていいものではありません」



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