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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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適材適所


 翌日から、受付で各職員が信用のおける冒険者限定で、転職の斡旋をはじめた。


 怪訝な表情をする冒険者もいれば、遠回しに冒険者をやめろ、と言っているように聞こえて怒り出す者もいた。


 なるほど。怒り出す者は、低ランクであろうとも冒険者として誇りを持っているように思える。


 システムとしてまだまだはじめたばかりなので、マニュアルを変える必要がありそうだ。こういった案内は、積極的にしないほうがいいのかもしれない。


 ラビが一人でやってきた。

 防御特化のスキル持ちであるこの少女は、ベテラン冒険者であるニールとロジャーコンビと組ませており、最近は三人で活動をしていた。


 一人ということは、また何か揉めたな?


 年頃の一四、五の少女であるラビと三〇半ばのニールとでは、些細なことでよく摩擦が起きていた。


「ロラン、こんにちは」

「愚痴なら聞かないぞ」

「うっ、ち、違うもん」


 なら何だ? と俺は手元で書類仕事を進めながら尋ねた。


「ディーさん、何してるのかなって」

「ディーはクエストでしばらく戻らないぞ」


 ニール冒険者たちと組む前は、ラビはディーと組んでいた。夜は最強となる吸血族のディーは、逆に昼間はそこらへんの人間と変わらない戦闘力となるので、スキルの性質上、ラビとは相性もよかった。

 どうやらこの娘は、ディーを理想の女性とでも思っているらしく、何かあると所在を俺に訊いてきた。


「なぁんだ」


 スタイルもよく、お淑やか(に見えるらしい)なディーは、異性にも同性にも人気があった。


「何これ」


 ラビが、転職斡旋の案内を見つけた。


「冒険者をやめたあとの仕事を斡旋している」

「こんなことしてるんだ?」


 ……そういえば、他にできる仕事もなさそうだったので、ラビを冒険者にしたが、それはあくまでも仕方なくだ。スキルの有用性も冒険者に持って来いだったしな。

 だが本当は、何かやってみたいことでもあったのかもしれない。


「ラビ。もし、冒険者に嫌気がさしたのなら、別の仕事を斡旋してもいい。とはいえ、斡旋先は限られるが」


 この話が本決まりになり、受け入れ先を募ったところ、領主のバルデル卿が真っ先に手を挙げてくれた。それ以外だと、鍛冶屋、肉屋、農園主などが受け入れ先となった。


 待遇などの条件面も決して悪くはない。冒険者として培ったスキルを活かせる職場であることが前提なので、奴隷とは一線を画す労働力であることは先方に説明済みだ。


「領主様のところは……衛兵に、給仕、庭師……へえー」


 興味はあるが、本気では考えていないといった様子に見える。


 それから、ラビに近況を聞かされることになった。俺のことをいい話し相手だと思っているらしい。比較的空いているので、適当に相槌を打ちながら、俺は手元の仕事をすすめた。


「あの……」

「あ、いらっしゃーい」


 俺よりも早くラビが反応した。

 手元から顔を上げると、ラビの向こうには気弱そうなダークエルフの男が一人いた。


「クエスト? だったら、任せて!」

「おい、勝手に話を進めるな」


 ややこしくなるだろう。

 俺はラビを追い払い、向かいにダークエルフを座らせた。


「クエストでしょうか?」

「いえ……、あ、これです」


 転職斡旋の案内をダークエルフは指差した。

 ダークエルフなら覚えていないはずがないので、普段はここ以外を拠点にしている冒険者だろう。


「転職斡旋をご希望でしたか。それでしたら、ここを拠点にしてない方ですと、他の職員から紹介状が必要です。本日はお持ちでしょう?」

「はい、これを」


 筒状に巻かれた書状と冒険証を見せてくれた。


 名前はハンバード・ゲシュテンオルグ。Bランク冒険者。種族は、見たままだな。


「Bランク冒険者様でしたか。転職となると、一定期間以上は、斡旋先に勤めていただく必要があります。よろしいですか?」

「はい。大丈夫です。もう、辞めてもいいんです」


 もったいない、としか言えない。

 ダークエルフは、エルフ以上に珍しい種族だ。森を住処とするエルフと違い、ダークエルフは、場所を選ばない。人里離れた高山地帯や砂漠地帯など、おおよそ住処とするには過酷な地域で暮らすことが多い。

 編み出された種族独自の魔法は癖が強く独特そのもの。

 対人では対処が難しく、敵にいると吸血族並みに非常に厄介な種族だった。


「僕、あんまり、しゃべるのは、得意じゃなくて……」

「はい」

「この風体のせいで、みんなに怖がられ続けて……」

「奇異の目で見られるのは、承知の上だったのではないですか?」

「はい。最初は、強い、すごい、って言ってちやほやしてくれたんです。でもBランクにもなると、誰も話しかけてこなくなって……口数も多くなくて明るい性格でもないから……余計に」


 拠点としているギルドでよく見かける高ランク冒険者のダークエルフを想像してみる。

 口数が少ないとなると、好んで話しかける人間はまずいないだろうな。


 だが、ハンバードの性格は、紹介状にある。

 ――口下手で種族柄誤解されがちだが、勤勉で手先が器用。


 たとえ、冒険者を続けることが適材適所だとしても、本人が嫌になっているものを無理に続けさせたいとは思わない。


「パーティを組ませてほしくても、誰も僕とは……」

「誰かと仕事がしてみたい、ということですか?」

「それもあります。でも、一番は、この見た目です」


 見た目を気にしないでいい、か。

 それが劣等感に繋がっているようだ。


「こんな僕でも、平等に扱ってくれるところがいいんです」


 紹介状にある達成したクエストを見ていくと、ハンバードがどれだけ有能かわかる。

 具体的にどういう行動をとったのか、詳細が記されていた。

 これを書いた職員の、ハンバードに対する情のようなものが感じられる。

 冒険者として優秀なのはいいが、本人が辛そうにしているのを見ていられなかったんだろう。


「鍛冶屋はいかがでしょう?」

「鍛冶屋?」


 思ってもみなかった提案だったようで、ハンバードは首をかしげた。


「見学してみますか?」


 提案すると、戸惑いながらもうなずいた。





 ラハティの町外れに鍛冶屋の工房はある。


 ここで作られた物を工房で売っているものもあるし、町の武器屋で売られることもある。もしくは、武器商人が各地で売ることもあった。


「有名な、工房ですか?」

「そこまで知られていませんが、腕は確かです」


 工房の入口をノックすると、扉が開いた。

 中から眉間に皴を作った老人が出てきた。

 相変わらず機嫌が悪そうだ。


 ちらりと俺の後ろにいるハンバードに目をやった。


「転職斡旋の件です。見学だけさせていただいてもよろしいですか」

「……ああ」


 言葉数は少なく、案内するでもなく、ついてこいと言わんばかりに背を向けて行ってしまう。


「職員さん、大丈夫でしょうか。すごく怖そうな人です」

「ハンバードさんもそうなんですよ」

「え?」

「人は見た目で判断してしまいがちですから」


 自分の発言を恥じるように、すみません、とハンバードが小声で謝った。


 主人のあとを追いかけ、工房の中に入る。


「代わりに説明すると、刃物や刀剣類を主に扱っています」


 何も言わず、途中だった作業を開始する主人。

 黙々と手だけを動かしている。


 ほとんど客は工房に足を運ばないのだろう。売り物として置いてある武器は、埃をかぶっていた。


 思わずといった様子で、ハンバードが弓を手にする。

 気になったのか、一度手を止めて、主人がハンバードに目をやった。


「……」

「あんちゃん、弓、できるかい」

「え? 僕、ですか? 弓、できる?」


 俺が補足した。


「弓を作れるか、と主人が」

「ああ。ええ、それなら、もちろん」

「……材料はここにある。作ってみてくれるか」

「あ、はい」


 主人は、素材のいくつかを顎で示すと、ハンバードが手に取り、さっそく取りかかった。


 弓を得物とするニール冒険者が以前言っていた。


『あそこ、いい剣作るんですよ。けど、弓は微妙っつーか。修理もできなくて。オレのこれも、王都のほうに行ったときに買ったやつで、修理もよその町でやってるんです』


 作る剣が一流だからといって、同等の弓が作れるわけではない。

 武器の性能はもちろん、製作過程もまったく別物。


 最初、主人は斡旋を渋ったが、弓の話をすると、要望も多かったのだろう。

 案外すんなりと承知してくれた。


 色黒でもエルフはエルフ。手先が器用という紹介もまさしく本物で、ハンバードは手早く弓をひとつ作ってみせた。


「小回りが利く速射を目的としたものと、あとは……」


 早口で何かをしゃべりながら、手を動かしていくハンバード。専門的な用語もいくつかあり、ほとんど聞き取れない。


「こっちは強弓で、引ける人に限りがありますけど、射程が長くて一撃の威力も高いです」


 ふうん、と主人が唸る。

 ふたつを順番に手にして、弦の具合を確認した。


「……来たかったら来な」


 きょとんとしているハンバードに、俺は補足した。


「雇っても問題ないそうです。どうしますか?」

「いいんですか?」


 ハンバードが主人に尋ねると、無言のまま小さくうなずいた。


「じゃ、ぜ、是非お願いします!」


 細かい話は二人に任せて、俺は工房をあとにした。


 あの仕事なら、種族でどうこう言われることもないだろう。

 接する相手は、ハンバード以上に愛想のない主人だけだし、あれならハンバードはまだ可愛いものだろう。




「兄貴。武器屋で見かけたんですけど、ラハティ製の弓、なんかめちゃくちゃ良くなってて――」


 ハンバードが順調に仕事に馴染みはじめた頃だろう、ニール冒険者が世間話ついでに弓の話をした。


「あそこの職人さん、弓師としても成長したらしいです」


 ダークエルフが作っているとも知らずに、ワケ知り顔でそんなことを言った。


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